古城の主
妙なうめき声を上げて、アルベルトはベッドの柱に激突した。白目をむいて気絶している。
「すごいな。足蹴りだけで、こいつを気絶させるなんて」
感心したという表情で、シーズがベッドに近づいてくる。
「あんた見てたの!? 私のこと助けなさいよ!」
「助けただろ。体が動くようにしてやったし」
シーズは泥で汚れたつなぎのまま、アルベルトを担いで運びソファーに転がした。シーズはアルベルトより背が小さかったけれど、軽々と運んでいた。野良仕事で鍛えられているんだろうか。
「さて、ジュリア・ドゥナ」
シーズが、ベッドに座ったままのジュリアに近づいてきた。思わずジュリアは身構える。
「さっきのは仮契約だ。本当に俺と契約するか? 俺は嘘はつかないぜ。本当にあんたの願いを叶えてやる」
楽しそうに、シーズは笑う。
「『一生無敵』なんて、叶えてやれるのは俺くらいだ」
「あなた、アルベルト達とも契約をしているんじゃないの」
ジュリアは気絶しているアルベルトをちらっと見た。まだ起きてくる様子はない。
カラカラと乾いた声でシーズが笑った。髪をかきあげながら、ジュリアに背を向けて離れて行く。
「俺はドゥナ家の人間以外と、契約しない」
振り返った。
クリンクリンの金髪が、たちまち針のような白髪になった。白目は青白く、瞳は赤く変わる。日に焼けた肌を、手で剥ぎ取った。ジュリアと同じくらい、白い肌。
「アルベルト達は、ドゥナ家の人間じゃないの」
「ああ。城にコソコソ住み着いている吸血鬼さ。人が来ると俺を弟として紹介してるだけで」
「なるほどね」
もう、ジュリアは驚かなかった。こんな人里離れた不気味な城に居るくらいだ、どんな化け物であってもおかしくない。
「あなたは? あなたは何者よ」
ジュリアはベッドから降りて、真っ正面からシーズを見た。
一定の距離を置いて、二人とも動かない。
ややあって、シーズが動いた。
「知りたいか?」
ゆっくりと、ジュリアの方に近づいてくる。
「もう薄々気付いてるだろう?」
ひんやりと冷たいものが、ジュリアの首に触れた。よく研がれた、野良作業用のナタ。
シーズが、まるでジュリアを睨みつけるようにして、笑った。
「俺は悪魔。そして、この城の主だ」