酒場の笑い声
酒場のカウンターに、紅茶の湯気が静かに立ち上っていた。
夕陽の残光が窓から差し込み、グラスの縁を淡く染める。
ゲイルは火を熾したばかりの小さな炎を眺め、マリーの言葉を待っていた。
マリーが穏やかに、しかし確かな声で言った。
「ゲイルさん、紅茶を頂きたいです。お湯を沸かして頂いてもいいでしょうか?」
ゲイルは軽く笑い、肩をすくめた。
「あぁ、飲みながら話すのね。悪い悪い。気が聞かなかったな。」
彼は棚からやかんを取り出し、火にかけた。
小さな炎が、鍋の底を優しく舐めるように揺れる。
マリーは静かに、しかしはっきりと言った。
「その炎です」
ゲイルは手を止め、炎に視線を落とした。
「……ん?」
マリーは穏やかに続けた。
「ゲイルさん、その炎をよく見て下さい。炎の中心部の色は何色でしょうか?」
ゲイルは少し身を乗り出し、炎の芯を凝視した。
やがて、低く呟く。
「青……だな……」
マリーは頷き、優しく説明した。
「そうなんです。ケィティのイメージしている炎のイメージは外側の赤い部分の炎ではなくて、その中心部の青い部分の炎なんだそうです」
ゲイルは眉を上げ、興味深げに。
「ほうほう、だから火属性なのに、青いイメージをケィティは持ってたのか? それでそれで?」
マリーは静かに言葉を続けた。
「炎の温度は外側の赤い部分よりも、中心部の青い部分の方が高温なのです」
ゲイルは少し間を置き、ゆっくりと息を吐いた。
「中心部が高温……って、事はどういう事だ?」
マリーの声に、優しい確信が宿る。
「ケィティは、普通の火属性の術師よりも、強い火属性の資質を持っているらしいです」
ゲイルは目を細め、ケィティに視線を移した。
やがて、大きな声で笑った。
「あ〜、そういう事ね!? なんだ、じゃあお前もヘンテコリンの変り者じゃなかったって事か!? 良かったじゃねぇか!?」
ケィティは頰を赤らめ、照れくさそうに。
「……はい」
ゲイルは笑いを抑えきれず、続けた。
「それで? 火属性の資質が高いと、具体的にはどうなるんだ? リサはなんて言ってた?」
ケィティは静かに答えた。
「私の場合はマリーと違って、複数の概念を組み合わせる事は向いてないそうなんですね」
ゲイルは頷き、促す。
「……ふんふん」
ケィティは穏やかに続けた。
「でも私の場合は、火属性の魔法……例えば基礎魔法のファイヤーボールでも、一般の術師よりも威力が高い魔法になっているらしいです」
ゲイルは感心したように、軽く口笛を吹いた。
「なる程ね。なんか、案外お前の方が実戦的かも知れねぇな? マリーと違って、色々考える必要ねぇじゃん。ただファイヤーボール撃っておけばいいんだろ?」
マリーが少しむくれ顔で。
「あ〜! それ、リサさんにも言われました! 私使い熟すには発想力が必要だって!」
ゲイルは声を上げて笑った。
酒場の空気に、温かな響きが広がる。
「ハハハ! まぁまぁ、俺も依頼内容見て、何かお前の星空が生かせそうなの、考えておいてやるから、そんなカリカリするんじゃねぇよ。ほらよ、紅茶だ。」
彼は湯気の立つカップを二人に差し出した。
マリーは受け取り、軽く微笑んだ。
「フフ、ありがとうございます。絶対ですよ?」
ケィティもカップを手に取り、静かに。
「いただきます」
ゲイルはカウンターに肘をつき、二人を見ながら言った。
「いや〜、でもお前ら最初に見た時は、ヘンテコリンな服装の変り者だと思ったけど、俺も勉強になったよ。お前らのおかげで、俺も一つ賢くなった。」
マリーがからかうように。
「嘘だぁ」
ケィティも、くすくすと笑いながら。
「絶対、そんな事、思ってないでしょ?」
ゲイルは大げさに肩をすくめ、笑った。
「いやいや、本当本当。だって俺、毎日火を使って料理してるんだぜ? でも、青い炎の方が温度が高いなんて知らなかったもん。全部、お前らのおかげだよ」
三人の笑い声が、酒場に優しく響いた。
ほのぼのとした、柔らかな笑い声。
カウンターの向こうで、紅茶の湯気がゆっくりと立ち上り、
夕陽の最後の光が、三人の影を温かく包んでいた。
扉の外では、街の灯りが一つずつ点り始め、
新しい日常が、静かに、穏やかに続いていく。




