護衛の仕事と紹介状
数ヶ月が過ぎ、酒場の空気はさらに馴染んだものになっていた。
カウンターの木目は使い込まれ、
午後の光が差し込む窓辺には、常連の影が長く伸びる。
マリーとケィティは、もうこの場所の住人のように扉を開けた。
マリーが穏やかに声を掛けた。
「あの、こんにちは〜」
ケィティも、赤いマントを軽く直しながら。
「今日もよろしくお願いします」
ゲイルはグラスを拭く手を止め、二人の姿を一瞥した。
口元に、いつものような笑みが浮かぶ。
「おぉ、マリーとケィティ。頼みたい仕事あるんだけどいいか?」
マリーは少し身を乗り出し、尋ねた。
「あっ、どんなお仕事なんでしょうか?」
ゲイルは帳簿を軽く叩き、説明を始めた。
「王都までの荷運び護衛だ。最近、王都への道で魔物に襲われてるヤツもいるからな? それの護衛だ」
マリーの表情が曇る。
「えぇ……危険な仕事ですね……」
ケィティも、静かに。
「私達にはちょっと……」
ゲイルは短く息を吐き、言葉を続けた。
「いや、不安があるなら、取り分減るけど、ラファエルやダンクも一緒にやればいいだろ。2名の依頼だけど、こっちで4名回せるように調整してやるよ。だから、この仕事やれ」
マリーは少し間を置き、静かに尋ねた。
「あの……なんで、ゲイルさんは私達にこの仕事をやらせようとしてるんですか?」
ケィティも、視線をゲイルに合わせた。
「そうですよ。ラファエルさんとダンクさんの二人でもいいんじゃないですか?」
ゲイルはカウンターに肘をつき、二人をまっすぐ見つめた。
声は低く、しかし確かだった。
「俺は正直、仕事だけなら誰がやってもいいと思ってるんだよ。ただ、これは王都までの護衛だ。王都に行く機会があるんだ。お前ら、王都の魔法ギルドに顔出して来い」
マリーの瞳がわずかに揺れた。
「魔法ギルド……?」
ケィティも、首を傾げた。
「何しに行くんですか?」
ゲイルは棚から古い封筒を取り出し、ペンを走らせ始めた。
「お前らが最初に来た時に話しただろう。俺が魔法ギルドに紹介状書いてやるから、そこでお前らが複合属性かどうかのテスト受けて来い。この街じゃそういう属性解析は出来ねぇんだよ。王都みたいなデカい街じゃないとそれは出来ねぇ」
マリーは目を丸くした。
「えっ? ゲイルさんが紹介状書いてくれるんですか?」
ケィティの声が、わずかに震えた。
「ゲイルさん凄い……ありがとうございます……!」
ゲイルは紹介状を折り畳み、軽く肩をすくめた。
「別に感謝なんていらねぇよ。お前らが複合属性だった場合、俺も厄介な仕事頼めるから、俺が楽になるだけ。自分の為です。だから、とりあえず、この護衛の仕事受けてくれよ」
マリーは少し間を置き、ゆっくりと頷いた。
瞳に、決意のようなものが宿る。
「は、はい……! やってみます!」
ゲイルはグラスを棚に戻し、静かに息を吐いた。
カウンターの向こうで、午後の光が三人を柔らかく包んでいた。
外の通りでは、馬車の車輪が石畳を転がる音が遠く響き、
酒場の扉が静かに閉まる音が、物語の次のページを予感させた。




