意外な可能性
翌日の酒場は、朝の光が柔らかく差し込んでいた。
カウンターの埃が舞い、昨日の喧噪の残り香がまだ薄く残る。
マリーとケィティは新しい装いで入ってきた。
マリーの白いローブに黒いマントとスカーフが重なり、
ケィティの青い服に赤いマントが肩を覆う。
まだ違和感はあるが、昨日より少し堂々と見えた。
マリーがカウンターに近づき、控えめに声を掛けた。
「あの、こんにちは……」
ケィティも、赤いマントの裾を軽く直しながら。
「昨日はご迷惑をかけました……」
ゲイルはグラスを拭く手を止め、二人の姿を上から下まで眺めた。
口元に、満足げな笑みが浮かぶ。
「おぉ、昨日の嬢ちゃん達か? らしい服装になったじゃねぇか? 似合ってるぞ?」
マリーの頰がわずかに緩んだ。
「あ、ありがとうございます!」
ケィティも、静かに頭を下げた。
「本当に昨日は申し訳ありませんでした」
ゲイルは肩をすくめ、グラスを棚に戻した。
声はぶっきらぼうだが、どこか温かみがある。
「いいよいいよ。別にな? 普段は好きな服を着てればいいよ。寝間着まで、黒と赤に統一する必要はねぇ。そこは自分の好きな色を選べばいい。うちで仕事する時だけは、そういう色にしてくれると、俺も助かるよ。俺のカミさんは火属性使いだけど、寝間着は緑だしな?」
マリーは小さく頷き、決意を込めて答えた。
「は、はい。これから、ここに来る時はこの服装にさせてもらいます」
ケィティも、穏やかに。
「本当にありがとうございます」
ゲイルはカウンターに肘をつき、視線を二人に固定した。
少し声を落として、経験を語るように。
「ただ、嬢ちゃん達、俺の経験から言っておくぞ?」
マリーが素直に。
「はい」
ケィティも、興味深げに。
「なんでしょうか?」
ゲイルはゆっくり言葉を続けた。
「やっぱり、俺は何年も魔法使いの連中を見てるんだけど、それぞれ自分の属性に見合った色の服を無意識に選んでるんだな。火属性のヤツは赤。水属性のヤツは青みたいにな?」
マリーは静かに頷いた。
「はい」
ゲイルは軽く息を吐き、続けた。
「ただ、稀に嬢ちゃん達みたいに、自分の属性に見合ってないヘンテコリンな格好をしてるヤツが来るんだわ」
ケィティの肩がわずかに縮んだ。
「ご、ごめんなさい……」
ゲイルは首を振り、静かに否定した。
「いや、違う。そういうヤツらは複合属性の可能性があるんだ」
マリーの瞳が揺れた。
「……複合属性?」
ゲイルはマリーを指さし、穏やかに説明した。
「あぁ、そっちの闇属性のお嬢ちゃんは白い服を着ていただろう? だから、闇属性だけではなく、光属性の魔法の資質もある可能性がある。資質があるから、無意識に嬢ちゃんは白い服を好んでたんだ」
マリーは目を丸くした。
「そ、そうなんですか?」
ゲイルは今度はケィティに視線を移した。
「そっちの火属性のお姉ちゃんは、青い服を着ていた。これは水属性の資質がある可能性がある」
ケィティは少し考えて、納得したように頷いた。
「確かに……その話が本当だったら、私達の服装がチグハグだったのも、納得出来ますね」
ゲイルは肩をすくめ、軽く笑った。
「まぁ、あくまで可能性だぞ? お前らがただのヘンテコリンなヤツなだけって可能性も十分にある。ただ、もしもお前達が複合属性の人間だった場合だ。闇属性と光属性は反する物。火属性と水属性は反する物……みたいな先入観があるだろう? それを越えた可能性があるって事になるんだ」
マリーは静かに呟いた。
「確かに……」
ゲイルはカウンターから身を起こし、グラスを二つ取り出した。
声に、わずかな期待が混じる。
「もし、お前達がそういう複合属性使いなら、俺も厄介な仕事を回せるから助かるよ。まぁ、期待してるぜ? とりあえず、奢ってやるぜ。何か飲む?」
二人は顔を見合わせ、軽く微笑んだ。
カウンターの向こうで、朝の光がグラスに反射し、静かに揺れていた。
酒場の空気が、ほんの少し温かくなった気がした。




