黒と赤の買い物
薬草の香りがまだ指先に残っていた。
野原の午後の陽射しが肌を温め、摘み終えた袋がずっしりと重い。
マリーとケィティはギルドの受付で報酬の小銭を受け取り、
そのまま街の通りを歩き出した。
陽が傾き始め、建物の影が長く伸びる頃合いだった。
服屋の扉を押すと、鈴の音が軽やかに響いた。
店内は布地の匂いと、棚に並ぶ色とりどりの布が柔らかく混じり合っている。
カウンターの向こうで、ルーカスが顔を上げた。
穏やかな笑みが、すぐに好奇心に変わる。
「へい、らっしゃい。好きなの見ていってね?」
マリーは少し緊張した面持ちで、カウンターに近づいた。
掌に握った小銭の感触を確かめながら、静かに尋ねる。
「あの……こちらの金額で買える、黒いマントはありますか?」
ルーカスは棚を振り返り、黒い布地を一枚引き出した。
しかし、すぐに視線をマリーの白いローブに戻す。
「う〜ん……黒いマントはあるけど、お姉ちゃん、光魔法使いでしょ? なんで、黒いマントにするの? 他の色もあるよ?」
マリーは慌てて首を振った。
声が少し上ずる。
「あっ、いや、私、闇魔法使いです!」
ルーカスは目を丸くし、思わず身を乗り出した。
「えっ? お姉ちゃん、闇魔法使いなのに、なんでそんな白い服着てるの!?」
マリーは頰を赤らめ、視線を落とした。
やっぱり白い服だと、光魔法使いと勘違いされてしまうんだ……。
そんな思いが胸に込み上げ、言葉をゆっくりと紡ぐ。
「は、はい……実はそれで今日、トラブルになりまして……酒場のマスターさんから、しっかり闇魔法使いとわかるような服を買って来いと言われまして……」
ルーカスは納得したように頷き、軽く笑った。
「あ〜、あ〜、そういう事なのね。ゲイルさんらしいなぁ。でもなぁ? お姉ちゃん、白い服だろ? これ、黒いマントぐらいで闇魔法使いのイメージになるかなぁ?」
マリーの指が、無意識にローブの袖を握る。
「マントだけじゃ足りないですか?」
ルーカスは予算の額を聞き、帳簿に目を落とした。
少し考えてから、提案する。
「予算、どれくらい?」
マリーは小銭を差し出し、控えめに答えた。
「あの……予算は……これくらいあります……」
ルーカスは顎に手を当て、棚の奥を眺めた。
「う〜ん、困ったなぁ。うちも慈善事業じゃないからねぇ。ちょっと、マントの他にさ? スカーフとか軽い小物をつけてみる? そういうの加えたらなんとかなるんじゃない?」
マリーの表情がぱっと明るくなった。
「あっ、はい! それじゃあ、スカーフもお願いします」
ルーカスは黒いマントと、薄手の黒いスカーフをカウンターに広げた。
布地が柔らかく落ちる音が、店内に静かに響く。
ケィティも同じように、赤いマントとスカーフを見繕ってもらった。
外の通りでは、夕陽が建物の隙間を赤く染め始めていた。
二人は新しい装いを手に、店を出る。
まだ少しチグハグな影が、足元に長く伸びていた。




