二人の魔法使い
酒場の扉が軋む音が、午後の陽光とともに室内へ滑り込んだ。
埃っぽい光の筋が床に伸び、カウンターの木目を淡く照らす。
いつもの喧噪はまだ遠く、カウンターの向こうでゲイルがグラスを拭いていた。
扉の前に立った二人の若い女。
一人は白いローブを纏い、柔らかな布地が肩から優しく落ちている。マリー。
もう一人は青いマントを羽織り、裾が軽く揺れる。ケィティ。
二人の前に、鎧を纏った戦士が二人。
ラファエルは明るい笑みを浮かべ、声を張り上げた。
「あっ、そこの魔法使いの女の子二人いいかな? 俺達とパーティ組んで手伝ってくれない!?」
マリーは少し身を引くようにして、穏やかな声で返した。
「お仕事ですか? どんな内容ですか?」
ラファエルは勢いよく頷き、説明を始めた。
「少し、危険な仕事だけど、シャドウグールの討伐をしようと思ってるんだよ」
ケィティの眉が、わずかに寄る。
「シャドウグールですか……」
ラファエルは慌てて手を振った。
まるで空気を払うように。
「あ〜、あ〜、そんなビビらなくていい。基本的に攻撃担当は俺とダンクの二人でやるから。二人はフォローしてくれればいい」
隣のダンクが、短く頷く。
低い声が、酒場の空気に溶けた。
「うむ。結界魔法を張ってくれたり、傷の手当てをしてくれると助かるな」
マリーは目を丸くした。
指先が、無意識にローブの袖を握る。
「えっ? ちょっと待って下さい……私、結界魔法も回復魔法も使えないんですけど……」
ラファエルが首を傾げた。
好奇心と戸惑いが混じった表情。
「ん? 結界魔法も回復魔法を使えないの? 珍しいね? どんな魔法が得意なの?」
マリーは静かに、しかしはっきりと答えた。
「私は、生命力吸収とか……」
一瞬、酒場の空気が止まった。
「……え?」
ダンクの声が、重く響く。
「それ、闇魔法だよね?」
マリーは小さく頷いた。
「はい。私、闇魔法使いです」
ラファエルは目を見開き、思わず声を上げた。
「……は!?」
ダンクがマリーの白いローブを指さす。
その指先に、困惑が滲む。
「お前、なんでそんな服なんだよ!?」
マリーは少し困ったように、視線を落とした。
「ダメなんですか……?」
ラファエルは頭を抱え、声を荒げた。
「ダメに決まってんだろ!? あぁっ!? えっ? ちなみに、そっちの君は水魔法使いでいいよね?」
ケィティは静かに、しかし確かな声で答えた。
「私、火魔法使いです」
ラファエルは呆然と立ち尽くした。
やがて、深い溜息が漏れる。
「お前ら、いい加減にしろよ!?」
カウンターの向こうで、ゲイルがグラスを置く音がした。
拭き終わった布を肩にかけ、静かに見守る視線。
まだ何も言わない。
ただ、酒場の午後の光が、四人の影を長く伸ばしていた。




