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9.真相は瞳が語っている

9話目に来てくれてありがとうございます

「そうか。ならそこは譲ろう。あの娘はお前の好きにしろ。それで手打ちだ。」

 ステファノの言葉に僕は答えず、黙ったままステファノをじっと見る。

 「なあ、頼むよルチアーノ。全部ファミリーの未来を思ってやったことだ。わかってくれよな。」

 ステファノはギプスで固められた右手をこちらに差し出す。「こんな手で悪いが、仲直りだ。」

 本当かどうかはわからないが、今は確かめようがない。僕がためらっているとステファノは心から困ったような顔をして

 「ボスも全部知っている」と言ってうなずいた。

 置いてきたレーナの具合も心配だし、ステファノの言葉は父に確認すればいい。

 「…わかったよ」僕は杖から手を離し、ステファノに差し出した。


 「烈火砲」

 ステファノが呪文を唱えた瞬間、ギプスで固められた右腕の先が炎に包まれ、拳ほどの火の玉が僕めがけて飛び出し、突然のことでまったく対応できまかった僕の胸を直撃した。

 熱いというよりは強く胸を押されたような衝撃で呼吸ができなくなり、大きく口を開けたまま僕は吹っ飛んで背中からオリーブの木に激突した。視界が真っ暗になる。声が出ない。体が動かない。何が起こったんだ。ステファノと握手としようとしたら魔法で飛ばされた。あのギプスの中に別の杖を仕込んでいたのか。草を踏みしめる音が近づいてきて「すまんなルチアーノ」とステファノの声が聞こえた。

 「お前は信用できねえ。無能だがボスの息子だからな。」


 ぼんやりと視界が戻ってくる。ステファノの右手にはさっきまでのギプスは見当たらず、太くて長い旧式の杖が握られている。ステファノはその杖を僕に向けて見下ろしていた。

 「悪いがサヨナラだ。まあ三代目を継ぐなんて過酷な運命が終わると思えば、死ぬのも悪くはないぜ」

 僕はまったく状況を理解していなかった。さっきの魔法で胸と背中がひどく痛んで、なんだか悪夢の中にいるような倦怠感とものすごくよく聞こえる心臓の音に支配されていた。そんな僕を見てステファノは呆れたような声で笑った。

 「あんまり怖がらねえなルチアーノ。死ぬのは怖くねえか? まあ、もっとも、死んでるようなもんだったしな、お前は」 

かっと頭が熱くなる。突きつけられた杖の先が赤く発光していくのが見えた。

「じゃあな…烈火砲!」


 目の前で爆発が起こった。僕は、もたれていたオリーブの木に体全体を押し付けられたかと思ったら、木が耐えられなくなって根元から折れ、また飛ばされた。ざざざっと音がして僕はどこかの草の上を滑って止まった。まだ生きてるな、と一生懸命落ち着こうとして息を吸い、吐き、さっきのような衝撃を体に感じていないことに気づいた。ゆっくりと目を開けると、左腕で右腕をおさえて腰を落としているステファノが見えた。さっきまで持っていた杖はどこにも見当たらず、右腕はおかしな方向に曲がっているように見えた。

 何が起こったんだ?杖が暴発?魔法を失敗したのか?たかが烈火砲程度の魔法でそんなことがあるだろうか?ステファノが顔をしかめたままあたりを見回す。そして暗がりから現れた人影を見ると慄くような顔つきに変わった。「なぜだ…!!」


「くだらないことに手を出したな」

 父はいつもと変わらない厳しい顔だった。ステファノが僕に魔法を放つ直前に父が火球を撃ったのだろう。右手に持った杖をステファノに向けたまま、父は足を止めた。

「そんなにファミリーが嫌だったか」

「そ…そうじゃねえ」ステファノの声はさっきまでとは別人のように震えていた。

「あいつは殺し屋だった。俺はそれを知ってファミリーの危機の目を摘もうとしただけだ」

「ではなぜルチアーノを殺そうとした?」父は間髪入れず問い詰める。ステファノは僕のほうをちらりと見て、まだ生きていることを確かめたようだった。

「…ファミリーのためだ!」ステファノが声を荒げた。

「知ってるだろボス、うちが今この国で何て言われているか。臆病風に吹かれたオリーブ屋。殺し方を忘れたまがい物。小さな島で進化をやめた亀。このファミリーはもうどこからも恐れられていねえ。潰すにも値しない愚かなアリの巣だと!」

「では聞こう。ファミリーとはなんだ?」父は落ち着いている。

「なんだ、だと?」

「そうだ、我らは何のためにファミリーなのだ」

「…決まってるじゃねえか、誰よりも気高い心と、誰よりも強い魔法をこの国に知らしめ、恐れられ、敬われるためだ!」

「そうではない」父は目をつぶって小さく息を吐いた。

「ともに歩んできた男がそんな言葉しかつむげないとは残念だ。いいかステファノ」父はステファノをじっとにらんだ。その目は怒りに満ちているようでもあり、憐れんでいるようでもあった。

「我々は、我々を愛し信頼してくれる者たちを守るためにだけ存在する。」


 父の言葉は強く闇に響いた。僕もステファノも、その言葉に縛られたかのように動けなかった。

「…いつの話をしているんだ、ボス」ステファノが絞り出すように話し始めた。

「そんな時代じゃねえんだ。このままじゃいずれうちは滅びちまう。変わらなきゃいけねえんだよ!」  

「そのために私を殺し、自分が上に立つと?」

「な!?」驚いたステファノを見て、父は苦しそうにゆっくりと目をつぶり、ゆっくりと開けた。

「ドミニコが殺し屋だったことなど、彼自身から聞いている。」父の言葉は、小さな子供に言い聞かせるようにやさしく響く。

「初めて2人で話した時、彼は私に言ったのだ。もう戦いは嫌だ、誰かを殺して生きるのはたくさんだと。娘のために生きるために我々ファミリーを頼りこの島にのがれてきたと。私はそれを許した。彼を受け入れた。つまり、彼を守ると決めたのだ。」父の声は凛として自信に満ちていた。

「貴様はドミニコの過去を知り、自分のために利用できると踏んだのだろう。しかしそれこそ彼が忌み嫌い捨ててきた行為そのものだった。拒絶されたお前は口封じのために彼を殺そうとしたが、最初の魔法で仕留められず杖を折られた。何とか腕ずくで殺せたが、折れた杖を見失ってしまった。そこであたりにあったオリーブの落ち枝ごと全部かき集め、まるでそこにメッセージがあるかのように見せかけたんだろう。」


 それは僕が畑で思いついた筋書きと一緒だった。魔法の試技で怪我をしたなんて嘘だったのだろう。ただ、そのままでは何かの際に魔法の杖がないことがわかり怪しまれる可能性がある。だからステファノは怪我を装い、魔法が使えないふりをしたのだ。

「ボス、全部憶測じゃねえかよ。」ステファノは父にすがる。

「先代からの付き合いだ。俺がファミリーのことを誰よりも考えて、一緒に戦ってきたのはボスが一番知ってるはずだ。」

「お前、最近鏡を見ているか?」父の声はさっきより冷たい。

「は?」

「一緒に戦って、何度も見てきたはずだ。裏切者たちの最後を。今のお前は、やつらと同じ目をしているぞ」そう言った父の目は、もはや何も迷っていなかった。

伊藤潤二も好きです。最近キティちゃんとのコラボガチャが出ました!

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