6.魔法を見せたことにお礼を言われる
6話目に来てくれてありがとうございます
「靴職人じゃなかったの?」
「靴?何その話」
デュランダの間で聞いた話とは全然違う情報だ。どうやらファミリーは偽の情報をつかまされていたようだ。どうしてこんな話を知らなかったのだろう。それとも何か理由があるんだろうか。ファミリーがドミニコさんの正体を知らなかった理由が。
「杖…って。自分で作るんじゃないの?」
「ここじゃそれが当然みたいね。でも本土のほうじゃ最近は、杖職人がその人の使う魔法の趣向とかに合わせて作ってあげることが多いの。」
「自分で作らないとだめなんだって思ってた。」
「そのほうが、きっと最終的にはいいんだろうと思う。自分で削ることで杖自身も持ち主を意識するっていうし、発動する魔法の力にも影響は少なからずあると思う。」
「そう言われてるよ。」
「でも、最近はファミリーの抗争もけっこう激しいし、杖が折れることも多くて、そのたびに自分で削るのが面倒になっているみたいで。だったら消耗品として、少しくらい威力が落ちてもいいから腕のいい職人に削ってもらうほうがいいって」
レーナはいつの間にか専門家みたいな口調になっていた。そのきびきびした話し方に気圧されながらも、側のオリーブの枝を撫でている彼女の指が白くて細いことに僕の目は奪われていた。
「私の父は、とても腕が良かったの。でも、そのせいでファミリーの抗争に巻き込まれて、私も危険な目に合うようになったし、うんざりしてこの島に逃げてきたの」
「僕の父は、それを?」
「もちろん。この島に来た時に一番初めに挨拶に行ったわ。自分がしてたことも、それをやめた訳も。ボス・サルヴァトーレは全部受け入れて、心配ないと言ってくれた。そして、もう杖を作る必要はないって。父も喜んでたの。きっと素敵な故郷になるぞって、私に笑って……なのに…」
レーナの顔がくしゃっとゆがんで、それを隠すように彼女は両手で顔を覆ったので、また僕は待たなきゃならなくなった。
ドミニコ親子にそんな過去があったなんて思いもしなかった。もちろん僕も何者かを詮索しようなんて思わなかったけど、父は全て隠して受け入れたってわけだ。この間のデュランダの間でも、そんな話は一切出なかった。さすがだよ、ボス。自分の父の仕事を心から尊敬した。嘘じゃない。そういうことができないと、多分この島をまとめる事なんてできないんだ。
「大丈夫…?」
しびれを切らした僕の、心のこもっていない言葉でレーナはようやく顔を上げた。目のあたりを腕で拭うと、思いがけないことを口にした。
「私、自分でも手がかりを探そうと思ってる。」
「手がかり…て、犯人…の?」
「あなたたちファミリーが犯人を探してくれて当然なんて思ってないから。ファミリーの人に話を聞かれたけど、父が間諜だったんじゃないかって疑いをかけられているみたいで、それが我慢できないの。父はそんな人じゃない。絶対に。」
僕は…正直ほっとしていた。話の流れからしても、もっと頼られたらどうしようって思っていた。
「僕は信じるよ。お父さんが間諜じゃないって。でも…危ないことをしないほうがいいよ。犯人は危険な人だから」
「わかってる。信じてもらえたのは初めて。ありがとう」
しっかりとお礼を言われて、逆に僕は自分の言葉がすごく薄っぺらかったことが恥ずかしくなった。「じゃあ」と去ろうとすると、レーナは、ちょっと待って、と僕を呼び止めた。
「…この間は、魔法を見せてくれてありがとう。とてもすごくて、面白かった。私、初めて見たの。父は魔法が使えなかったから」
レーナは頭をぺこりと下げると、僕の目をまっすぐ見て言った。
「ほんとはそのお礼が言いたくて待ってたの。よかったらまた見せて。」
家に向かう道すがら、僕はレーナのために何ができるか考えていた。レーナは最後まで笑ってはくれなかったけれど、特別な関係になった気になっていた。とにかくドミニコさんの間諜疑惑は晴らしてあげたい。彼の本当の過去をきちんと話せばファミリーのみんなに伝わるはずだと思った。僕の考えはとても素晴らしいものに思えたし、父を見返すこともできるかもしれないという小さな野心もあった。僕は家への坂道を登りながら、初めて信じてもらえたというレーナの安心したような顔を思い出していた。すごくわかる気がする。僕も今日、初めて人にすごいと言われたから。
それから1週間ほどは、何事もなく過ごした。父のもとには毎日のように部下が訪れ、何やら話しこんでは帰っていった。レーナのお父さんのこともあるだろうけど、何だか島の外も最近キナ臭いようで、上手くいっていない取引もあるようだ。
僕はと言えば、魔法の勉強と散歩くらいしかすることがなかった。魔法というのは杖に込めた魔力と自分の体の中で錬成させた魔力をうまく融合させなくてはいけないので、たとえ練習といえどもすごく疲れる。なるべく簡単に少しの魔力錬成で大きな魔法を成功させるためには自分の体に自然な流れを作るしか方法がないって言われてて、ベルナルドなんかは「魔法を自分になじませる」って言い方をする。なじめばなじむ分だけ威力は増すので、大魔法使いがほとんど老人なのも納得がいく。
夜になると体に力が入らなくて倒れるように寝る日も多かったが、レーナとの約束に刺激されていた僕は、疲れを心地よく感じていた。張り切って魔法の練習をする僕を、妹だけは気持ち悪く感じたのか、「やけになったってお父様は喜ばないんじゃないの」なんて忠告してくれたけど。
デュランダの間に再び幹部が集合したのは、事件から10日後のことだった。
ムッシュ・ムニエルが好きです。




