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42.森は静けさを取り戻す

42話に来てくれてありがとうございます

 誰も口を開かないまま、倒れたままのピエトロを見守る時間が過ぎた。

「終わった…?」

 僕が小さくそうつぶやくと父は大きく息を吐き、ゆっくりと振り向いてファミリーのみんなに告げた。

「終わったぞ」


 ボス!とみんなが駆け寄る。その直後。父は全身の糸が切れたように崩れ落ち床に倒れた。父の右腕があった肩の傷口は氷が解け始めていて、にじみ出る血と混ざりあった水がぽたぽたと床に零れ落ちた。

 「無茶しやがって」

 ベルナルドが傷を見て舌打ちし毒づいた。

「血が足りねえんだ。このままじゃまずい。すぐに医者に連れていくぞ」

 ベルナルドは立ち上がり、部屋の家具に杖を向けると次々に小さな竜巻を起こして破壊していった。意図を察したミケーレが壁にかかっていたタペストリーを集めに走る。誰かが車を用意しに部屋を飛び出していく。ベルナルドはばらばらになった箪笥や机のなかから長い木材を2本選んで床に置くと、タペストリーを巻き付けて簡易的な担架を作り上げた。ゆっくりと父の体を乗せ、外に運び出す。すっかり霧が晴れ、誰もいなくなった城の門の前で車に父を乗せると、指示を受けた者たちは猛烈な勢いで山を降りていった。


 城門の前に残されたのは僕とレーナ、アリアンナ、ベルナルド、そしてすっかり疲れ果てて休んでいたカロジョロ。さっきまでの大騒ぎが嘘だったかのように鳥の鳴き声も聞こえない森に囲まれて、僕はまだ夢の中にいるかのようにすべてを受け止められないでいた。


「大丈夫、助かるよ」

 ベルナルドが自分にも言い聞かせるように言う。心配そうで泣きそうな顔のアリアンナと目が合って僕は目をそらしてしまった。僕を守るために父は右腕を犠牲にした。僕の目の前で父の右腕は砕け散った。目に焼き付いた光景を振り払いたくて僕は激しく頭を左右に振る。全部本当のことだった。「くそう!!」思わず声が出た。

「お前のせいじゃない。誰のためであってもボスは同じことをしただろう。むしろ、お前がいなければうまくいかなかった。」

「でも」

「いいことを教えてやろう。」いつの間にかそばにいたカロジョロが、しわだらけの手で僕の肩をつかんで顔を近づけた。

「お前の間違いで起こったことなら反省すればいい。後悔したっていい。けれど避けられなかったことまで背負うべきじゃあない。それをしていいのは、しなければいかんのはファミリーのボスだけだ。いいかルチアーノ、自分を責めるな。むしろ守られたこと、そして守られただけの仕事をしたことを誇りに思え。そしてこれから、守られた男としての価値を証明していけばいいんだ。」


 そうかもしれない。きっとそうなんだろう。けれど。僕はやり場のない気持ちを何とか鎮めたくて思いっきり首を振りながら座り込んだ。

「ベルナルド、カモメの牙は本当にもういない?」レーナが不安そうに尋ねる。

「とりあえずこの城にはもう誰も。逃げたやつもいると思うけど、ボスが死んだからって復讐を考えるような気概のあるやつはいないだろう。新しいファミリーは逆境に弱い。絆がないからな。」

「…!ロッソは?」

 僕は唐突に思い出した。父のいた広間に飛び込んだあの時、レーナに突き飛ばされた後からロッソを見た記憶がない。

「いなくなっちまった。まさかあいつが裏切ってたとは想像できなかったな。ステファノを慕ってるうちに余計なところまで感化されちまったんだろうが…もう戻っては来れないだろうし、どうするんだか。」


 ため息を吐くベルナルド。思えば船の上でロッソが唐突に言い出したベルナルドへの疑惑も、自分が裏切ってたことを隠すためだったのか。それとも自分の決断を言いたくてたまらなくてほのめかしていたのか。同じファミリーの下っ端として気兼ねなく会話をしてくれたロッソ。この先もずっと一緒にやっていくと思っていたのに。

「ともあれこれで全部終わったよ。無事でよかったな、アリアンナ。」

「無事じゃない。」アリアンナが不安を吹き飛ばすように口調を強くする。「お風呂に入ってないから、体が臭くてたまらないんだけど。」眉間にしわを寄せて、胸元をつまんでパサパサと風を送るアリアンナはいつも通りに強がっている。

「そのくらいで済んでよかったよ。拷問でもされていたらと心配したんだぜ?」

「私にすぐ魔法薬草を作らせる気だったならそうしてたのかもしれない。きっとコルレオ・ファミリーを潰してからでもいいと思ってたんじゃない? つまり負けるなんて考えてなかったの。愚かすぎ。」

「まあ、経験の差だな。」ベルナルドは苦笑して、そばにいたレーナの頭をポンポンと叩く。「頑張ったな」


 レーナは黙ったままコクンとうなづく。「本当に頑張ったよ」とベルナルドはレーナの頭を鷲掴みにして、髪がくしゃくしゃになるほどなでる。レーナは振り払おうと身をよじるけれど、ベルナルドはやめない。逃げようとするレーナの髪を両手でかき回していたベルナルドは、最後はレーナに突き飛ばされておどけるように僕のそばに倒れこんだ。

 座ったままじっと地面を見て動かない僕に気付いていたのか、ベルナルドは僕の足をつついて反応をうかがう。何も言わず足をどかして無視しようとする僕に、彼は優しく微笑んだ。「怖かったか?」

「怖かったよ。」僕は即答する。

「そうか。堂々としていたぞ」

「してないよ。ずっと怖かったよ」と返したところから僕の心の叫びが止まらなくなった。

「最初っから全部だよ。気球に乗るところから。気球から屋根に降りるのも、明かり取りから部屋に飛び降りたのも、いきなり現れた大男を倒したのだってどうして上手くいったのかわからない。あいつが死んだかどうかなんて考えたくもなかった。最後の部屋に飛び込んだ時のことも全然覚えてない。何から何まで無我夢中。ピエトロが撃った炎がどんどん大きくなってきたのも夢を見てるみたいだった。今、生きてるのだって嘘みたいだ……でも。」

 僕は大きく息を吐いた「みんな、無事でよかった。ボス以外は。」


 そう言ったとたん目頭がじわっと熱くなって涙が止まらなくなった。

「馬鹿野郎、大丈夫だって。言っただろう。」ベルナルドが近寄ってきて僕を無理やり立たせ、抱きしめる。「お前のおかげでみんな助かった。」

 「そうだよ、ルチアーノがいなければ私は助からなかったんだから。」アリアンナも僕を励ます。「かっこよかったよ、ルチアーノ。」

「そうだよ。かっこよかったよルチアーノ。」レーナも言葉をかけてくれる。

「かっこよかったよ、ルチアーノ。」ベルナルドまで裏声でそう言って笑わせようとしたけれど、僕の涙がますます流れるだけだった。

イモリを飼っています

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