40.カモメを追いつめる
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ピエイロはすぐに物音がしたほうを振り向いて杖を向けた。
「誰ですか? 姿を見せないとそのまま死にますよ」
最高の舞台を邪魔されたピエイロが苛立たしそうに言い放つと、部屋の奥に置かれているテーブルの向こうから黒髪の女の子がゆっくりと顔をのぞかせた。
「…?あなたは確か…」
ピエイロがレーナのほうへ一歩足を踏み出したと同時に、最初にグレコが広間に入ってきた入り口に回り込んでいた僕は勢いよく部屋の中へ走りこんだ。
「火球っっ!!!」
僕の杖がオレンジ色に輝き、火の玉がほとばしりピエイロに向かって飛んでいく。足音に気付いて再び振り返ったピエイロは防御が間に合わず、反射的に出した右手を火球が直撃した。右手は炎に包まれ、杖が弾き飛ばされる。
「ピエイロさん!」
驚くロッシに、僕もまた驚いていた。お前、なんでそこにいるんだよ、と。理解できなくて戸惑う僕と違って、レーナは躊躇なくロッシに向かって走り出す。気づいたロッシが慌てて杖を構えてレーナに向ける。
「来いよ!お前が魔法を使えるのは知ってるんだ!やってみろよ!跳ね返してやる!」
けれどレーナは杖を手に待たないままロッシめがけてとびかかり、強く握りしめた右手でロッシの頬を思い切り殴りつけた。
「…魔法じゃ…ないのかよ…」
ロッシは吹っ飛んで床に倒れこむ。僕は父とピエイロの間に入るように立ち、杖を構えた。ロッシを殴ったレーナは父の後ろに回り、肩を貸す。
「ボス!大丈夫ですか!?」
「来たな秘密兵器。ベルナルドはどうした?」父が顔をしかめて立ち上がる。
「気球が襲われて…森に…」
「なるほど。ルチアーノ、ほかの状況はわかるか」
僕は背中で、いつもより呼吸が荒い父の声を聞く。もっとも僕も今さっき決行した奇襲の興奮が冷めず、大きく息をして気持ちを落ち着かせていた。
「みんなのことは何もわからない。庭からの攻撃で気球は落ちたから、みんなが中に入った後で外から攻められてるんだと思う。でもアリアンナは見つけたよ」
僕の後から広間に入ってきたアリアンナは、父の凍った右腕を目の当たりにして体をこわばらせていた。首を軽くひねってアリアンナを目を合わせた父は優しく微笑んで小さくうなずいた。
「無事でよかった」
「ありがとうお父さん。」アリアンナの目に涙がたまる。
「面倒な親子ですね」
右手の炎を必死に消していたピエイロが、今までとは全く違う低い声色で僕たちをにらんだ。その目に余裕は全くなく、憎悪を凝縮させた視線を僕らに向けて放っている。ひとを本気で殺そうとしている人間の放つまがまがしさを押し返すように、僕は杖を握りしめて歯を食いしばり、いつでも魔法を放てるよう準備する。
「終わりだ、ピエイロ。我々の仲間の声が聞こえないと貴様はさっき言ったが、カモメの鳴き声もまた聞こえない。牙はもはや折れ、翼は羽ばたくことすらできぬ。あきらめろ」
父がそう告げた時、足音が近づいてくるのが聞こえた。ピエイロは気づいてニヤリと笑うが、広間に入ってきた面々を見て笑顔は凍り付いた。互いに肩を貸しあうトンマーゾとマッテオが足を引きずりながら近づいてくる。ミケーレとメノッティ、レオルーカ兄弟は雨の中を行軍してきたように濡れそぼり消耗している。そして大きく伸びをして首を回しながらベルナルドが最後に現れた。アリアンナとレーナがベルナルドに駆け寄り、腰に抱き着く。ベルナルドは2人の背中を確かめるようにしっかりと引き寄せた。
「完了です、ボス。疲れましたが全員無事です」
ベルナルドの言葉に父は「よし」と小さく頷いた。
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