4.妹が僕を分析する
また来てくれてありがとうございます。
みんなが帰ってしまうまで待って、僕はひとりでデュランダの間を出た。今日はもうこのスーツを着ていたくないし、自分の部屋に閉じこもってゆっくり魔法の本でも読んでいたいと思った。
家の3階にある僕の部屋に向かうには螺旋状の階段をぐるぐると登らなければならない。その階段の途中に妹が座っていた。こいつは何でこんなところにいるんだ。今朝のハーブのことを怒られるのか? 一瞬驚いて立ち止まったことを気づかれたらかっこ悪いと思いつつ目を合わせないようにして側を通り過ぎると、後ろから声をかけられた。
「今日も?」
何だよ、今日もって。僕は無視しようと思ったけれど「ずっと言いたかったんだけど。」と続けられ、思わず振り返ってしまった。
「あんまりつまんなさそうに生きないでよね。」
さすがファミリーのボスの娘だ。何という、ぶしつけな態度。妹は立ち上がってこっちをにらんでいた。圧倒的に面倒くさい雰囲気だったけど、こうなったら妹からは絶対に逃げられない。
「つまんなさそう…って何?」
「こんな家なんてつまんなくてしょうがないって顔してるじゃない。いっつもいっつもいっつも。背負いたくないでしょ?ファミリーなんて。みんなを面倒な掟で縛って、命を懸けて戦わせて、戦って。そのうち人殺しだってしなきゃいけないかも。そうやって、しなきゃいけないこと、しちゃいけないことばっかり増えてくんだもん。」
出た。アリアンナの分析はいつだってあまりにも断定的すぎて、僕がそんなことをちっとも思っていなくても、まるでずっとそう思っていたかのような気分にさせられる。
「まあ、私は女だし、背負いたくても背負う立場にはないから関係ないんだけど、ルチアーノがそんな顔ばっかりしてると面白くないわけ。」
「勝手だろ、そんなの」
僕はこんな話を聞いていたくはなくて無愛想な返事をしたけど、そんなことを察して会話を終わらせる妹ではない。
「そう、勝手なんだよね、私もルチアーノも。」
少しだけ深い息を吐いて妹は続ける。「けど、考えるんだよ、もし私がルチアーノの立場だったらどうしよう、とか。」
そんなこと考えたって意味ないだろ、ホントに勝手だよ。勝手という部分ならお前のほうが10倍も勝手だ。心の中だけで言ってやる。僕は妹の口元だけを見ている。
「ほんとは自分は悪くないって思ってるでしょ。」アリアンナの口元が笑ったように見えた。「もしそうなら、まだまだ足りないものがあるってことね、きっと」
僕は何も言い返さないことで、お前の言ってること全部が合っているわけじゃないって雰囲気を作ってみたんだけど、そんな風に妹が感じてくれたかどうかは知らない。
アリアンナはまた小さく息を吐いて「ちなみに私は最近楽しいから。ルチアーノも楽しいことができるといいね。」と残して階段を下りていった。なんだそりゃ。僕はいろんな人にため息をつかせている。
予定通り部屋で魔法書を広げていろんなことを忘れようと思ったけれど、全く集中できずにすぐやめた。何だかもう家に自分の居場所がないような気になって、気分を晴らしに家を出た。結局スーツは着たままだ。とはいえ、ブラブラすれば娯楽が転がっているような島ではない。なにしろ半分はオリーブ畑だ。4割は森。1割が人の住むところ。港まで行って古着屋でも雑貨屋でも覗いて時間を潰すことも考えたけれど、僕に対する島のみんなの態度で自分がボスの息子だということを改めて思い知らされるのは、今日は特に避けたかった。僕はなんでこんな家に生まれたんだろうと、生まれてから一万回くらい思ったことをまた思う。
コルリオファミリーがこの島に来たのは、今から100年ほど前。もともとは本土で薬草の仲介をしていた曾祖父たちは、度重なる縄張り争いと裏切りに嫌気がさし、20人ほどで当時まだほとんど人が住んでいなかったこのコルリオ島に移り住んだ。
本土から一番遠いこの島を選んだのは、交通的にも政治的にも、本土のマフィアたちの抗争とは全く無縁であったためだという。曾祖父たちはまず島を開墾しできるだけたくさんのオリーブの木を植え、今まで人から人へ受け渡すだけだった商品を自分たちの手で作り出すことを始めた。それとともに、それまで各家庭でささやかに女性たちによって行われていた魔法薬草の調合を、一部の女たちを薬草の研究に専念させることで商品の域に高めた。
発火薬、治療薬、睡眠薬、痛み止め、冷却薬、電解薬、幻覚を見せる薬、感覚を研ぎ澄ませる薬、その他魔法の効果を上げる様々な薬。どのファミリーよりも質のいい魔法薬草は、そのまま男たちの魔法の威力の増大にもつながり、コルリオファミリーは戦わずして国内でも凄腕の一家として一目置かれるようになったという。
それでも曾祖父、そして父に至るまで、ファミリーは縄張りの強引な拡大にはあまり積極的ではなく、ファミリーと島の住人の生活を安定させることにその力を使ってきたため、本土のファミリーとの抗争はこの40年ほとんどない、と聞かされている。まあ、実際は裏でどんな取引きが行われたかなんて知らないし、僕には知りようもない。
小さなころからくせになっている、”杖にしたらかっこよさそうなオリーブの枝探し”をするために、適当なオリーブ畑に入った。コルレオファミリーの杖はオリーブ製と決まっていて、普通は折れるまで何年でも使う。僕の杖“アルゴ”は去年新調したばかりだし、たいした魔法を使いこなせない僕には新しい杖なんて必要ないのだけれど、癖なんだからしょうがない。
さまざまな形の枝を見定めまがらずっと上を向いて歩いていたら首が疲れてきて、ふと顔を戻したら目の前に知らない女の子が立っていて僕は「うわっ」って声を上げて尻もちをついてしまった。
モヤモヤした主人公でホントすみません。でも、中学生くらいってこんなもんじゃないですか。




