39.大広間は凍り付く
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こちらは城の2階へ上がったボス・グレコ。
ロッシを背中に守りながら腰を落として奥へ進んでいく。装飾が施されたひときわ立派な木製の扉を見つけ、杖を構えたままゆっくりと開ける。そこは1階の広間よりもさらに大きな、車が十台は並べられそうな部屋。ゴシック調の調度品が部屋を囲むように置かれていて、部屋の真ん中には光沢のある皮張りの長椅子。そしてカモメの牙のボス・ピエイロがその椅子に深く腰掛けていた。
「遅かったですねボス・グレコ」
ピエイロは座ったまま笑みを浮かべ、杖で左手のひらを叩いて拍手の真似をした。グレコは姿勢を崩さずゆっくりと部屋に入り、ロッシを後ろ手で招き入れると扉を閉めた。ロッシが「ボス…」と何か言いかけたが、グレコは「心配ない」と自分に言い聞かせるように返す。憎しみを押し殺すように眉間にしわを寄せ、グレコは刺すような視線をピエイロに向けた。
「アリアンナはどこにいる」
「さて、どこでしょうか」ピエイロはグレコの怒気を受け流すように首をひねった。
「しかし本当にわざわざ取り戻しに来るとは。よほどファミリーの強さに自信があると見えます。お仲間はどちらに?」
グレコはピエイロをにらみつけたまま答えない。
「ここにたどり着いているのが2人だけということから考えても、我々の対応も有効だったということでしょうか。そうそう、塔の上に現れた気球は森のほうへ飛ばされたそうですよ。ご存じでしたか?」
「ルチアーノが!?」ロッシが声を上げるが、グレコはちらっと目をやって落ち着くように制する。
「娘はどこだ」グレコはもう一度問う。
「そもそも娘を人質に取られているところに攻め込んでいるのです。盾にされたら何もできなくなるのはわかっていたこと。娘を思うがあまりファミリーを危険にさらすなんて、とてもボスの器とは思えませんね。それとも賭けましたか、味方の頑張りとありえない幸運が続くことに?」
「このやろう!!」
ふいにロッシが杖を振り上げて、ピエイロのほうに駆け出した。ピエイロはニヤリと笑って杖をロッシに向けた。放たれた氷の矢がロッシの胸に刺さる直前、グレコがロッシを後ろから抱きかかえ体をひねった。氷の矢はグレコの背中に突き刺さる。
「……っ!!」
顔をゆがませるグレコの腕に中でロッシが「すみません」と小さくつぶやく。グレコは小さく首を振り、ゆっくりと体を起こし杖をピエイロに向けた。
「お前はコルレオ・ファミリーをなめている。私ではなく、ファミリーを。私が家族を無理やり危険にさらす? いかにも自分が有能だと勘違いしている男が言いそうな妄言だ。」
グレコの言葉を聞いていたピエイロは途中から顔をゆがませて歯を食いしばっていたが、発言が終わると同時に耐えきれなくなったかのように腹を抱えて笑い始めた。ひとしきり笑い終わると大きく息を吐き、ゆがんだ笑顔をグレコに向けた。
「ファミリーが強い?ファミリーをなめるな?それがあなたの、あんたのかっこつけた自信の理由か。だとしたら、間違っているのはあんたのほうだよ、なあロッシくん」
突然ロッシの名が出てきてグレコは眉をひそめた。抱えていたロッシに目を向けると、ロッシは申し訳なさそうな顔でグレコを見返してきた。
「すみません…ボス」
グレコの右腕に激痛が走った。抱えていたロッシを放して膝をつき、右腕を見ると脇から下が完全に凍っている。隣に立っているロッシは杖を構えたまま、泣きそうな薄ら笑いを浮かべていた。
「俺、ステファノさんにあこがれてたんです。強くなりたいし、力を持ちたい。でもコルレオじゃそれができないんです」
ロッシの口から出てきたのは、レーナの父親を殺しファミリーを裏切ろうとした男の名前だった。そうか、そこからすでに始まっていたのか、とグレコは苦痛に顔をゆがませながらもロッシから目を離さず小さくつぶやいた。
「お前に強さとは何かを教えてやれなかった私の未熟さゆえだな。」
グレコは落とした杖を左手で拾い、右腕をだらりとさせながら立ち上がる。「すまなかったな」
「……!」
力強くロッシを見据え続けるグレコの目に優しさを感じ恐ろしくなったのか、ロッシは杖を構えながら後ずさった。じりじりとピエイロのそばまで下がったロッシの頭をピエイロは優しく叩き「ありがとう、君の努力は報われたよ」と微笑みかけた。頬を緩ませるロッシをグレコが悲しそうに見つめ思わず目をつぶった。
「役立たずのドミニコがあんたの島に逃げこんだことをステファノから聞いたときは、まあ放っておけばいいかと思っていましたよ。自らをナンバー2だと名乗り、偉そうな態度でステファノがコルレオファミリーを乗っ取る相談を持ち掛けてきた時も、そんな無謀な計画には乗る気はありませんでした。けれど、」
ピエイロは腰をおとしてロッシの肩を抱く。
「ロッシくんから、ファミリーを裏切って強さを求めたいとのお手紙が届いた時には驚きました。戦神のファンファーレが鳴り響いたかと思ったくらいです。ステファノが死んでコルレオ・ファミリーはいっそう絆を深めたと思っているに違いない、素晴らしい成果を手に入れる好機がやってきたとね。さあ、そろそろ終わりにしましょうか。」
ピエイロは立ち上がりグレコに杖を向けた。グレコも左手の杖をピエイロに向けるが、その手は震えていておぼつかない。凍った右腕がわずかに溶けだして、だらりと下げた指先から血が混じった水滴がぽたりと垂れた。
「まだあきらめないのですか?耳を澄ませてみなさい、誰も来ない。コルレオ・ファミリー消滅の時だ!」
「誰も消えてはいない!誰もあきらめてはいないぞ若造」
グレコが力強く答える。その時、ピエイロの背後でカタリと音がした。
サッカーが好きなんですが、応援しているチームの敗北を見るのがストレスになりすぎるので、今は遠くで見守るだけにしています。




