38.奇襲隊、奇襲に成功する
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妹の姿を見つけた僕の叫びを聞いてベルナルドが驚いたように身を乗り出す。
「見えねえな、けどもしいるんなら好都合だ!一番大事な任務を最初に済ませるぞ!ルチアーノ、籠の扉を開ける準備だ!」
ベルナルドは細かく火球を放ち、気球を屋根の上に近づけていく。僕は籠の扉の留め金に手を掛けて、いつでも飛び出せるように身構えた。レーナも僕の腰のあたりをつかんで体制を整える。ついに気球は屋根すれすれに近づいて、籠が屋根のレンガにガリっとこすられた。
「行け!」
ベルナルドの声に、僕は覚悟を決めて跳び下りた。屋根の傾斜はさほどきつくないが、滑らないように両手をついてトカゲのように貼りつく。遅れて跳び降り着地の際に足を滑らせたレーナの手をつかんで引っ張り上げた。よし、あとはベルナルドだ。僕が頭を上げて気球を見た瞬間、どこからか放たれた氷の矢が気球の風船を貫通した。ボシュっという音がして風船は張りを失い、気球はバランスを失って暴れるように塔から離れていく。
「ベルナルド!」
「お前ならできる!みんなを守れ!」
籠にしがみつき落下をこらえているベルナルドの姿があっという間に遠くへ小さくなっていく。気球は木々にぶつかりながら森の中へ消えていった。その行方を確かめようと腰を浮かせた時、顔のそばを氷矢がかすり抜けた。冷たさと熱さ、そして鋭い痛みを同時に頬に感じた。慌てて腰を落として下をのぞくと、薄くなってきた霧の中、城の中庭に数人の男たちがいて杖をこちらに向けている。
「中に入ろう!」
レーナの目を見て促すと、レーナも必死の顔ですばやく頷く。明かり取りの窓に向けて火球を放ち分厚いガラスを砕く。中をのぞくと不安そうに部屋の隅からこっちを見上げているアリアンナが見えた。「アリアンナ!!!」
「ルチアーノ!!?」
妹の驚いた声を聞いた僕の頭はカアっと熱くなり、両目からじんわり涙があふれてきた。生きてる。よかった。それだけで僕は無敵になった気になって、何も考えずに部屋の中に飛び降りた。着地した足にものすごい衝撃を感じてそのまま床に転がる。悶絶する僕に妹が駆け寄り心配そうにのぞき込んできた。
「だ…大丈夫…」
僕はなんとか立ち上がり、つま先を立てて足首をゆっくり回してみる。少し痛みは残っているが折れていたりとかはなさそうだ。
「ルチアーノ!」
上からの声でレーナのことを思い出した。声を掛けようとした時、部屋の扉が勢いよく開いて屈強なスーツ姿の男が現れた。
「てめえ…!」
男は憎々しげにうなると僕に杖を向けた。魔法で対応するのは間に合わない。僕は振り向いて妹を押し倒すように床に伏せる。僕の帽子をかすめて氷の矢が背後の部屋の壁に突き刺さる。
「ろくでもねえこと企みやがって!!!」
床に這いつくばったままの僕に男が近づいてくる。「やめて!」と妹が叫ぶが、男はニヤリと笑う。
「僕を殺してみろ!妹は絶対に薬を作らないぞ!」
思わず言い放った僕のハッタリに男はぎょっとして立ち止まる。その時、天窓から部屋をのぞき込んでいたレーナが杖を男に向けて叫んだ。「火球!」
小さな火の玉は男の肩をかすめて足元に小さな焦げを作った。男は驚いてレーナのほうを見上げた。今だ! 僕は杖を素早く抜くと男に照準を合わせた。「雷針!」
小さな稲妻が杖の先から放たれ男の胸に突き刺さる。あががっと男は呻き小刻みに体を震わせて、倒れた。
僕は大きく息を吸って、吐いた。ゆっくりと起き上がり、スーツの汚れを手で叩いて落とす。アリアンナの手を取って立ち上がらせた後、レーナを見上げて手を伸ばす。
「降りられる?受け止めるから心配しないで」
おそるおそる天窓から飛び降りたレーナを抱きかかえようとしてバランスを崩し、押しつぶされるように再び床に尻を打ち付ける。
「ご…ごめん。大丈夫?」
「全然…平気。」と平静を装っていったものの、恥ずかしさとかっこ悪さで顔を上げられない。ごまかすように立ち上がると、無理やり笑顔を作ってみた。
「2人で来たの?」アリアンナが不安そうに聞いてくる。
「いや、ベルナルドと一緒に3人で奇襲隊を組んでたんだけどベルナルドは気球と一緒に飛ばされたんだ。お前は大丈夫なのか?」
「別に拷問とかされたりしてないし。薬は作れないって言ったらたくさん脅されたけどね、島を滅ぼすとか、指や足を切るとか。でも細かい調合の数字まで覚えてるわけじゃないし、材料だって簡単にそろえられないから。それでもしつこく脅してくるし、さすがにそろそろ暴力振るわれそうだったから、とりあえず材料だけは教えちゃった。半分くらい嘘だけど。」
「ばれたらどうするんだよ」
「ばれないよ。そう簡単に手に入るものじゃないし、調達する時間を稼げれば、その間にきっとお父さんがなんとかしてくれるだろうって思って。ねえ、なにニヤニヤしてんの?」
ニヤニヤ?僕が?
妹を見ているだけのつもりだったけれど、いつも通りの態度が嬉しくて顔に出てしまったのか。めちゃくちゃ恥ずかしくなって「なんでもないよ」と言いながらうつむいて、また出そうになった涙を懸命にこらえた。
「ねえ、どうするのこの後」
レーナの問いで気持ちを切り替える。そうだ、まだ何も終わってない。僕はこっそりと袖で涙をぬぐって顔を上げる。
「みんなが来るのを待つ?」
「いや、持久戦は分が悪いし、奇襲隊なんだから、降りて行って敵を挟み撃ちにするべきだと思う。ここに僕らが入ったことは知られたわけだし、みんなと早く合流したほうが安全だよ。行こうアリアンナ。」
「ルチアーノ」と妹に声を掛けられて振り向いた僕を、妹はいきなり抱きしめてきた。
「な…なんだよ」
「ありがとう」
妹の言葉をとらえた僕の耳に、妹の髪の毛がふわっと触ってすごくかゆい。
「あたりまえだろ、僕はお前の兄なんだから」
嬉しさと恥ずかしさを隠してそっけなく言った僕の一言に頬を緩ませたレーナと目が合って、僕は必死に困った顔を作った。
兄弟ってめんどくさいですよね。良くも悪くも。




