37.気球は古城を上から攻める
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僕とレーナ、ベルナルドが乗った気球には小さなプロペラと翼がついていて、これで進む方向をある程度調節できるようになっている。さらに時折ベルナルドが動力代わりの火球を逆方向に放ち、気球はゆっくりと古城のほうへ向かっていた。古城は白い霧に包まれ、その中から一本の塔がその先端をのぞかせていた。
「いよいよだな」
ベルナルドが覚悟を促すようにつぶやいた。
「あの塔の屋根に降りる。天窓を壊して中に飛び降りるぞ。怖いか?」
ちらりとレーナを見ると、籠を両手でぎゅっとつかんだまま城のほうを見据えて動かない。
「レーナ、レーナ!」
僕の呼びかけにハッと我に返ったその顔は緊張で青白く、気分が悪そうだ。
「あの塔の屋根に降りるんだ。大丈夫、手を貸すから思い切って飛び降りよう」
レーナは小さくうなずいたが、何一つ安心していないように見えた。アリアンナがさらわれた時に堂々と敵の前に進み出た時のレーナはどこにもいない、あの時のレーナになってくれれば。
「ベルナルド、聞いてる?レーナがすごかった時の話。」
僕はなるべく明るい声で、風に負けないように叫んだ。
「家の横でカモメの牙に囲まれた時さ、アリアンナを探してためちゃくちゃ強そうな男に『わたしがアリアンナです』って前に出たんだ」
「へえええ、そりゃすごい度胸だな」
ベルナルドも僕の意図を汲んでくれて大げさに驚いてくれる。
「ほんとびっくりしたよ!僕なんてもう足ガクガクで。終わったあああって、殺されるーって思って何にもできなかったのに。あの時のレーナはまるでファミリーのボスみたいに頼もしかったよ。」
「それは見たかったなあ。そのあとで魔法を食らわせたんだろ?いやあ俺もまねできないな。長い間物騒なことにかかわってきたけど、女でも男でもそんな真似する奴は見たことがない。」
「あの時は必死だったから…」
レーナが困ったように照れる。
「いやいや、必死なだけじゃできないよレーナ。ねえベルナルド、もしかしたらレーナは伝説のボスの生まれ変わりなんじゃない?」
「そうかもしれないな。いや待てよ、もしかしたら今もまだレーナの中にゴリゴリの武闘派魔法使いの魂が生きているのかもしれない。」
「人を怪物みたいに言わないでよ」
ふざけるのをやめない僕らを、レーナもついに大声で怒り始めた。
「そんな怪物が私の中にいるんだったら、今頃ひとりで城に乗り込んで大暴れしてるわ。それとも目の前の失礼な人たちを空から放り投げてるかも!」
僕をにらみつけているレーナと目が合ったが、こらえきれず口元が緩んでしまった。それにつられてレーナも頬をぴくぴくさせて、ベルナルドが堪えきれず短くブっと吹き出したのをきっかけに3人の大笑いが空に響いた。
「よおし、塔が迫ってきたぞ、準備しろ!」
高らかに叫んだベルナルドを見て、ふとロッシの言葉を思い出した。こんなふうに僕らといてくれるベルナルドが裏切り者だなんて、そんなことあるのだろうか。ロッシの言っていた状況的な推理はわかるけれど、今となっては無理やり怪しんでるようにしか感じられない。けれど、もし無理やり怪しんだとしたなら、ロッシはなんであんなことを言いだしたんだろう。
まるで雲の中から頭を出しているような塔の先端に、気球はぐんぐんと近づいていく。さっきより気球の速度が上がっている気がして、僕は腰を落として籠を強く握った。
「もう少し!」
ベルナルドが叫んだ。僕は塔をぐっと見据える。と、塔の屋根の下に縦長に開けられた窓の向こう、薄暗い部屋の中に見慣れた色の髪の毛が見えた。
「アリアンナ!塔の中にいる!!」
折り紙が好きです




