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34.気球は不安を乗せて浮かぶ

34話に来てくれてありがとうございます。

 僕とレーナの想像は当たっていた。


 ベルナルドが運転する車に乗りこみ畑の中の道を古城から離れるようにしばらく行ったあと、一軒のあばら家の前でベルナルドは車を止めた。あばら家の脇、雑草の生い茂った小道をすいすいと抜けていくベルナルドの後をレーナと一緒に着いていくと、かつて家畜の厩舎だったと思われる小屋が現れた。屋根も扉も崩れてなくなっているその小屋の中には、数日前に島で見たのと同じような小さな気球が用意されていた。


「すごい…」

 思わず僕の口をついて出た言葉にベルナルドが振り返りにやっと笑う。風船部分は大きく膨らんで時折吹く風にゆらゆらと揺れている。風船の下に太いロープで結び付けられているかごの中には2人の男がいて、かごの中央で大きな音を立てて燃える炎に顔を赤く染めている。

 「彼らはカモメの気球を用意した職人さんでな。俺が探してきて頼んだんだ。安心していいぜ」

 ベルナルドは、おまたせ、と声をかけて気球に近づいた。

「行けそう?」

「大丈夫です。昇ったらあとは説明した通り。くれぐれもこのガスを倒さないでくださいね。爆発して死にます」

 かごから降りながらしわがれた声で淡々と話す男にベルナルドが手を差し出し、固く握手を交わした。

「爆発…!?」

 レーナが驚いて叫ぶ。「大丈夫なの?」僕も心配になって、すがるように尋ねる。

「多分ね。これは魔法使い用に彼らが改良した特別な気球だ。ガスは上昇時使用分の最小限に抑えられてる。一度上がってしまえば、少しの炎魔法で高度は維持できるってわけ。」

 「カモメの気球を作った人たちが、僕らの気球もちゃんと作ってくれるの? もし奴らの仲間だったらどっかに穴が開いてて…」

 「そりゃ職人を馬鹿にした良くない発言だ」 

 僕の心配をベルナルドがきっぱりとはねつける。ちらりとこっちを見たかごの中の男のまなざしに僕は慌てて目をそらした。

 「まず、俺がそんなことも見抜けない間抜けだと思うか? ちゃんと調べてあるから大丈夫」

 ベルナルドは「だいじょーーぶ」と最後を長く伸ばして愉快そうに続けた。

 「俺たちの島じゃ、島の人と俺たちは運命共同体だ。支えあい助け合ってともに生きる覚悟をした人が、あの小さな島で暮らしている。それは歴代のボスたちのおかげでもあるけどな。けど本土のファミリーはそこまで人々の暮らしに根を張っていない。誰が街の時計のねじを巻いてるか程度の話さ。お前が考えてるより、それぞれのファミリーに肩入れしてるわけじゃない。しかもカモメの奴らはねじを巻くのもさぼり気味で下手くそだとみんなに思われてる。だから」

 ベルナルドは僕の肩を軽くたたいた。

「俺たちがカモメの牙をぶっ飛ばしても誰からも恨まれない。行こう」

 僕とレーナをかごの中に押し込み最後にベルナルドが入って、扉を閉める。


「行きますよ」

 気球職人が斧を振り上げて、気球を地面につないでいるロープを断ち切った。かごと風船をつなぐロープがぎゅっと音を立てて強く張り、かごがゆらりと地面から離れる。バランスを崩してたたらを踏んだ僕とレーナをベルナルドが「おっと」と支えた。

 「しっかりつかまっとけよ。かごの重心が偏りすぎないように、みんなでバランスよく立つんだ。」

 ちらりとかごの外をみると、あっという間に地面はかなり下のほうに遠ざかっている。不安そうなレーナと目が合い、僕はぎこちなく微笑んだ。


 気球から遠くを望むと古城が見下ろせるくらいまで上昇すると、ベルナルドはガスを絞り炎を小さくした。そして城とは逆の方向の空に杖を向けると、魔法で火球を二回ほど放った。

 「大丈夫かいレーナ」

 ベルナルドが声をかける。足を少し震わせながらしっかりと籠のへりをつかんでいたレーナは小さくうなづいた。


 「ベルナルドが僕らと一緒にいて大丈夫なの? ファミリーで、それこそボスの次に強いと思ってるんだけど」

 僕はこの編成で分けられた時から思っていた疑問をぶつけてみた。ベルナルドは「なるほど、そりゃありがとう」と帽子のつばに手を添えた。

 「確かに俺が城に乗り込んで戦ったほうが瞬間的な勢いは増すかもしれないな。でもな、戦いってのはそう単純な足し算引き算で最後まで進まないんだよ。劣勢に陥るならもちろん、優勢に進んだとしても、それまで染まっていた色をどこかでがらりと変える必要が出てくるもんなのさ」

 「…劣勢になると思う?」

 「可能性の問題さ。俺がいなくなってうちの連中はどこのファミリーと戦っても互角以上にやれる。めちゃくちゃ美味いスープみたいに最高のバランスだからな。そこに入れる最後の隠し味が俺たちってわけさ」

「私…隠し味になれるのかな…」

 心配そうにレーナがつぶやく。ベルナルドは「大丈夫」と優しくレーナの頭を叩く。

「ただの懲罰で連れてきたわけじゃない。必ず役に立つと思ったから一緒に来てもらったんだ。慎重に状況を判断する、決めたら迷わずに一気に。あとはこのルチアーノがなんとかしてくれるさ。ボスの息子、右腕になる男だよ、な?」

「……そうだね」

僕は不安でぎこちなくならないように注意を払って、レーナににっこりと微笑みかけた。右腕…

寒いのは嫌いです!

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