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30.船に乗り、ファミリーは本土を目指す

30話目に来てくれてありがとうございます。人って、自分を責めれば安心する人と、他人を責めれば安心する人、どっちかですよね。

 3日後の早朝、コルレオファミリーは2隻の漁船に分乗し、本土へ出発した。

 黒いスーツにタイを締めた集団が漁船に大勢乗っているというのは違和感しかなくて、どう乗り込んだって敵にバレバレだと思うんだけれど、父が言うにはそこはあまり気にしなくていいらしい。カモメの牙にしてみれば、アリアンナをさらったことですぐに僕らが乗り込んでくることは十分想定内だし、どこから上陸するかと広い海岸線全てを見張れる人員がいるわけでもない。ならば急襲など考えず、勝手知ったる陣地で用意を万全にして僕らが来るのを待っているはずだという。


 それが本当なら戦いが始まるまで気を張り詰めておく必要はないけれど、逆にそれは罠の真ん中にのこのこ出かけるということでもあって、考えただけで手のひらがじっとりと汗ばんでくる。同じ船に乗っているファミリーのみんなも多かれ少なかれ緊張しているようで、無駄口を叩いている者は誰もいなかった。


「死んでるみたいな顔してるぜ」と話しかけてきたのはロッシだった。

 彼もさすがにいつもの調子でいられないようで、無理に笑おうと口元が引きつっている。僕は甲板の手すりにもたれかかって海を見たまま「ちょっと酔ってるだけだよ」と強がった。

 ロッシは近づき過ぎなくらいに側まで寄ってきて、僕と同じ格好で手すりに寄りかかった。大きく煙草をふかし、煙を吐く。煙は強風に乗って僕の顔をさあっと撫でて飛んでいった。

「心配なことがあるんだよな。」

 僕はちらっとロッシを見た。困ったような横顔でひとつ大きく息を吐く。

「ボスは言ってたじゃん、うちがカモメの牙と戦うことについて、他のファミリーとは話がついてるって。あれ、本当かな?俺たちのことをそこまで立ててくれるなんて、俺には信じられないんだけど。会ったこともないやつらだし」

「でも、ベルナルドが交渉したんじゃないの?」

「そこだよな」ロッシは僕のほうを向いて、ぐいっと顔を近づけた。

「結局、交渉したのは全部ベルナルドだなんだ。お前らが本土に行ったときも、仕切ってたのは全部ベルナルド。情報を仕入れた、話はついたって言ったって、本当かどうかは誰にもわからない。」

「嘘をついてるっていうのか?」思わず声を上げてしまってハッとしたけれど、誰にも聞かれた様子はない。ロッシは、あんまり大きな声を出すなよと僕をたしなめた。

「神出鬼没、変幻自在。ベルナルドのやり方はベルナルドにしかできない。すごいと思うんだよ確かに。でも、今回のカモメの牙との一連のいざこざについては、どうもうまくいきすぎてるような気もするんだよ。どうしてアリアンナがさらわれた日、ベルナルドは家にいなかったんだ?諜報のために島を出ていたから仕方がない、そういうけれど、もしあの人が島にいたら、きっとボスと一緒にお前の家にいたはずなんだ。そしたら全てが違ってた。アリアンナがさらわれるようなことにはならなかったはずだろ?」

 そのまま僕の目を探るようにのぞき込んでいたが、ふっと目をそらしてロッシは大きく息を吐いた。

「俺だってこんなこと考えたくないさ、でも、ぶっちゃけ俺は死ぬのは怖い。ファミリーのためには戦うけれど、無駄死にはしたくないんだ。こんな思いついたらホントっぽく思えてきちゃってさ、誰かに言いたかっただけなんだけど」


 裏切者だ、とは言わなかったけれど、言いたいのはそういうことだ。馬鹿馬鹿しい、と笑えなかったのは完全に否定することができないと思ったから。あの人の役割は確かに大きい。もし彼が裏切ろうと思えば、僕らを簡単に操作できるだろう。


「なんてな!」ロッソは急におどけて大声を出した。笑顔が戻っている。

「楽しく生きれば万事順調、みたいなあの人がわざわざ裏切りの危険を冒してまでそんなことする必要ねえだろ?だいたいカモメ側について何の得があるのさ。お前が死にそうな顔をしてるから、からかっただけだよ!」

 さて次はレーナに愛の告白でもするかな、そう嘯いてロッソは僕の頭を帽子の上からバンバンと叩き、笑いながら行ってしまった。僕は心からあきれるしかなく、大きく息をついた。


 全く、とんでもない冗談を言う奴だ。笑ってしまおうとかと思ったけれど、一度吸い込んでしまったアイツの煙草の煙が、ずっと肺の奥深くにこびりついている気がして、僕は無理に咳き込んだ。

一人カラオケが好きです。

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