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27.妹は空へ消える

27話目に来てくれてありがとうございます

 父は死んでいなかった。

 杖をグッと握りしめた拳とこめかみのあたりが赤黒く見えるのはもしかして血だろうか。髪が乱れているのを気にする様子もなくまっすぐにこちらに歩いてくる。父を恐れるかのように土煙は空に逃げていき、その姿が明らかとなった。父、ボス・グレコは明らかに怒っていた。あまりの殺気に僕は声も出せないほど恐怖を感じたけれど同時に安心が体中にじわっとしびれるように広がって、気が付くと涙を流していた。


「娘を放してもらおうか」

 父は僕とピエイロの間に立ちはだかり、アリアンナの腕をつかんでいるピエイロに杖を向けた。声ははっきりと強く、いつの間にかあたりを包んでいた夕暮れに響いた。ピエイロの表情には先ほどまでの余裕は感じられず、それでも人質を取っているという優位性を示すかのように妹の腕をグッとつかんで引き寄せた。

「しぶといですね。さすがはボス・グレコ」

 ピエイロは眉間にしわを寄せた。

「さっきの魔法はすごい威力でした。新しい草の力ですか? 娘を返してほしければ、薬草の完全な調合法と引き換えにしましょう。この娘はないと言い張ったが、そんなことはないですよね?」

 父は答えない。

「娘よりもファミリーが大事ですか!」

ははっと高らかにピエイロが笑った。妹の首に腕を回す。

「これ以上ここにいると危ういな。あなたの態度で考えが変わりました。調合法と一緒に、あなたのファミリーもいただきましょう。それまで娘さんとはしばしのお別れです」

「思い通りに行くと思うな」父の言葉には憎しみがこもっていた。ピエイロはにやりとして杖を高く掲げる。

「煙天」


 辺りに煙が立ち込めていく。次第に見えなくなっていくアリアンナの顔は恐怖で引きつっていて、もはや何をしていいのかわからなくて言葉を失っているようだった。僕の体も硬直し、アリアンナの名前を叫ぶこともできず、ただお互いの目を見ていて、そのうちに煙が完全にあたりを覆い自分の足の先さえ見えなくなった。ただしばらく煙がなくなるのを待ち続け、視界が開けたことにはすでにカモメの牙と妹の姿はなく、見上げればはるかかなたを一艇の気球が飛んでいるのが見えた。父を見ると、やはり空を見上げて眉間に深い皺を作っている。レーナはいつの間にか座り込んで泣いていた。妹が消えていく空は、消えそうな太陽を夜の闇が追い出そうとして、あまりにも綺麗な淡いを作り出していた。遠くから車の排気音が聞こえてきた。                    

怒ると怖いお父さん、というのは大事ですよね

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