25.守るべき人のために勇気を振り絞る
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オリーブ畑に腹ばいになったままあたりの様子をうかがう。家が半壊しているのが目に飛び込んできた。長い間住んでいた家。僕を閉じ込めていた家。父の威圧感に満ちていた家。それでもそこに住むしかなかった、難攻不落の要塞のようだった家が無残な姿をさらしていた。僕らは言葉を失ったまま、しばらくそのまま家を眺めていた。
「行こう。港でみんなと合流しよう」
意を決して体を起こした。父は死んでない、と信じるしかなかった。僕の役目はアリアンナを守ること。港でファミリーのみんなに合流したほうがいい。とにかく今は身の安全だけを考えなければいけない。それなのに。
「レーナさんは?」
妹が思いだしたように言った。その通り、レーナはまだ離れにいるかもしれないということに僕はずっと気づいていた。もしレーナが離れにいるなら、おそらく騒動に気づいてじっと隠れていることだろう。父に言われたように、妹の命を守ることだけを考えたらここはひとまず港へ急ぐべきなのだろう。でも、逃げた僕らを探すカモメの牙の連中が離れを捜索する可能性は十分にあったし、運よく見つからない未来だけを無理やり信じて去ってしまえば、自分が卑怯者になる気がした。何が正しい選択なのかはわからないけど、レーナを助ける僕でありたかった。あとは、僕が2人を守れるかという自分の能力と、間違いかもしれない行動の責任を負えるかどうか、つまり勇気の問題なのだった。
腰をかがめてオリーブの木陰から木陰へと、畑の斜面を少しずつ移動していく。家の周りをぐるっと迂回するように進み、僕らは離れの裏にたどり着いた。カモメの牙らしき人影はどこにも見当たらない。僕は意を決して離れまで駆け足で移動し、耳をすませてから小さく窓をコツコツと叩いた。反応がないのでもう一度。やはり反応は全くない。考えてみれば合図されて呑気に窓を開けるような子ではないから、じっと様子を伺っている可能性もないわけではないけれど、“らしさ”から言えばすでに家を出て、事態を把握できるところにいるほうが彼女らしい。アリアンナを指で突いて、家の周りを回るように畑を少しずつ移動する。家の周りを半周ほどすると、僕らと同じようにオリーブの木の根元にうつぶせで身を隠しているレーナを見つけた。
こちらに気づいたレーナがちらりと目だけで挨拶をする。僕らは側まで行って、3人で同じ姿勢を取った。
「のろしが見えて警戒してたらあなたの家が騒がしくなって、これは危ないと思って。そしたら庭に気球が降りてきて、4人くらいのお会いスーツの男が降りてきた。あれはこないだの人たちと一緒?」
レーナは一気にしゃべってようやくこちらを見た。軽快な口調とは裏腹に、目に不安が浮かんでいる。
「カモメの牙、って言うんだ。ボス同士が今、家で戦ってる。」
「ルチアーノは何してるの?妹さんを守るのが仕事?」
「奴らは妹を狙ってる。ファミリーのみんなは港に上陸した主力部隊と戦ってる。」
「多分、本当はこっちが主力だったのね」
さすがに頭の回転が速い。早く港に行ってみんなと合流したほうがいい、と声をかけようとした時だった。
「見つけたあ」
赤いスーツを着た大男が離れの裏のほうから畑をのしのしと歩いてくる。失敗した、逃げても無駄だと瞬時に理解した。慌てて立ち上がろうとするアリアンナの腕を引っ張る。「ルチアーノ!」と叫ぶ妹に、大丈夫だから、と根拠のない返事をした。何も大丈夫じゃない。けれど妹が走り出してしまえば、時間稼ぎは出来ないと思った。ここで奇跡が起きるとするならば、襲われて妹を連れ去られる前にファミリーの誰かが駆けつけてくれることだけ。そのためには少しでも最悪の時を遅らせるしかないと思った。僕は立ち上がり、妹とレーナを背中に隠すようにして、後ろ手に杖を握った。
「そうそう、大人しくしたほうがいい」
大男は笑って近づいてくる。舐められているが、それは好都合だ。
「とりあえず、両手を前に出せ。魔法くらいは使えんだろ?用心しないとな」
バレていた。僕は一応スーツを着て正装している。それでもきっとこいつらは僕の素性までは知らないだろう。ごまかすことができないか考えていると、後ろに持っていた杖を誰かに捕まれた。
「私が持ってる」レーナがささやいた。僕は杖を放し、両手を高く掲げる。
「杖なんて持ってないよ。僕は落ちこぼれで、魔法が使えないんだ」
「ホントかよ」大男は自分の杖をこちらに向けたまま、一歩近づく。「だとしたら、よほどの出来損ないだな」
挑発を無視して考える。ここからどうすればいい?みんな助かるには、僕は何をすればいい?
「薬草師の娘はどっちだ?大人しく来れば全員殺したりしねえよ」
「私です」
答えたのはレーナだった。僕は思わず振り向く。アリアンナも青い顔で驚いている。
中学の時の友だちがヤンキーだったので、一緒に買い物に行くと、知らないヤンキーにすぐガン飛ばして喧嘩しようとするのがものすごく嫌でした…元気かなあいつ。




