24.父は雷を自在に操る
24話目に来てくれてありがとうございます
サルヴァトーレ・グレコはゆっくりと杖を内ポケットから出し、ピエイロに向けた。ピエイロはにやりと笑って降参の姿勢を取るかのように両手を上に挙げ、大きく息を吐くと直後に素早く横に、円を描くように走り出した。サルヴァトーレは「雷林」の呪文をとなえ、杖から幾本もの稲妻がほとばしりピエイロを襲う。ピエイロは細かくステップを踏んで動きまわり、的を絞らせない。
いきなり大きく跳躍し体をひねって稲妻を交わすと、空中で杖を構え「死の雹」を唱える。何百という氷の弾丸がサルヴァトーレに向けて射撃される。サルヴァトーレはかわすのを諦め、木の床に向かって「使役」の呪文を唱える。木材がべりべりと剥がれ立ち上がり、何重もの束となってサルヴァトーレの前に盾を作った。しかし生成に時間がかかり、その間に氷の弾丸を何発か浴びてしまっている。
サルヴァトーレは頬をぬぐい、顔をしかめる。手ごたえを感じたピエイロは口の端に笑みを浮かべたが、木の楯の陰から出てきたサルヴァトーレの周りを、十個ほどの雷の球がふわふわと取り囲むように浮いているのを見て目を丸くした。
「雷球…か!!」
稲妻が封じ込められた小さな雲のような雷球は、サルヴァトーレが優雅に動かす杖に導かれ上下左右に拡散しながらジリジリとピエイロを取り囲むように近づいていく。ピエイロは氷の楔を雷球に向けて発射しまくるも、楔はそのまま通り抜けてしまい雷を消すことができない。雷球のひとつが右足に触れ、ピエイロは感電により一瞬びくびくと体を震わせ、膝を着いた。その間にすべての雷球はピエイロを取り囲み、逃げ場を失った征服者は口をゆがませる。
「もういいだろう。部下をまとめて島を去れ」
サルヴァトーレは淡々と降伏を促した。が、ピエイロはゆがんだ口にまたしても笑みを浮かべた。
「まだ終わってませんよ。その部下に…娘さんを任せているのですから!」
その時、2階のアリアンナの部屋のほうで壁が破壊されるような轟音が響き、家が揺れた。サルヴァトーレは思わず振り返る。ピエイロはその隙に天井に向けて氷の楔を発射する。戦いの最中に穿たれたいくつかの楔ですでにもろくなっていた天井は、最後の楔によって完全に強度を失い、崩れてサルヴァトーレの頭上に落下した。
薄暗いトンネルの中に轟音が響き渡り、先を行くアリアンナの動きが止まる。
「大丈夫、ボス・グレコが死ぬわけないよ」
僕は自分の動揺を隠して、冗談を笑うように返した。アリアンナは返事をせずにまた歩き出す。
部屋の扉を閉めた後、僕とアリアンナはすぐに古い扉から隣の部屋に移動し、床に隠されている梯子から続く地下通路を通って外に向かっていた。腰をかがめないと通れないほどの低くて狭い通路を、ランタンの火がゆらゆらと照らす。
「お前が作ってた薬草、すごいものだったんだな」
あいかわらず返事をしない妹の背中に向かって僕は話しかける。
「まさか、他のファミリーが狙うようなものを発明しちゃうなんてな。どうりで機嫌が良かったわけだよ。それをステファノが聞きつけて、ドミニコさんを巻き込んでカモメの牙に土産として持っていこうと企んでた。けど失敗した。だから今回は強引に奪いにきたってこと?」
「黙っててよ兄貴。」
鋭い拒絶の言葉。けれど、それは僕が組み立てたこの事件の筋書きが間違っていないことの証明でもあった。
「薬草そのものじゃなくてお前を狙ってきたってのは、まだ作り方が完成されてないってことなんだろ?」
「だってまだ完璧にできてないもの」
急に止まった妹のお尻に僕はぶつかり顔をしかめた。振り返ったアリアンナの顔は不機嫌そうで、戸惑っているようにも見えた。
「こんなことになったのも全部私のせい。そう言いたいんでしょ?」
「そんなこと思ってないよ。悪いのは人を殺してまで力を欲しがる奴らのほうだ」
妹はまだ何か言い足りないようだったが、ここで言い争ってもしょうがないだろという僕の言葉にとりあえず納得したのか再び前を向いて歩き出した。
僕の妹がそんなすごい仕事をしていたという事実は少しだけ誇らしく、同時に悔しかった。けれどとにかく今は、妹を守らなくてはいけない。それが父との約束だった。僕に力があるとかないとかは関係なく、僕しかいないんだ。これは僕がずっと望んでいた「責任」というものではないか!
地下通路を抜けた先の鉄の扉を慎重に開けると、家の裏手のオリーブ畑だった。頭をゆっくりと出して辺りを見回し、誰もいないことを確認すると這うように抜け出した。
はなかっぱ、好きです。アゲルちゃんが。




