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22.カモメのボスは空からやってくる

22話目に来てくれてありがとうございます

 非常事態を知らせる「海鳥の笛」の音が聞こえた時、僕は自分の部屋で魔法の本を読んでいた。慌てて上着を着て居間へ行くと父は悠然と珈琲を飲んで座っていて、警報の話をしても「わかっている」とだけ答えて動こうとはしなかった。しばらくすると島民が港から車を飛ばしてやってきて状況が伝えられたが、島民に感謝を述べるとまたどっしりと腰を下ろしてしまった。作業場にいたアリアンナもさすがに不安そうな顔をして戻ってきたが、父はアリアンナに部屋にいるように指示を出し、妹は素直に従った。僕は父の側でただ待っていた。


「どうするの?」

 しびれをきらして聞いた僕に、父は「どうもしない。港は戦っている者たちに任せる」とだけ答え、椅子に座って新聞を読み始めた。

「僕も行って戦う」

「だめだ」

 顔も上げず即答される。どうしてだ。この島が襲われているんだ。戦場になっている。気が焦って仕方がない。仲間が戦っているというのに、僕はここにいなければいけない理由はなんだ。父は、父は僕に何を。

「父さんは、僕にどうなってほしいの?」

 思わず大きめの声を張ってしまった。父は初めて顔を上げて僕を見た。

「どうなって、とは?」

「とは…って…。だから、自分の跡を継いでほしいとか、立派な魔法使いになってほしいとか」

「そんなもの」吐くように言って机の上の新聞を開く。「自分で決めろ」

 頭に血が上り、顔が熱くなるのを感じた。

「僕が決めたってしょうがないでしょ。父さんが気に入らなければ、どうせその通りになんてならないんだから」

「私がいつお前の将来を否定した」

 怒っても怒っても、即座に返される。それでも、今日は何でも言える気がした。

「いつもだよ。僕がファミリーのために何かしたくても、父さんは全部否定する。僕はみんなと同じように働きたいんだ。働けるんだ。父さんは僕が永遠に半人前だと思ってる。何もできないお荷物だと。だからそんなに僕を認めてくれないんだ」

「お前がしたいことと、お前にできることは違う。お前が今したいことをするには、まだまだ力不足だと指摘しているだけだ」

 父の口調は、デュランダの間で聞くよりも柔らかく、けれど強く響いた。

「私は私の父に、つまりお前のおじいさんに、後を継げなどと言われたことは一度もなかった。私は父のようにはなれなかったし、父もそれを知っていた。だが、今こうしてファミリーを束ねている。それがどういうことだかわかるか?」

 僕は黙った。質問の意味も答えも、父が求めているものもわからなかった。父はそこで新聞を閉じ、窓の外に目をやった。そして、頬を緩ませた。 

「私にもよくわからん」

 父が笑った。


 笑ったのだ。あの父が。コルレオ・ファミリーのボスが。僕は信じられないものを見てしまった気がして立ち尽くしていた。何も言うべき言葉が見つからなかった。さっきまでの怒りは床に敷かれた絨毯にしみ込んだようになくなってしまい、代わりによくわからない、懐かしさのような気持ちがこみあげていた。二人でしばらく黙っていたが、窓の外を見ていた父が何かに気づいたように振り向き、襟を正し、机の上に置いてあった杖を手に取った。

「お前がしたいこととお前にできることが、ぴったりとかみ合う時がいつかやってくるだろう。だが今日は私が命令を出す。」

 父がいつもの口調に戻ってはっきりと言う。

「お前は部屋に戻ってアリアンナを守れ。私は客人の相手をする。」


 客人?

 

 玄関ホールからつながる階段を上がり2階にある妹の部屋へ。ドアノブを回しながら振り向いて階下を見ると、父は広間の真ん中で玄関のほうを向いて立っていた。部屋に入り扉を後ろ手で閉めた。ベッドに腰掛けていたアリアンナが立ち上がって僕を睨む。

「どうなってんの?」

「さあ、詳しいことは僕もわかんない。本土で僕らを襲った連中が真昼間から港に乗り込んできて、みんなが戦ってるんだって」

「どうして真正面から来たの?」

「知らないよ」

「無茶だよね。」アリアンナがぽふん、とベットに腰を下ろして言う。

「奇襲をかければ一時的に主導権は握れるかもしれないけど、知らない島だよ。それも少人数で。島全体を占拠なんてできるわけがないじゃん。」

 それっぽいことを言うよな、と妹を茶化しそうになって、緩みかけた頬に力を入れる。

「まあ、僕らのほうが人数も多いし地の利もある。何より、追い返せばいい僕らと全てを制圧しなきゃいけない彼らでは戦いそのものの難易度が違うんだ」

「それっぽいこと言うじゃん」

 このやろう、僕は我慢したのに。けれど、あんなに毎日憎たらしいと思っていたのに、久しぶりに妹らしい口調を聞いて嬉しくなっている自分に気づく。茶化し返してやろうと口を開きかけた時、ふと窓の外に何か見慣れない物影を見てぎょっとする。なんだあれは。庭に大きな影を落としている、丸くて、大きくて、ふわふわと揺れるもの。


 気球だ。

父親と真面目な話ってしたことあります? 


もう1タイトル、別の物語を書き始めてみました。こちらは書き途中なので少しずつの更新ですが、ご興味あればぜひ。

「元フランス銃士隊が旅芸人に身をやつし、異世界のお姫様と世直しの旅に出る」というタイトルです。

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