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2.殺人には魔法使いがかかわっている

2話目にお越しいただいてありがとうございます。

 杖を空に向けてくるくるとらせん状に回しながら”上りゆく煙”の魔法を使い、のろしを上げた。さらに“カモメの(とき)”の魔法を4回鳴らし島に事件発生を伝えたのが四半刻前。すでに死体のもとには、黒いスーツの男たちが10人ほど集まっていた。遠巻きに島の人たちの人だかりもできている。


「そろそろ始めようか」

誰よりも早く来ていた、ストライプ柄のスーツを着た叔父のベルナルドが、内ポケットから杖を取り出した。


「突く風」


 杖から放たれた風が枝葉の山を吹き飛ばすと、ドミニコさんの体があらわになった。島の人たちから小さな悲鳴とざわめきが上がる。スーツの男達からは小さな舌打ちがいくつか聞こえた。


 ドミニコさんは1年前ほどに、娘を連れてこの島にやってきた。最初はどこか別のファミリーの間諜(かんちょう)じゃないかって疑われたけど、結局父は彼を受け入れた。ずっと空き家だった部屋が2つほどしかない小屋をあてがわれて住んでいたけれど、父は自分の所有するオリーブ畑をずいぶんと割譲(かつじょう)してしまい、任せてしまった。

 

 確か年齢は35歳くらいだったはず。道で会っても控えめに会釈をする程度であまり人づきあいが上手そうには見えなかったし、笑った顔は見たことがなかった。島の人たちもどう相手をするか迷っていたようだったけれど、ドミニコさんの真面目に黙々と作業する態度と、他人の意見を素直に聞く人柄がわかるにつれ、次第に心を許し一員として認めていった、ように見えた。


 そして今僕の目の前にいるドミニコさんは白いシャツと茶色のベストを着ていて、眉間にしわを寄せた悔しそうな顔のまま動かなかった。シャツの右胸には焦げたような穴が開いて、その上からナイフが根元までしっかり刺さっていた。

 

 いつの間に来たのか、痛々しく右腕を吊ったステファノがしゃがんでドミニコさんの胸のあたりやズボンのポケットを調べていた。そういえば僕はステファノの見舞いにいく途中だったんだと思いだす。しゃがんだステファノの首から垂れ下がったネクタイがドミニコさんの体にかかっていて、その柄が十字架なのに気付いた僕は、まるで葬式用におしゃれしたみたいに思えて少しだけ嫌な気持ちになった。


「左胸が焼け焦げている」とステファノが話しはじめた。

「たいまつなんかで思いきり突いたって解釈もできるが、自然に思いつくのは炎玉系の魔法だ。焼けた服の範囲が狭いから、かなり至近距離からやられたな。そのうえでナイフでとどめを刺されているって状態だ。つまり…」


「魔法使いがかかわっている」とステファノは吐き捨てた。もみあげからつながった長めのあごひげを左手で触りながら立ち上がり、いててて、と右腕を気にして顔をしかめた。


「正面からってこたぁ、顔見知りの可能性もある。わざわざこのコルレオファミリーの島まで来て殺すたぁいい度胸だが、逆に言えばドミニコはそいつと顔見知り…つまり、やっぱりこいつは間諜だったってぇ可能性も高えな」


「今日はずいぶん頭が冴えるね、ステファノ。ひょっとして、見てた?」

ベルナルドが口をはさむ。


 一瞬でステファノの顔色が赤く染まる。ベルナルドは山の高い赤い帽子をかぶり、癖のある黒髪をのぞかせていた。帽子の羽飾りも長く、さらに3つ重ねるという派手な装飾で、まるで繁殖期の孔雀のようだ。おまけにスーツは紺色に白い縦縞の入った細身の仕立て。


 ファミリーの正装は真っ黒なスーツしか認めていないのだけれど、ベルナルドは僕の叔父つまり父の弟で、また一家の諜報(ちょうほう)諜報部を受け持っているという自由のきく立場もあるのか、なぜか昔からこういう自由を許されていた。この人はとにかく昔から余計なことしか言わない。諜報の仕事だって役に立っているかよくわからないし、そもそも仕事をしているのかどうかも定かではない。僕が知っているのはボスの親族という立場にあやかって、好きに遊び歩いているといった陰口だけ。ステファノに睨まれたベルナルドはへいへいすみませんという顔をして下がった。


「いいやつに見えたのにな。これだから島の外の奴は信用できねえんだ。」

ステファノがいらつきながらつぶやくと、それに応えるかのように「本土のファミリーがこの島に現れたっていうのか」「抗争になるのか?」ざわめきと不安が島の人々に広がっていく。


 そんな中、人垣が静かに割れて一人の男がゆっくり現れた。僕の父、サルヴァトーレ・グレコ。ファミリーのボス。


 男たちは黙ったまま頭を下げて挨拶をした。ステファノが立ち上がって父に耳打ちで報告する。父は黙ってそれを聞いていたが

「推測で物事を計るな。過ちのもとだ」と静かに告げた。ステファノの顔が固まり、男たちの間に緊張が走った。


「家に運んでやれ。葬式の手筈(てはず)はモンテッラに任せる。」

「葬式まで出すんですか?」思わず声を出したステファノを父は一瞥する。


「無論。一度はこの島の一員になった男だ。それに、もし罪人であるとわかれば、葬った後でも地獄には送れる。」

  淡々と述べる父のゆるぎない態度にステファノもそれ以上追及しなかった。最近頭が薄くなってきたモンテッラが、ごくりと唾を飲む音を立てながらうなずいた。


「お前が見つけたと聞いたが本当か?」

いきなり父に尋ねられた僕は、自分に向けられた厳しい視線に驚いてうまく言葉が出なくなったが、頑張って目を合わせたまま小さくうなずいた。

「周りにあったのは枯れ枝だけか?」

僕はまたうなずく。父はそれ以上何も言うことはなく、遠巻きの島の人たちに顔を向けると打って変わって優しい口調で語り出した。


「ドミニコは神のもとへ旅立った。悲しんでやってほしい。彼の命を奪い、皆に悲しみを覚えさせたものを私たちは必ず見つけ出し、処罰する」


 住民たちが頭を下げる。父は再びファミリーの男たちのほうを向くと「一刻後、『デュランダの間』だ」と命令し、住民たちの人垣を抜けて去って行った。僕はそのまま父の背中をぼんやり見ていたが、父が帰る際に小さな女の子の頭に手を添えたのを見て、ふとドミニコさんと一緒に島に来たという娘のことを思い出した。

舞台はイタリアのシチリアを小さくしたような島のイメージです。

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