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18.島の空気が変わってしまう

18話目に来てくれてありがとうございます。

 あの日から1週間がたった。コルレオ島の港に着いたのは明け方で、ガエターノはすぐに医者のもとに運ばれた。傷の具合はやっぱりひどくて、ようやく具合は峠を越えたらしいけれど、しばらくは安静が必要だと聞いた。父はベルナルドから報告を受けたはずだけれど、デュランダ会議はまだ開かれていない。一刻も早く対策を決めたほうがいいのではないか、と焦る気持ちもある反面、あれで全てが終わったような、願いのような気持ちもどこかにあった。


 とにかく、僕はあの日からおかしかった。深く高い青い空も、葉がすっかり落ちたオリーブ畑も、以前のように眺めることができなくなっていた。僕がずっと当たり前だと思っていたこの島の景色は、いったいなんだったんだろうと思う。つまり、僕は以前のようには生きられなくなってしまっていた。


 会議は開かれなかったが、父の元には毎日何度も誰かがやってきて皆忙しくしていた。ベルナルドの姿も全く見なかった。諜報のためすぐにまた島を出たのかもしれない。家全体が緊張していて、もしかしたら戦争の前というのはこういう感じなのかもしれないと思った。いや、すでに戦いは始まっているのだから、戦時中というのが正しいのかもしれない。けれど僕の周りだけは時間がゆっくりと流れていて、その温度差のせいで居心地が悪かった。そしてもう一人、忙しそうにしている人間がいた。妹だ。


 妹は毎日朝から晩まで顔を汗でてかてかに光らせながら、魔法薬草の調合に精を出していた。やけに顔が張り切っていて、僕に嫌味どころか雑談すら仕掛けてこない。あまりにも気持ちが悪いので、一度僕のほうから「ご機嫌だな」と軽口を叩いてみたところ「そうね」と笑って答えられた。

 

 命を危機にさらして帰ってきた兄に対する労いは何もなかった。わざと興味がないふりをしているのか、本当に興味がないのか。少しはしっかりしてよねと馬鹿にされていた身としては、ちょっとくらい見直してもいいのではないかと思うわけだけど、そもそも妹に見直してもらいたいと思ってる時点で兄として格好良くはないということは自分でもわかっていて、とにかくそれ以上何も言う暇を与えてくれないほどに妹は忙しかったのだ。一体そんなに何を頑張っているんだろう。戦争が始まりそうだから、そのための薬草の準備をしているんだろうか。それであんなに楽しそうにできるだろうか。妹は、何をしてるんだろう。


 もう一人、気がかりな人がいた。レーナのことだ。

 実は、島に帰ってきてからずっとレーナと話をしていなかった。人殺しの現場に巻き込まれたことをどう話せばいいのかわからなかったし、僕らが一生懸命に練習していた魔法は、所詮人殺しの手段であるということをまざまざと見せつけられた今、「じゃあ続きを練習しよう」なんて気分にもならなかった。むしろ、レーナが抗争に巻き込まれたことで魔法の練習をやめると言い出すことを期待していた。けれど昨晩思いきってレーナに会いに行ったとき、彼女の口から出たのは決意の言葉だった。

「私、やっぱり魔法を使いたい。このままじゃ、何の役にも立てないもの」

 僕は慌てて、戦うことを前提にしなくてもいいじゃないかと、僕の妹は薬草の調合で十分に役に立ってるし、ということを説明したのだけれどレーナは聞く耳を持たなかった。


「どうしてそんなに戦いたいのさ。僕らに任せておけばいいのに」

「戦いたいのとか怖くないのとか聞いてくれるけど、私の意見を言ったらみんな尊重してくれるの? 私が戦いたくないって言ったら、誰も私を殺さない?この間だって、私は戦おうなんて思っていなかった」

「あれは僕らと一緒だったから…」

 そう言い訳する僕は、自分がレーナを説得できる気がすでにしていない。

「父だって、戦おうとはしていなかった。」

 それはお父さんはこの島の男になったんだから、と言おうとしてやめた。男とか女とかそういう区別をレーナは許してくれないだろう。当たり前のように僕らが負ってきた役割を、彼女は当然だとは思っていないのだ。

「私は自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だってわかったの。守ってもらうほどの理由もないくせに。だからもっと強くなりたい。ルチアーノには迷惑がかかるかもしれないけれど、ごめんね」

 それっきりレーナは黙ってしまい、僕も何も言うことがなくなってしまいそのまま帰った。彼女は彼女なりの使命感を感じている。それを否定することは僕にはできなかった。

大人の階段って、いつどうやって上ったんでしょうかね。自分で初めて粗大ごみを出した時かな。

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