11.葬式の帰り道に駆け引きを教わる
11話目に来てくれてありがとうございます。
ステファノの死は事故だった、ということにされた。
父の特命を受けて船で本土に向かっている途中、突然の嵐で沈んだ、という話を妹が偉そうに教えてくれた。死体のない葬式は事件から1週間後、港近くの墓地で行われ、島の住民ほとんどが出席した。父は悲しみにくれるステファノの奥さんと子供たちに長い間語りかけていて、彼女は何度も首を横に振ったり頭を下げたりしていた。
ファミリーの面々に続いて僕も型通りのお悔やみを伝えたけれど、嘘で固められたこの悲劇に僕自身も嘘つきとして参加していることが気持ち悪くて、一度も顔を上げられなかった。
ステファノの死体はどこにいったんだろうか。
多分ファミリーの誰かが、なんとなくベルナルドのような気がするけれど、密かにどこかに埋めたんだろう。例えばオリーブの木の下なんかに。どうなったか知りたいような気もするし、一生知りたくない気もする。僕の目の前で心臓を止めたステファノの顔はしっかりと記憶に焼きつけられていて、きっと忘れることはないだろう。その記憶が怖いかというと、怖い。
けれどステファノが死ぬ前に僕に対してむき出しにしていた悪意のほうが、僕には数倍恐ろしいものとして残っていた。人はあれほどまでに他人の死を願えるのだということを僕はあの時初めて知った。それは僕がファミリーにいる限り、そして魔法を使う限り、いつか誰かに向けなくてはいけないものなのかもしれないのだけれど。
僕には何かすべきことがあるんだろうか。あの夜が明けて、すぐにでも一同がデュランダの間に集められて報告と指示を受けるんだろうと思っていたのに、招集がかからなかったのは意外だった。未だに、ファミリーに事実を伝える場を設けるような話は聞いていない。僕はこのままあれをずっと心にしまって生きろというのか。
墓地を出たところで、ファミリーの中でも一番下っ端のロッソが話しかけてきた。ロッソは僕より4つ年上で、1年前からデュランダの間への出席が認められた駆け出しのファミリアだ。昔からステファノを慕っていて、ステファノの雑用をこなすことが一番の仕事だった。
「は~あ。なんか、いやーな気持ち」
ロッソは僕と並んで歩きながら空を見上げて息を吐いた。
「かっこよかったのにな。」
「ロッソは好きだったもんね、ステファノのこと」
「お前は嫌いだったろ」
ロッソにズバリと指摘され、僕は気まずくなった。「そんなことないよ」
「今さらいいよ。偉そうだったし、人を馬鹿にしてるような態度も多かったし。でもさ、でっかくなりたかったからね、あの人。」いろいろ思い出してるんだろう。ロッソはクスっと笑う。
「あるじゃん、名を残したい、って気持ち。そのために生きるって気持ちは俺も理解できるんだよ。普通の仕事じゃないじゃない、俺たちって。その中で何ができるのか、自分を試してみたい気持ちはあるよ。」
ポケットから杖を出してポーズをとったロッソは、ニカっと笑った。「なんだかんだ影響されてっからね。」
そんなものなのか。僕は名を残したいなんてこれっぽっちも思ったことはない。悲しみを隠すようにべらべらとしゃべるロッソの言葉に適当に相槌を打ちながら歩いていると、道の向こうでベルナルドが僕を待っていた。
「あ、じゃあ俺はここで。またな。」ロッソは僕の背中を軽く叩いて、走って行ってしまった。
「よくしゃべる野郎だな」ベルナルドはロッソの去ったほうを見てつぶやく。
「ベルナルドのほうがうるさいよ」
「ほんとかよ、それはショックだ」
ロッソの代わりにベルナルドを隣にして、また歩き出す。
「僕を待ってたの?」
「悩める少年の話を聞くのも俺の仕事なんだよ」
ステップを踏んで道端にたまったオリーブの葉の山を思い切り蹴飛ばしたベルナルドは、振り返って「話してごらん」とでもいうように笑った。僕は誘われるように疑問をぶつけた。
「どうしてみんなを集めて本当のことを話さないの?」
「何を言ったって嘘に聞こえる時ってのがあるんだよな」
「どういうこと? 噓じゃないことだってたくさんある。これは十分に大変な事件だよね」
「そうだな。なにしろナンバー2が裏切ってたんだからな」
ベルナルドの声が大きすぎて、思わず周りを確認した。もちろん誰もいない。ベルナルドはいつものようにふわふわと歩いていて、鳥はいつものように空で歌っていて、海からの風はいつものように潮の香りを優しく運んでいて、僕だけが焦っていた。
「ルチアーノ」ベルナルドはそんな僕を諭すように言う。
「そういう時は、黙っているのも大事なんだぜ。何も言わなくたって、これが普通の事故じゃないことはファミリーの奴らはみんなうすうす気づいている。だからこそ、どうして黙ってるんだろうかって考えさせたほうがいい。今、お前が混乱してるようにな」
「わざと黙るの?」
「裏切ってるのがステファノだけだと信じるか?」
ベルナルドの言葉に、僕はハッと息を飲んだ。それは絶対にあってはいけない、けれど絶対に考えに入れておかなくてはいけない状況だった。
「こういう時に、ボスの力があれば無理やりみんなを尋問することもできるし、事実を突きつけて反応を見ることもできる。なんだかんだでステファノがこそこそしてるのもボスは気づいてたみたいだしな。」
僕はじっとベルナルドの顔を見上げてる。ベルナルドは事件が楽しくてしょうがない探偵のように話す。
「けどそれは、ボスの手のひらでむりやり躍らせる方法だ。ある程度こちらが情報をつかんでいれば、手のひらは格好の舞踏場になる。けど、今回は別だ。だから、手のひらを見せない。見せないことで、誰かが勝手に踊ってくれることもあるんだよ。」
ベルナルドは僕を見て「まあ、覚えておけよ」と笑った。
ベルナルドの話はいつも面白くて、僕はファミリーの一員として必要なことは全部彼から教わった気がしている。ベルナルドが父親だったらいいのにとは何度も思ったし、幼いころに直接本人にも言ったことがあるけど、ベルナルドは「俺が親父だったらお前は2歳で酒飲みになってたよ」と笑うだけだった。でも、父親ってこういう感じじゃないの? 確かに僕の家が特殊なのは理解しているけれど、僕は父に何かを学んだことなんて一度もない。期待さえされていない。そんなことを思わずぼやくと、じゃあ自分で言ってみればいいだろ?と返された。
「ちょっとまじめな話な。確かにお前は大変だ。けど、言っちゃっていいんだよ。我がままに思われるだけで済むなんて今のうちだぜ」
「そんな簡単に言わないでよ」
僕のほうが変わらなきゃいけないのか。僕は悪くないのに。もやもやしている僕を見て、ベルナルドが笑った。
「おいルチアーノ。ちゃんと寝てるか?」
「え?」
「真面目なのは悪いことじゃねえけど、ちゃんと寝ないと大事な時に元気が出ないぞ。考えても仕方がないことは、思いっきり寝て忘れちまえよ」
僕は動揺を必死に隠す。けれど、こういう感の鋭いところも好きだ。
僕が寝不足なのは事実だった。でもそれは考えすぎではなく、レーナに魔法を教えていたからだ。そしてそれは思っていたよりもはるかに大変なことだった。
一つ目の理由は、絶対に誰かに知られてはいけなかったこと。そして二つ目は、レーナは僕が適当に扱えるような女の子ではなかったこと。
ベルナルドみたいな人への憧れがあります。




