10.裏切り者は抵抗を続ける
10話まで読んでいただけるなんて感謝です。ありがとうございます。
ステファノも、もう何を言っても父が許さないのを悟ったようだった。突然駆けだし飛ばされた杖を左手で拾い、僕に向けた。
「取引だ、ボス」ハアハアと荒い息遣いで父をにらむ。
「いくら無能な息子だろうと、死ぬのは嫌だろう。殺さない代わりに、俺はこのまま島を離れさせてもらう。」
僕は、突然取引の材料に使われたことで頭も体も硬直していた。父はどういう決断をするのか。自分の息子を守ることを選ぶのが当然だと信じたかったが、心に生じた疑念は晴れることはなかった。このままじゃ死ぬ。そう思った。なんとか体を動かそうと手足に力を入れてみる。動け、動け
。
「思い違いをしているぞ、ステファノ。」父は全く動じなかった。
「私は息子が死のうが構わない。ファミリーを守るためならば」
そういうと、父は改めて杖をステファノに向けた。さすがにステファノもあわてて、杖を思わず父に向けた。僕はその瞬間に全体力を振り絞って腕を上げた。
「烈火砲!」
情けないほど小さな火の玉がステファノ目がけて飛んで行った。ステファノは一瞬はっとしたが簡単に僕の火の玉を避けた。しかし、その一瞬の隙は父がステファノを仕留めるには十分だった。父の杖から放たれた巨大な火の玉がステファノを焼き尽くした。
「ステファノはファミリーの極秘の任務中に死んだことにする。死体はすぐにレオナルドが処理するだろう。家族には私から言っておく。お前はドミニコの娘の世話をしておけ。わかっているだろうが、本当のことを言う必要はない。」
真っ黒な炭になってしまったステファノの横で父は僕を見降ろして淡々と告げた。僕は膝に手をついてなんとか立ち上がると、体に付いたごみを手で叩いて落とした。枯れ枝や細かい煤はなかなか落ちなかったけど、少しでもついているのが気持ち悪くて必死に叩いているうちに涙が出てきて、僕は父に見られるのが嫌で背を向けた。僕が何も言わないので父は黙ったまま去って行ったが、僕はひとつだけ聞きたいことがあった。
「どうしてここに来たの?」
父は足を止めて振り返った。「それがボスの仕事だ」。父はそれだけ言うと再び背を向けた。
「レーナの家は燃えちゃったんだ!」僕は叫んだ。
「代わりが見つかるまで、うちの空いている小屋にでもいてもらえ」今度は父は振り返らなかった。
ステファノの葬儀はその週の日曜に執り行われた。新しいオリーブ市場を広げによその島と交渉していたが、船の事故により死んでしまった、という話を誰もが信じたかどうかはわからないけれど、葬儀は悲しみにあふれ涙の中で終わった。ナンバー2としての威厳を持ちつつも、ファミリーの外では誰とでも同じように朗らかにしゃべっていたステファノは皆に好かれていたから。僕でさえ、彼の事を思い出すととてもいい人だったような気がしてくる。
あの夜、父と別れてから僕は急いでレーナのもとへ戻ったが、すでにレオナルドを中心にファミリーの人間が消火活動をしていて、レーナには毛布が掛けられていた。僕の汚れた顔を見てレオナルドはニヤッと笑い、「ここはいいから運んでやりな」と言ってくれた。気を失ったレーナの体はとても重くて丘の上の家まで運ぶのはものすごく大変だったけれど、誰にも手伝ってもらってはいけない気がした。レーナの体は柔らかくて、運んでいる最中はずっと恥ずかしかった。途中で目を覚ましませんようにとずっと祈っていた。
黒豆せんべいも好きです!




