表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

31 お兄ちゃんと兄と弟


「どうしよう……(ルイ)!。妹が、(コゴエ)が……!」


 いつも通り遅刻して登校した(ルイ)

 校門をくぐると、登校時間を過ぎているはずなのに校庭に人だかりができていた。


 その時点ですでに嫌な予感はしていたのだが、こちらに血相を変えて駆け寄ってくる幼馴染の姿を見てそれは確信に変わった。

 ついでに、その横にいつもいるはずの妹の姿が見えないことで、大方の予想までついた。


「あのマセガキが、何かしでかしたな……!」


「そうなんだ、どうやら最近噴出した熱泉に落ちたって──」

「……あの泉の熱さに、そうそう耐えきれるものじゃないわ。それでも上がってこないってことは……」


 (ムセビ)の隣で、彼と同じくらい蒼白の表情で(キョウ)が立ち尽くしている。

 彼女に事の次第を知らせたのは敷島(しきしま)達であった。彼女たちが泣き腫らした顔で(キョウ)のもとに報告してから、すでに10分が経過していた。


 状況は絶望的である。

 救出しようにも、あまりの熱さに近づくことすらできないのだ。


「どうしよう。(コゴエ)が……またいなくなっちゃう!」

「……」


 グルルルルルルル……!

 

 実は、校門をくぐる前からすでに、学院で何かあったことは分かっていた。

 先ほどからしきりに腹が鳴っていたからだ。


 どこかで不幸な目に合っている人間がいる。遅刻しながらも早めに登校できたのは腹の虫がうねくりかえっているせいだったのだ。

 腹の痛みをこらえながら、それでも(ルイ)は幼馴染に向きなおる。


(ムセビ)。あのマセガキは、お前の()だ。そして、お前のことをやたらと好いてやがる」

「……ウン」


「そして、お前はアイツの兄だ。その気持ちに応えてやる義務がある。俺様は、そう思う」

「……(ワタリ)君が、まともなことを……言っている……!?」


 驚愕し、一歩引きさがる(キョウ)

 しかしその一方で、どこかで納得している自分がいた。


(今、彼は()()()()()()について説いているんだわ)


 先日の喫茶店のひと時を思い出す。妹について語るとき、(ルイ)はいつも真面目──いや、必死な表情をしていた。

 それほど、彼にとっては重要なのだろう。


「だから、あのマセガキが戻ってきたら、その時はお前の気持ちを正直に伝えろ」

(ルイ)……?」


 お腹を苦しそうに抑えながら、何か覚悟を決めたように歯を食いしばっていた。

 目を細め、意を決したように駆け出す。


(ワタリ)!いるか!?」

「おう!」


 駆け寄ってきたジェーンに連れられながら、熱泉の方角に駆けていく。


獅子門(シシカド)さん。ボクは、どうすれば──」

「今は待ちましょう。でも、今のあたしたちにもできることはあるはずよ」







「教えろ、変態不良女教師!あのマセガキにもこの前と一緒の超菌(スーパー・セル)とやらが取り付いてんのか!?」

「事前に上がってきた報告書は、その傾向を示している。私も自分で確認したが、恐らくそうだろう」


「おい、エニグマ。この前、あの泉に何かが潜んでるとか言ってたな。何か思い出したかよ!?」

『なんとなくじゃがな。あの暑苦しい波動は、サーマス科の流れを汲む一族だと思うんじゃが……』


「だが、あんな熱湯の中で耐えきれんのかよ……」


 心配そうに泉を見据える。


超菌(スーパー・セル)三大理論。一つ目は”超代謝”──千勢(チセ)に棲み着いていた乳酸菌は、乳酸代謝に特化した超菌(スーパー・セル)だったのだろう。もう一つが”極限耐性”。どんな環境でも生存できる耐性を宿主に授けるタイプの菌もいる。おそらく、あの妹に棲みついたのはその類だ」

「なら、生きてる可能性が高いってことだ」


 とはいえ、問題は山積みだった。


 まずは、エニグマの能力について。本人は4000℃まで耐えられるなどと言っていたが、とてもそうは思えない。熱泉から噴き出してくる飛沫が肌に触れたが、堪えられるものか怪しいものだった。

 それに、力の源も問題だ。仮に熱泉に耐えきれたとしても、潜ってしまえば、彼に罵声を浴びせる者はいなくなる。とても相手に太刀打ちできるとは思えない。


 最大の問題は──


「なあ、あの熱泉……こんなに熱かったか?」


 熱泉を遠巻きに見守る生徒たち。先日(キョウ)と二人で張った柵よりも遥か手前で立ち止まっていた。

 熱くて近寄れないのだ。


 しかも、泉の奥底からは今も不気味な鳴動が続いている。まるで、噴火直前の火山のようである。

 

「話を聞くに、怯川(オビカワ)妹が飲み込まれるのと同時に活性化したらしい」

『どうやら、泉の底におる同類(どうるい)とシンクロしとるようじゃの。活性化したやつらは、互いに共鳴し増幅しあっておる。自分たちが()()()()()()環境にするためにな』


「ってことは、このまま放っておいたら……」

「校長が仕掛けた計測器が示すところには、新しい火山活動が始まろうとしているらしい」


 とんでもない話だ。


 エニグマが眠っていた地層がせり出してきたのも海底火山活動が原因らしい。

 もともと危険なエリアだったのだ。しかし、この至近距離で火山が噴火しようものなら……。


「クソッ。被災者なんてのは勘弁だぜ!」


 一刻も早く何とかしなくてはいけない。

 悲壮な覚悟を決めて、(ルイ)は腹巻をむしり取る。


 ドルルルルルルルルルン!!!


 幼馴染の妹の叫びに応えるように、深青の幻眩腸(リーク・ガット)が噴出する。


「生意気なマセガキが。一人で不幸を抱え込んで沈んでいこうなんざ、百年はええ!!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ