また、ね
空が茜色に染まる頃、遊びに行っていたクリフくんが帰って来た。
迎え出た私を見て、どこか穏やかに笑った彼がここに来たあの日よりも成長しているような気がして、妙に照れ臭く誇らしい気持ちになってしまう。
「おかえりなさい。どうだった?」
クリフくんは少し逡巡した後、笑った。
「未来が見えた。」
…お姉さんはさっぱりだよクリフくん。
「今日、だな。」
「今日、だね。」
夕方迎えに来るとガイさんは行っていたけれど確かな時間は分からない訳で、なんとなく二人揃って外で待つ。
小屋の傍にある木の根本に隣り合わせに腰を下ろして、なんとなく手を繋いでみる。
「…楽しんでくれた?」
「…うむ、楽しかった。」
「そっか。」
「ああ。」
ぎゅっと握られた手に、切ないくらいの気持ちを感じる。
帰りたくない。ここにいたい。でも、それは許されない。
「…礼を言う、イスト。」
ふと、握られた手から力が抜けた。
そして軽やかに立ち上がる彼の背中を見上げる。
ああ、こんなに大きな背中だっただろうか。
その向こうに、ゆっくりと歩いてくる人影が見えた。
「約束する。」
緩やかな風が彼の髪を揺らす。
「絶対にわたしは、貴女が笑っていられる国をつくる。」
今だって笑ってられるよ、と言おうとした私を振り返り、クリフくんは大人びた顔で微笑んだ。
その雰囲気に圧されて口を噤んでしまう。
「頑張らせてくれ。だから信じていてくれ。」
体ごと振り向いたクリフくんが伸ばした手を掴んで、そっと立ち上がる。
今更何を言ってるんだろうかと、自分よりも下にある顔を見下ろす。
「もうとっくに、クリフくんのこと信じてるよ。」
だから。
「また会える日まで、どうか健やかに。」
そっと正面から包むように抱きしめる。
背中に回された腕がぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「愛してるよ、クリフくん。」
ぴくり、と腕の中の体が震えた。
「………わたしも、あいしてる。」
万感の思いが籠められた言葉は、少しだけ震えていて笑みが零れる。
大切な、大切な子供。
最初は、大好きな人と、大好きな人の子供だって理由で可愛がっていた。
でもね、今は違うよ。君が誰と誰の間の子供だって、私はきっと愛してしまうんだろう。
ゆっくりと抱きしめていた腕を離す。
そんな私の腕を一瞬縋るかのように追おうとした彼の手が止まり、下ろされた。
そして顔を上げたクリフくんは、穏やかに笑っていた。
「イストこそ、息災で。…また会おう。」
そう言って背を向けガイさんの元へと走る彼の背中を目で追う。
少し離れた場所で佇んでいたガイさんが、深々と頭を下げた。そして傍まで辿り着いたクリフくんの手を取り、二人は私に背を向けて遠ざかって行く。
私は二人の姿が消えても、暫くの間見送り続けた。
そして、ちょっとだけ泣いた。
次はエピローグ的なものです。