風邪
そして、私は見事に風邪を引いた。
昨夜は結局兄二人は帰って来れず、ガイさんとクリフくんと私で夕食を囲んだ。
風邪気味ということを話すと、ガイさんが医者を連れて来てくれると言っていた。そんな大袈裟な、と思ったけれど、心配だと言われれば断り辛い。クリフくんも不安そうにしていたので、安心させる為にも夜にまた来て貰うように約束したのだけれど。
「…げほっ、一歩遅かったかー……げほげほっ」
「大丈夫か、イスト?わたしは何をすればいい?」
枕元に立って不安そうに私の手を握ってくれているクリフくんには悪いが、今私が一番心配なのは、この風邪がクリフくんにうつってしまうことだ。
「だ、大丈夫だよ。ただの風邪だし、寝てれば治るし!それよりごめんね、朝ご飯とか…」
「気にするでない、わたしは平気だ。それに昨夜の残りもあるだろう?それよりもイストの朝食の方が問題だ。」
昨夜は兄たちが帰って来なかったので、その分余ってしまったのだが、こんなことで役に立つとは。
私は正直何も食べたくない気分だし良いのだけれど、問題は今日の授業の中止をどう皆に伝えるか、だ。
まさかクリフくん一人に任せる訳にもいかないし。誰か来てくれないかなあ。兄さんたち帰って来ないかなあ。
「(無理か、兄さんたちクリフくんに合わせる顔ないだろうし)…大丈夫、食べたくないし。」
「でも何か食べねば力にならんだろう…。よし、わたしに任せろ!」
「へ?」
立ち上がったクリフくんは、満面の笑みで拳を握っている。
どうやら名案が浮かんだようだが、私にしてみれば嫌な予感しかしない。
「勉強会の皆にはわたしが事情を伝えてくるから、ゆっくりと休むといい!食べ物についてもわたしがどうにかしよう!イストは安心して養生するといいぞ!」
あー、やっぱり。
これは、マズイ。
「えっとね、そのね、凄く嬉しいんだけどね、私はクリフくんと一緒に居たいなぁ…なんて。」
率直に「貴方は賓客だから何かあったら困る」なんて言える訳もなく、仕方なく我侭を装ってみるが、やはりクリフくんは納得のいかなそうな顔をした。
「…だが、ジョーンたちはどうするのだ?」
「きっと私が来なかったら、誰か心配して来てくれると思うんだ。だから大丈夫。」
基本的に子供たちは私の家を知らないけど、近いし数人は知っていた筈。ジョーンみたいに子供を纏めてくれている纏め役みたいな子は特に。
「そうか…、では朝食だけでもどうにかしよう!」
「あー、うん、でも包丁とか火とか危ないしね?」
「平気だ。幼い頃から剣術を習っているから、包丁など危なくも無いぞ。火も、わたしの魔法でどうにでもなる!」
自慢気な顔でそう言われてしまえば黙るしかない。確かに王族の義務として小さな頃から剣術を習わなければいけないらしいし、魔法も王族なら差はあれど使えるらしいし。
幼いと言ってもクリフくんも立派な王族。魔法を使う素質なら十分にあるだろうし、素質があるということはきっと専属の教師に元で学んでいるんだろう。
「そっか、じゃあお願いするね。」
「うむ、任せろ!」
張り切っているクリフくんの姿を、可愛いと思ってしまう時点で、私は負けていたのかもしれない。
とは言ったものの、実際にクリフくんの姿が見えなくなり、台所の方から物音が聞こえ始めると、どうにも落ち着かなかった。
包丁で指は切っていないだろうか?火で火傷なんてしてないだろうか?
はらはらして休むどころじゃなかったけれど、風邪を引いた体は素直なもので、気付けば眠りに就いていた。
時間にすると多分三十分程だろう。私はクリフくんの声で目を覚ました。
目覚めて始めに見えたのは、クリフくんの心配そうな顔。
「大丈夫か、イスト?すまないが、料理の為に勝手に台所にあった紙を読ませて貰った。書いてあった粥というものを作ってみたのだが…食べられるか?」
「…ぁ…うん…」
掠れた声で返事をすれば、直ぐに彼の手が優しく私の背中に入れられる。
気遣いに溢れた手付きで上体を起こしてくれたクリフくんから水の入ったコップを受け取り、口を付ける。体は水分を欲していたようで、一気に飲み干してしまった。
「大丈夫か?」
「ふふふ、さっきからクリフくん、それしか言ってない。」
「む、仕方ないだろう!心配なのだ…」
むっとした顔をする子供らしい歳相応な姿に、愛おしさが込み上げてくる。
ベッドヘッドに寄りかかっても痛くないようにと、クリフくんが背中に枕を入れてくれた。
本当に、優しい子だ。人を気遣う心を持っている。
「ありがとう。」
腕を伸ばして、彼の頭を撫でる。優しく、愛おしさが少しでも伝わるように。
ふわふわの髪の触り心地がいい。クリフくんは、頬を朱に染めて目を細めている。その姿はまるで猫のよう。
何かを噛み締めるような表情をしていたクリフくんが、口を開いた。
「…イストが、母上だったら良かったのに。」
そうだったら、寂しい思いをしなくて済んだのに。
クリフくんの独白にも似た呟きに、私は首を傾げた。
それを見た彼は、悲しい程寂しい苦笑を浮かべ、私を見る。
「わたしは、城ではいつも一人だった。父上はわたしに興味がなく、母上はそんな父上に愛されないわたしを疎ましく思っているんだ。」
驚きの告白だった。
そんな筈がない、と直ぐに思った。だって、あの二人が、そんな。
「曾お爺様はわたしを自分の地位の為の駒としか見ていない。側近も臣下も女官も皆他人行儀。…ただ一人、ガイだけは違ったのに…」
けれどガイさんは、追放されてしまった。
唯一の、クリフくんにとっては友人にも近かったのだろう。
そんな彼が居なくなった城は、きっととても寂しいものだった筈。
けど、きっとそれは誤解だ。私の知っているあの二人が、自分たちの子供を蔑ろにする筈がない。
だってよく話したもの、自分の子供が出来たらどうするかって。
まだ婚約とかそういうのも考えていなかった、幼い頃。私たちは三人で語り合った。
美術を好んだ殿下は、我が子には絶対に筆を与えると語っていたし、マリアだって、絶対子供にはお菓子を作ってあげるんだ、と笑っていた。
私だって、子供と一緒に遊ぶのが夢だと話したのに。
なのに、こんなのってないよ。
「違うよ、クリフくん。それはきっと誤解だよ。」
あの二人が、そんな筈ない。
「…イストが、何を知っているというのだ?」
酷く歪な笑みを浮かべ、クリフくんが頭の上にあった私の手を取り、それを自分の頬へと持っていく。
泣きそうな顔をしているのに、彼は泣かなかった。
「父上は、わたしに言ったのだ。“これ以上子供を作ることをしたくない。だから生きろ”と。」
「そ、んな筈…」
「母上は言ったぞ?“何故、陛下から姿形を受け継がなかったのです!?”とな。」
「…う…そ…」
うそだ。そんなのうそだ。だって、殿下は、マリアは、私の大切な…。
私の?
違う、私じゃない、イストワールのだ。
「そんな顔をしないでくれ、イスト。そなたにそんな顔をされたら困ってしまう。」
今度は酷く大人びた笑みを浮かべて、クリフくんは傍に置いてあったトレーの上の器とスプーンを手に取った。
何事も無かったかのように器の中のお粥を掬い上げ、私の口元まで運ぶ。
「さあ、食べてみてくれ。自信作だ。」
震える唇にスプーンが触れる。私は、無意識に口を開いていた。
すっかり温くなったお粥は、食べるのには丁度良い。
戸惑っている自分とは別の自分が、冷静にお粥を飲み込む。
結果から言うと、とてもお粥は美味しかった。
「美味しいか?」
「…うん。」
「そうか!良かった!」
にっこり、と本当に嬉しそうに笑うクリフくんが、また器の中からお粥を掬い上げて私へと運ぶ。
私はそれを機械的な動きで受け入れた。
クリフくんは、笑っていた。
何でもないかのように。忘れてしまったかのように。
気付けば、頬を温かいものが伝っていた。
嬉しいのか、悲しいのか、もう何も私には分からなかった。
お粥を食べ切った頃、家にジョーンが訪ねて来た。
私が対応しようとしたのだが、クリフくんがそれを止め、結局彼が全て説明してくれたらしい。
何だか随分疲れてしまった私は、気が抜けたのか、そのまま意識を失うように眠ってしまった。
何も考えたくなかったのかもしれない。眠りへと逃げてしまいたかったのかもしれない。
とても皮肉なことに、殿下たちが夢に出て来た。
幸せだった、幼い頃の昔の夢。
そして目覚めた時、私はとても死にたい気持ちになった。
「(うううう、なんて情けない大人なんだ私は!!なんであそこで私は黙っちゃうんだよもう!!)」
風邪も随分よくなったようで、頭も気持ちもすっきりした。
だからこそ分かる。朝の私は病んでた。文字通り病んでたよ、心も体も!
だからこそ弱気になって混乱して、結局クリフくんの言葉に自分がショックを受けて。
ありえない。ショックを受けてるのは、クリフくんの方なのに。
悲しいのも辛いのも、信じたくないのもクリフくんの方なのに。
しかも彼は私の看病をずっとしていてくれたみたいで、椅子に座ったままベッドに突っ伏すようにして今は眠っている。きっと途中で疲れてしまったんだろう。
窓の外はもう茜色なので、時間は夕方だろう。
云々唸りながらベッドの上で頭を抱えつつ、考える。
クリフくんは、自分が蔑ろにされていると言っていた。
どうやら現に、それっぽいことを二人に言われたらしい。
でも、私の…イストワールの知る二人には考えられない。
人は変わるというけれど、こんなに劇的に変わるものだろうか?
何か理由があると思った方が、よっぽど信憑性がある。
「…でも、何で?」
実の息子を突き放すことに何の意味があるんだろうか。
仲が悪いと見せることで得なこと…って何だろう?
…分からない。情報が足らなすぎる。
寧ろ原因を考えるより、これからのことを考えた方がいい気がする。
思考の海へ思い切りダイブしていた私の意識を現実に引き戻したのは、ガイさんの来訪だった。
ガイさんは大きな紙袋を腕に現れた。
「大丈夫っすか、嬢~?生きてます~?お、意外と元気そうっすね~。あ、坊ちゃんったら寝てる。」
「意外は余計です、ガイさん。その紙袋なんですか?」
「あ、これっすか?一応念の為風邪薬と、滋養に良さそうなもんと食料持ってきたんすよ。」
ごそごそと紙袋の中から小さな白い紙袋を取り出し、ベッドサイドのテーブルへと置く。
紙袋には風邪薬と手書きで書かれていて、その筆跡はいつもお世話になっているあの医師のものだった。
「とりあえず夕飯は俺が作りますんで安心して下さいな!」
「あ、ありがとうございます…。というか私、クリフくんのお世話を任されたのに風邪なんか引いて…」
思わず項垂れてしまう。三日間彼のことを任されたのに、僅か一日で私は風邪で倒れてしまった。
クリフくんにとって貴重な三日間なのに、その内の一日を無意味に潰してしまったようなものだ。勉強会の子供たちとも折角仲良くなっただろうに。
「イスト嬢が気にしてること、大体分かりますけどねぇ。杞憂っすよ。」
「杞憂?」
「へい。イスト嬢が気にしてるのは、坊ちゃんのことでしょう?」
「は、はい。」
「だったら平気っすよ。少なくとも坊ちゃんは気にしてませんよ。」
「そりゃ、クリフくんが優しい子だから気を遣って…」
「あ、それは無いっすよ。」
嫌にきっぱりと断言するガイさんを怪訝そうに見上げる。
彼は近場に置いてあった椅子を引き寄せて、椅子の背を抱えるようにして座った。
「坊ちゃんって、意外と優先順位みたいなのがキッパリしてるんすよ。どうやらイスト嬢は随分と気に入られてるようっすね~。嬢を放って行かないってことは、そういうことっすよ。」
優先する必要ないと判断したら、スッパリとそのことを捨てる主義らしい。
思ってもみなかったクリフくんの性格に、開いた口が塞がらない。
「…で、イスト嬢は何を俺に聞きたいんで?」
「へ?」
「すっごく聞きたそうな顔されてますもん。」
そんなに分かり易い顔をしていただろうか。
ガイさんは悪戯っぽく笑ってから、椅子を立ち上がった。
「ま、答えられることには答えますけど、夕飯作った後にしましょうか。」
「はい…」
「坊ちゃんはこのまま寝かせてあげた方がいいっすねぇ。」
そう言ってガイさんは隣の兄たちの部屋(今はクリフくんが使っている)から毛布を持って来て、彼にそっと掛ける。
人の動きに敏感らしいクリフくんも疲れ切っていたのか起きる様子は全く無い。
夕飯を作りにガイさんが部屋を出て行くと、クリフくんの穏やかな寝息だけが室内に響く。
もう一度寝る気にはなれなかったので、暫く天使のような寝顔のクリフくんを観察していたら、そう時間も経たずにガイさんが出来上がったようで、教えに戻って来た。
ここで食べるかと聞かれたが、ベッドの上ももう飽きたし、何より寝ているとはいえクリフくんの前では話し辛いと思ったので居間の方へと行くことにする。
クリフくんを起こさないようにそっと動き、消化に良さそうなスープの置かれたテーブルへと座る。
「(お粥は前世のお母様の特製だもん、知らないよね)ありがとうございます。」
「いいっすよ~。お口に合うかは分かりませんが、どーぞ召し上がれ。」
ニコニコ笑顔のガイさんが、目の前に座って頬杖をつく。
食べている姿を人にじっと見られるのは嫌だったが、作って貰った手前嫌な顔をすることもできず、おずおずとスプーンを運ぶ。
味は少し塩味が強い気もしたが、美味しかった。
「で、イスト嬢は何を聞きたいんで?」
スープの中身も無くなって来たところで、唐突にガイさんがそう切り出す。
ぴくり、とスプーンを持っていた手が止まる。
おずおずと目の前のガイさんを見れば、彼は変わらず頬杖をついてヘラヘラと笑っている。
「…あの、クリフくんのご両親は、どういった方々なんですか?」
私たち以外誰も聞いていないとしても、何となく国王陛下とか王妃様とか口にするのは憚られた。
「そうっすねぇ…俺の感想でいいんで?」
「お願いします。」
「うーん、そうっすねぇ…お父上の方は、何だか何にも興味無いって感じの方っすね。国も家族も自分のことさえも。」
え、と一瞬何を言っているのか分からなかった。
呆然とする私の前で、ガイさんは続ける。
「まあ、古参連中が言うには、王太子時代はそりゃもう英気溢れた青年だったみたいっすけど、今はもう見る影ないっすねぇ。顔だけは一児の父親だと思えないくらい若々しいし、イケメンっすけどね。いやぁ、流石は坊ちゃんのお父上って感じっすよ。」
「…そう、ですか。」
もう何も言う気が起きない。だって、あまりにも私の知る人とは別人過ぎる。
あの方に一体何があったんだろうか。
「お母上もそりゃもう美人さんですけどね。」
そうですね、最近見ました。
なんて言える筈もないので、黙って聞く。
ガイさんは斜め上に視線を向け、眉を顰めた。
「…俺としちゃ、一番気に入らないんすけどね。お母上サマが。」
「…どうしてですか?」
あんなに素敵な母親然としていたのに。
首を傾げる私を見て、ガイさんは苦笑を浮かべた。
「まあ、国民には良妻賢母みたいに思われてるみたいっすけど、ありゃ唯の女っすよ。お父上の寵愛を渇望する余り、そのお父上の血を色濃く受け継がなかった自分似の子供を嫌悪する母親…。正直、無関心より酷い。」
サァと全身から血の気が引く思いがした。だって、だって、そんなのあんまりだ。
だって、違う。昔の彼女は、気高くて、強くて、私の憧れで。
こんな未来、想像出来ただろうか?
「イスト嬢がそんな顔するこたーないっすよ。」
優しいガイさんの言葉に、そんなに酷い顔をしているのだろうと思う。
そっと大きな手が伸びて、私の頭を撫でた。
「まあ、政略結婚だったみたいですし、ある意味正常な形なんすよ。」
「…そん、なの、違います…!きっと、もっと違う形が…!」
私の前世だって、両親は政略結婚だった。
確かに二人が和気藹々としている姿を見ることはあまり無かったが、人生のパートナーとしてお互いを尊重し、大切に思い合っていた。私や弟たちのことも、厳しくも愛してくれていた。
「かもしれないっすね。でも、貴族社会にはよくある話なんすよ。俺の家もそうだったですし。」
「ガイさんも…?」
思わずまじまじと見てしまい、慌てて俯く。愉快そうな笑い声が降って来た。
顔を上げた私の視界に映ったのは、痛ましい表情のガイさん、ではなく、本当に優しい顔をした彼。
「父上は好色家って奴でねぇ、愛人何人も作るし、母上は体裁を気にする人で、よく喧嘩してたんすよ。まあ、相性最悪って感じで。」
冗談めかして笑う姿に、痛ましさはない。彼にとって家族は、本当にどうでもいい存在なのかもしれない。そんな筈、ないのに。
「ま、俺の話はいいんすけどね。というわけで、坊ちゃんの家庭環境ってのは最悪っすよ。」
「……そうですか。」
あの二人は、変わってしまったんだろうか?
信じたくないけれど、ガイさんやクリフくんのことを疑うつもりもない。
約十五年。その間に、一体何があって二人は変わってしまったんだろうか?
さっきガイさんは、王太子時代はって言ってたし、少なくとも国王として即位するまでは、私の知っている殿下だったんだろうと思う。
国王になって、何かあったんだろうか。人を変えてしまう程の何か。
…考えても仕方ないか。私はもう、彼らの友人ではないんだから。
「話し辛い話をさせてしまって、すみませんでした。」
申し訳無さが今更ながら襲ってくる。でも、彼以外に聞ける人が私には居なかった。
それをガイさんも分かっていたからこそ、答えてくれたんだろう。
「気にしないで下さいな。嬢には感謝してるんすよ。」
「え?」
「坊ちゃんって、凄く他人を信用したりしない人なんすよ。そうなると誰かと笑い合ったりとか楽しそうにしてたりとか、俺以外に無かったんすよね。」
今度はまるで犬にでもするように、わしゃわしゃと頭を撫でられ、思わず目を瞑る。
その手から、ガイさんの嬉しくて堪らない気持ちが凄く伝わる。
「それがイスト嬢に会ってから、凄く楽しそうにしてて、嬉しいんすよ俺。」
「うう、で、でもそれって多分私だけではなくて…」
「断言できるっすよ。坊ちゃんは、嬢を大切に思ってる。」
離れていく手に少し寂しさを感じた。
ふと見た彼の表情は、いつもの飄々とした笑みではなく、本当に真剣そのもので。
「お礼を申し上げます、イスト嬢。」
…ガイさんが元騎士だったと、実感した瞬間だった。