第6話〜アテナ〜
「ハァ、ハァ……」
危なかった、一瞬でも遅れていたらあの土砂の中だ。振り返り、塞がれた洞窟を見てゾッとする。
「あ、あ、あの……」
女の子を抱えているのを忘れていた。見ると顔が赤くなっている。というかこれはお姫様だっこというやつじゃないか。
「ごめん!大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です」
慌てて下ろしてあげる。女の子は顔を赤らめたまま下を向いてモゾモゾとしてしまった。
「危ないところだったね」
「はい、本当にありがとうございます。でも、他のみんなは……みんなは私を守って……」
女の子が塞がった洞窟を見る。
倒れていたのはこの子のパーティだったのだろう。
目がどんどん潤っていき、ついには決壊して涙が溢れ出してしまった。
「もう少し早く助けられていたら良かったね、ごめん」
「いえ、そんな。私達が、いけない、んです。それに、冒険者ならいつかこう言うことが起きる、という心構えはしておかないと、ですから」
「そうか……」
確かに冒険者とはいつ死ぬかわからない職業だ。
ランク制度で昔より事故率は低くなったらしいが、こういう事故は度々起こっている。
「でも、いざ自分に起こるとやっぱり怖いですね」
拭っても拭っても涙が溢れ出すその子に俺は言葉を詰まらす。
「そうだね、そうだと思います」
俺は荷物持ちしかしていない。
危険といえばたまに敵の攻撃が流れてきてそれを避けるぐらいだった。
そんな俺がしてあげれるのは共感だけだ。
「冒険者になって初めてパーティに入れてもらって。まだ三ヶ月だったんです。みんないい人達で、私を守ってくれて……」
本当に大切な仲間だったのだろう。
慎重にいかず、急いで向かっていればもしかしたら間に合ったかもしれない。
今になって遅いけど後悔で拳に力が入る。
「だめですね、せっかく助けてもらったのに。本当にありがとうございます!」
小さな体で無理に笑顔を作る彼女に胸が痛くなる。
「あっ、自己紹介がまだでしたよね。私はアテナです、まだ冒険者になって浅いですが、一応魔法使いです」
何もいえないのを見て、話題を変えてくれたのだろうか。
「俺はルーク、魔法使い……だったけど今は剣士?なのかな?」
言ってみてふと自分は今なんなんだろうと思う。
魔法使いでもないだろうし、かと言って剣士かと言われると違うような気がする。
――魔剣士?うん、それが一番しっくりくる。
そう考えていると彼女がふと、ふふっと笑う。
「ごめんなさい、何かおかしくて、魔法使いか剣士かどっちなんですか」
「魔剣士、かな?」
「なんですか、それ」
「なんだろうね」
泣くのを堪えて笑ってくれていると分かるが、それでも彼女の笑顔が可愛く感じられる。
「もう日が暮れそうだから帰ろうか、送るよ」
「ありがとうございます。みんな、また来ますからね……」
崩れた洞窟を見て目を閉じた彼女の瞳からまた涙が一雫流れる。
そして俺の方を向いた彼女は切り替える様に自分の頬を両手で叩く。
「ではお願いします、夜は怖い魔物が現れるので心強いです」
「Fランクだけどね」
「えっ!?なんで?あんなに強いのに」
めちゃくちゃびっくりしているな。
結構感情豊かな子なのかな?まぁ、ランクはこれからが勝負、頑張ろう。