第2話〜荷物持ち〜
とは言っても仕事は見つけないと生活ができない。
Sランクギルドにいたからって荷物持ちの給料なんてかなり少ない。
それも少しでも足を引っ張らないようにと装備にお金を使ってしまっている。
――つまり、万年金欠なのだ。
重たい体を起こして外に出る。
ギルドを追放されてしまったのでユグドラシルの聖剣での仕事はできないな……公営ギルド『インスタギルド』にいくしかない。
住んでいる都市『インスタノブル』のギルドは大きく元いたユグドラシルの聖剣のように個人で依頼を受注してギルドを運営している私営ギルドと、都市が運営している公営ギルドにわかれる。
私営ギルドの依頼はギルド長から属している者に割り振られるので、基本的にはギルド員以外は受注することができない。その点公営ギルドではランクさえクリアしていれば誰でも受注することができる。
つまり、今私営ギルドに参加していない俺は公営ギルドの依頼しか受注できないってことだ。
「さて、と。俺にできるのは――」
「あれ?荷物持ちじゃん」
依頼板を見ていた俺に聞き覚えのある嫌な声がきこえてきた。――稀に依頼で一緒に仕事をすることがあった『クラウス』だ。
「こんにちは、クラウスさん」
「なんだお前、まだ冒険者するつもりなの?荷物を持つしかできないのに?」
依頼板をみている俺に馬鹿にした様な口調で話してくる。
前から一緒に仕事をするたびに俺を馬鹿にして嘲笑していた。
できれば会いたくないのになんでこんな早々に出会すんだ。
「うん、できる仕事があればって。クラウスさんこそどうしてここに?」
「俺は――これだよ、これ」
そういって、胸からカードを取り出し、どうだとばかりスカした金髪をかきあげる。
取り出されたのは『冒険者カード』だ。
個人の情報と自身のランクがかかれたそのカードはギルドでの身分証となる。そしてカードのランクを見ると【Bランク】と書かれている。どうやらCランクから昇格したようだ。
昇格審査は公営ギルドでしかできないので、奇しくもそのタイミングで出会ってしまった様だ。
「どうだ?万年Fランクのお前には眩しいだろう?」
その口調には流石に腹が立つが言い返せないのが悔しい。
確かに俺は一度も昇格した事のない最低のFランク。
依頼に出ても荷物持ちしかしてこなかった俺は、ギルドからの推薦もなく今まで昇格できなかったのだ。
「すごいですね」
当たり障りなく褒める。
「だろ?てかお前にできる依頼、俺もさがしてやるよ」
「は、はぁ、ありがとうございます」
上から目線に言ってくる。
うん、嫌な予感しかしない。
「――あるじゃねぇか、ピッタシのが」
突き出されたのは行商人の荷物運び。
確かに俺にピッタ――いやいや、完全に馬鹿にされてるじゃないか。
「今時馬もない貧乏行商人の荷物運びでもお前にはうってつけだろ?」
悔しいけれどぐうの音もでない。
「そう、だね」
そう言って依頼書を受け取る俺を見て、いきなり高笑いをするクラウス。
「ハハハ、まじでやるのかよ」
いつか、いつかギャフンと言わせたい!
けれど今の俺にはどうすることもできない。
「まぁ、一生荷物運びしとくんだな。あとユグドラシルの聖剣を名乗るなよ、恥ずかしいから。あぁ、まじ首にしてくれて良かったぜ」
そう残してギルドから去って行く。
残された俺は周りの人の視線が集まっているのにここで気づいてさらに恥ずかしくなり顔を下に向ける。
足早に受付に行き、依頼書を半ば叩きつけた。
「はい、【ロドンまでの荷物運び】で間違い無いですか?」
「……はい」
若い受付嬢が受け付けてくれるが、しかたないことなのはわかるが荷物運びと口にしてほしくない。
「ではこちらで依頼主にお伝えいたします。出発は明日朝8時からになっておりますので間違いないよう、お願いいたします」
――次の日、ギルド前で約束の時間に商人を待つ。
「おぉ、待たせたのぅ」
きたのはどれだけ入ってるんだと驚く様な大きなリュックを、倒れそうなほど前屈みになって背負う爺さんだった。
あれが荷物ってことだな、よし。
「【身体強化】」
荷物を持つため魔法で体を強化する。
「よろしくお願いします」
「うむ、では行くかの」
挨拶をし、強化した体で荷物を受け取る。
「え?他の人は?護衛とか」
「んなもんいやせん。お金がないものでな、荷物持ちを雇うのが精一杯じゃわい」
「は、はぁ……」
あっけらかんという爺さんだけど大丈夫か?
道中は道があるとはいえ、魔物や賊だっているかもしれない。
「いくぞ、時間がない」
歩き出す爺さんに少し不安に感じながらついて行く。
――そしてその不安は的中するのである。