第13話〜大道芸人〜
「ちょっ、アテナ、アテナ!」
だいぶ歩き、人通りの少ない道まで来てアテナがピタッと止まる。
「あー、むかつくむかつくぅ!何なんですかあの人は?」
地面を蹴りストレスを吐き出しているようだ。アテナは穏やかな女の子だと思っていたけどこういう一面もあるのか。
「アテナ落ち着いて」
「落ち着いていられません!ルークさんこそなんですか?言われっぱなしで!」
「あの人は元いたギルドの人なんだよ。俺はあの人の下で荷物持ちをした事もある」
「だからなんですか?今はルークさんの方が強いでしょ!?」
俺がクラウスより強い?そんな事――いや、確かにこの剣さえあれば……。
「次はビシッとしてくださいね!わかりました?」
「う、うん、わかったよ。約束する」
「はぁ、はぁ――ふぅ……じゃあ、気を取り直してギルドに報告にいきましょう」
「そうだね」
なんとか落ち着いてくれたみたいだ。意外と怒らせたら怖い子かもしれない、気をつけよう。
――「そうですか、やはりあのパーティが……」
ギルドでことの顛末を噛み砕いて説明すると受付が言う。何かおもうところがある反応だ。
「他にも何かあったんですか?」
「実は、以前にも何度かあのパーティと一緒に依頼をしていた冒険者が亡くなった事故があったんです」
「え?」
なんだって?そんな大事な事なら早く言うべきじゃないか。こっちは危うく死にかけたんだぞ。
「すみません、衝撃的も確証もないので野放しになっておりました。しかし、これで審問にかかることになるでしょう」
死人に口無しとはよく言ったものだ。ギルドも役所仕事であるため仕方ない部分はあるのだろうが、もう少しちゃんとしてほしいものだ。
「しっかり処分してください」
「わかりました、あとはこちらにお任せください」
思うところはあるが受付に言っても仕方ない。処分だけきっちりしてもらって次の被害者が出ない様に祈り、ギルドを後にする。
「ルークさん、あれ」
「あぁ、大道芸みたいだね。誰だろう?有名な人かな?」
ギルドを出ると広場に大道芸人がやってきているみたいだ。周りには人が集まっている。
俺達も釣られてその人混みに混ざる。
「あ、あのナイフ芸は『イエナ』さんですよ!隻眼のイエナさん!」
「有名なの?」
「知らないんですか?かなり有名なお方ですよ!私ファンなんです!見てくださいあのナイフ捌き」
目をキラキラとさせているアテナ。かなり興奮しているようで指を刺しピョンピョンと跳ねている。機嫌が完全に治ってくれたみたいで良かった。
赤い髪に翡翠の瞳で左目に眼帯をしている。軽装でスラッとしたスタイルの良い女性はステージによく映えている。
芸も確かにすごい。何本だろうか?先の曲がった特徴的なナイフが宙をくるくると舞っている。
「確かに凄いね」
宙に浮かぶナイフが触れてもないのに操られ、セットの輪っかの中を潜ったり、蝋燭の火を消したりと様々な動きをしている。あれはどういった仕掛けなんだろうか?
「ん?」
あれはなんだ?よく見るとナイフに紫色のオーラが見える。あれが仕掛けなのか?
ナイフを凝視しているとふと、イエナさんと目が合った気がした。いや、本当に見てる?気のせいか?
イエナさんがゆっくりと歩く、進路の人が避け、それが道となっていく。その間ナイフはずっとイエナさんの頭上を回っている。
「わわわ、イエナさんがこっち来ますよ!キャーッ!近いです!」
アテナは大興奮で嬉しそうだけど、なんか俺をずっと見ている気がするんだよなぁ……でも、なんでだ?それがわからない。
そしてイエナさんは笑顔を浮かべ俺の前までくる。俺も他の人を習い避けて通り道を作る。
しかし、イエナさんは俺の横でまた立ち止まり、そして俺の耳元に顔を近づけて囁いた。
「君――いい剣をもってるね」