第11.5話〜ユグドラシルのある部屋で〜
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「ルーク、お茶」
「おい、クララ」
「あ、そうだったわ、いなくなったんだった」
Sランクギルドにある一室。
主要メンバーしか入れないその部屋に五人が集まる。
クララがいつものようにソファーに座りながら雑用を頼むが、してくれる人はもういない。
「いなくなったらいなくなったで不便ね」
「お茶ぐらい自分でいれればいいじゃないか」
「えー、嫌よめんどくさい。ヘンリーでもいいからお茶入れてよ」
クララの座るソファーの後ろにあるギルド長席に座る彼に、背を向けたまま言葉を投げる。
「しません。自分でやりなさい」
「ケチ!もういい、干からびても知らないわよ」
言う事を聞いてくれず、拗ねて隣に座るエミリアの膝の上にポンと頭をおき寝転がる。
「だけど確かに彼がいないと荷物を持つ者がおらず不便なのは違いない」
クララの向かい側の席に座るエミルが会話に入る。
「確かに、荷物持ちがいないと場合によっては馬を借りないといけなくなる。経費が嵩むというのはあまりよくはない」
エミルの言葉にヘンリーが頷く。
「みんなルークを雑用係みたいに言わないでください」
「ああ、すまないねエミリア君」
不機嫌になるエミリアにヘンリーは謝罪する。
「でも他の人に適任がいないしねー」
尚もクララが続ける。
「だったら戻って来てもらうか?あの無能に。俺は絶対嫌だがな」
会話を立って聞いていたレオンが貧乏ゆすりをし、イライラしている。
「実力のない者がギルドにいるとお互い傷がついてしまう。ギルドにとっても彼にとってもこのギルドにいない方が良い」
ヘンリーが答える。
「そうそう、またあの無能がいけるから俺も雇ってくれると勘違いした奴が押し寄せても困るわ」
クララも賛し、寝転んだまま手をあげシッシッと振る。
「わたしの見極め不足だった、魔力が高いからと才能の有無を見誤った」
「ま、そのおかげでエミリアが入ってくれたし。結果オーライだわ」
ね、と彼女はエミリアにウインクする。
「しかし、エミリアもひでぇよな。普通幼馴染を追放するとか言われたら反対の一つでもするだろ?」
「いえ。荷物持ちと言っても依頼によっては危険がつきまといますし、雑用からも解放されたほうが良いと思ったので」
レオンの問いにエミリアは少し悲しそうに答える。
「もう彼の話はやめよう。もう彼はいない、荷物は各自持つ様に」
ヘンリーが手を叩いて話を収める。
「んじゃ俺は依頼に行ってくるわ、じゃあな」
「えぇ、いってらっしゃい。がんばるのよ」
寝転がりながら見送るクララに背を向けたまま適当に手を振りレオンが早々と部屋を後にする。
「わたしもそろそろ仕事をしなければならない」
「あぁ、よろしくたのむよ」
エミルが自分の書斎に向かっていった。
「私達も行きましょう」
「えぇ、今日は何を食べようかしら」
「ああ、行ってらっしゃい」
エミリアとクララも立ち上がって出ていく。
「――果たして空っぽの大器に水が満ちる日が来るのか……」
一人になったヘンリーが呟いた。