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(@-@)``  作者: 綿あめフワフワ
3/4

2話 ヒナは親鳥を静かに待つ

1,

 草原に崩れた砦がある。

 木々が天井を貫き屋根のように葉が覆っている。

「こんな場所を拠点にするのか?」

 以前の城内はまだ部屋として囲われていた。

 それに比べて、もうボロボロで自然と一体化して壁も苔に覆われて緑に染まっていた。

 鳥の巣があるらしく雛のさえずる声が響く。

「清々しい風が吹き心地よい日差しでとても気持ちいい場所です。

こんな素晴らしいのに不満なんですか?」

「外にいるのと変わらない。

それに虫とかも気持ち悪いだろう」

「音を出せば虫のほうがびっくりして逃げて行きます」

 ガサガサと手のひらぐらいある黒光りする虫が壁を歩いている。

 マデリーネが蹴ると壁は崩れ虫は飛んで逃げていく。

「おい、簡単に崩れているぞ」

「つい力が入り過ぎたです。

どうもアレは私も苦手なので見つけたら即撃退しています」

「まずは小屋を作って安全な場所を確保したい」

「小屋は、生命創生で配下を作って命令すれば良いです」

「成る程、それはいい考えだな」

 上から毛虫が落下してくる。

 バナナ程の大きさで黒い毛に覆われている。

 それが風太の肩に着地した。

 手で簡単に振り落とせそうだが体が硬直し動けないでいる。

「クスッ、もしかして毛虫が苦手なのですか?」

「早く、取ってくれ」

 マデリーネは指で軽く弾き毛虫を地面に落とした。

「これなら護衛が必要ですね。

まずは食欲旺盛で体力の多いのを作ると良いです」

「何でだ?」

「なんでも食べてくれるので、害虫もすぐに居なくなります。

更に繁殖ブーストを付けると更に効果的です」

「捕食者がいればすぐに居なくなるのは解るが気持ちの悪い化け物になったりしないか?」

「鳥は虫を食べますが、気持ち悪いですか?」

「見た目は何を食べているかは関係ないという事か」

「では、私は狩りに行きます」

 マデリーネは飛び立つ。


「また虫が落ちてきたらどうするんだ」

 虚しくその言葉は届かない。

 妖魔にも虫に似た奴がいるが、それは霊体であり実体はない。

 霊気の結界で阻むことが出来た。

 だが実際の虫はすり抜けてペチャッと体に触れたのである。

 それが運悪く毒を持っており腫れ上がった。

 その前世の記憶が恐怖となっていたのである。

 

 風太は辺りを見渡し、ゾッとする。

 木には大量の毛虫がうごめいていたのだ。

「こんな所に置き去りにするとか鬼畜か」

 生命創生を意識すると魔法陣が展開し床が輝く。

 そこに魔石を投げ込む。

 魔石は魂とであり潜在能力を決めるものである。

 より多く使えば優れ、少なければ貧弱になる。


 魔法陣に文字が浮かび上がる。

 "想像せよ、生き様、姿を!"

「無茶振りだ、なんにも考えてなかった」

 "何を望む"

 望むのはよく食べることである。

 風太の脳裏に妖魔が浮かぶ。

餓鬼(がき)……」

 餓鬼とは、いくら食べても満たされることのない妖魔の事だ。

 ガリガリだが腹が大きく膨れている姿をしている。

 "能力を与えよ!"

「能力値を決めるのか、キャラメイクと同じだな」

 バランスで均等な能力にするより極端な方が優れていることが多い。

 彼女のアドバイスを参考に体力に全フリする。

 体力は生命力とも関連しており、打たれ強くなる。

 更に魔石を投入すれば能力を上げることが出来るのだが風太はそれを知らない。

 次へと進んだのである。

 

 "贈り物をせよ!"

「何のことだ?」

 "技能を授けよ!"

 風太は知恵の書で付与できる技能を確認する。

 それを眺めるだけでも十分楽しく、期待が膨らむ。

「何でも食う、暴食の技能を付与」

 スキルを付与するには追加で魔石が必要だ。

 風太はバラバラと魔石を投入する。

「更に繁殖ブーストを付与」

 魔石は大量にある。

 鳩に餌をやるように鷲掴みで魔石を掴み魔法陣に放り込む。

 バラバラ……。

 後は肉体となる供物を魔法陣に放り込めば創生が始まる。

 

 そんな時、マデリーネが戻ってくる。

 ドン!

 山かと思うほどの大きさのイノシシが地面に落ちたのだった。

「うわっ……」

 上から毛虫が降り注ぐ。

 毛虫は魔法陣に吸い込まれ消え去る。

 魔法陣が赤く光り黒い卵のような塊が現れた。

「何を供物にしたんです」

「毛虫が落ちてきたんだ。

君がゆっくりと置かなかったから……」

「あは、それはごめんなさいです。

供物は肉体を構成するから、量によっては小さな肉体になってしまいます」

「毛虫を素手で捕まえるのは無理だ」

「私が持ち帰った戦利品があります。

チェインマジック! エリアルカッター!」

 マデリーネの両手が風の刃が現れ巨大イノシシを切り裂いていく。

 赤い光の粒子となって魔法陣へ流れ込んで行った。

 またたく間に皮と肉だけが残った。



「魔法は便利だな。

こんなに簡単に解体できるのか」

「解体スキルを持っているので、魔法のスキル反映によって適切に解体できるんです」

「それは楽でいいな」

「古典魔法は、魔法に引っ掛けて繋ぐ事ができるので、組み合わせたり連携出来るので応用の幅が広いです」

「そういえば魔法創生で鎖みたいなのが見えたな。

鎖に繋ぐ感じなのか」

「そうです。

まあ私のセンスが優れているから、簡単そうに見えるのです」

「それなら魔法でステーキとか夢じゃないな」

 肉の塊を火の魔法でステーキに出来そうと想像できてしまうほど、解体が素早く的確だった。

 風太の腹の虫が鳴く。

 マデリーネは申し訳無さそうに俯く。

「調理スキルがあれば、食用の肉は加工された状態で獲得も出来ます。

でも私は、その調理が苦手で……」

「生肉は流石に食べたくはないな」

「一人暮らししてたなら自炊ぐらい出来ますよね?」

「カップラーメンにお湯を注ぐぐらいなら出来る」

「……焼肉は?」

「鉄板でひっくり返すだけだろう。

それぐらい誰でも出来る」

 

 マデリーネは不安を感じつつも焚き火の用意をする。

 穴を掘った上に太めの木の棒を置き、その上に木の枝を乗せていく。

 穴から空気が通るように空洞が出来ている状態だ。

 太めの木の棒が燃料となり燃え続ける事になる。

 魔法で火を放つと木の枝が燃え上がる。

 

 日が暮れ薄暗くなりつつある。

 焚き火の明かりを囲むように二人は座る。

「私が見本を見せますので、同じようにしてください」

「苦手とは言いつつ、本当は美味しいんだろう?」

「それはどうでしょうね。

食べてみてのお楽しみです」

 マデリーネは肉を魔法で一口大に切り裂く。

 その肉を木の枝に挿して、火に炙り始めた。

 風太も真似をして焼き始める。

 ポワッン!

 何故か、マデリーネの焼いた肉が椀に入った謎のスープに変わった。

 色も深淵のような暗い紫で毒々しい。

「魔法を使う必要は無いだろう」

「不名誉なスキルがあって、ゲロマズ飯(極み)です」

「……どうやったら獲得できるんだ」

「前世での行いが関係しています。

これ以上は言わせないでください」

 風太の焼いた肉は特に変わった様子はない。

 見た目もこんがり焼き上がり美味しそうだ。

 だが口に入れると、異様な臭みに吐きそうになる。

「何だ、この肉は……」

「どうしたのです。

とても美味しいです」

「いや俺の口には合わない。

まだ林檎の方が良い」

「次に創る配下は、家庭的な感じにすると便利です」

「確かにまずい飯を食わされたら最悪だ」

 


 次の日、卵が赤い光を放つ。

「いよいよです」

 魔法陣が青く光ると卵に亀裂が入る。

 割れ目から光が漏れ一気に割れた。

 男女が抱き合う形で誕生した。

 人間の子供みたいな姿だが、肌は赤紫で額に小さな角が二本生えている。

 何故か毛皮の衣を体に巻いた状態だった。

「双子なのか?」

「対で誕生して、繁殖するのです」

「近親交配の問題は……」

「気にしなくて良いです。

人間とは全く違う種族だと理解してください」



2,

 風太は誕生した二人を餓男(ガオ)餓女(ガメ)と名付けた。

 二人は木に登り毛虫をムシャムシャと食べている。

「よくあんな物を食べられるな」

「私は狩りに行ってきます。

また肉を楽しみにすると良いです」

 臭みを思い出し風太はカップラーメンが恋しくなっていた。

「白い飯だけでも良い。

美味しいものが食べたい」

 すでにマデリーネは飛んでいった後だ。

 聞こえていたとしても却下されていただろう。

 ガオは毛虫を咥え木から降りた。

 そして風太に、その毛虫を渡す。

「はい、とても美味しい」

「それは君が食べると良い」

 ガオは不思議そうに首を傾げつつも毛虫を平らげる。

 もしかすると美味しいのかもしれないが、風太は食べる気にはなれない。

 食の改善は深刻な問題かしれない。

 風太は直ぐに生命創生のスキルを使おうとした。

 魔法陣が発生することはなく何も起きない。


「何でだ、前はこれで上手く行ったはずだ」

 解らない時は知恵の書を頼るのが一番だ。

 そこにはスキルには冷却時間(クールタイム)があり、連続使用が出来ないと注意書きがされていた。

 生命創生の冷却時間は一日である。

「……暫くまずい肉か」

 落胆し気力を無くした風太は横になる。

 ぼんやりと虫を取る二人を眺めていた。

 ガオは動きが鈍く、バッタを捕らえようとするが空を切る。

 バッタが顔の顔に乗った。

「うにゅっ!」

「動かないで、私が取る」

 ガメが勢いよく手で叩く、バシッと音が響きガオの顔面が赤くなった。

 バッタはバタバタ……と飛んでいく。

「うぅぅっ痛い」

「ごめん……」

 二人はバッタを諦め、動きの鈍い毛虫を狙い木に登り始めた。

 

 木々の間から太陽が見える。

 真昼なのだろうか、最も高く上がっている。

 ミシミシと軋む音が響き、ガメが掴まっていた枝が折れた。

 風太はとっさに動く。

 両腕で抱きかかえるようにガメを受け止めた。

 そこまでは良かったが支えきれず尻もちを付く形で倒れた。

「大丈夫か?」

「はい、主様ありがとうございました」

「気をつけるんだぞ」

 ガメは見た目は少女で軽そうだが異様に重く風太は腕を痛めていた。

 腕が腫れ痛みが遅れてやってくる。

 継続的なダメージによって周囲が赤い枠から見ているような異様な光景に見える。

「何が起きたんだ……」

 瀕死状態に陥った時の視覚効果である。

 前世ならそんな現象は起きなかっただろう。

 慣れない内は困惑する事が多く、風太も例に漏れず動揺していた。

 

 暫くするとその状態が解除され視覚効果が消える。

 日が暮れる頃合いとなっていた。

「一気に時間が過ぎた」

 直前までは日が真上にあった。

 一瞬で時間が変わったとしか感じられない。

 風太は恐ろしさを感じていた。

 こんな事が起きるのは、妖魔の特殊能力しかない。

「噂でしか知らないが、時間を食う化け物がいるらしい。

もしそれがこの近くにいるとすれば……」

 風太は存在しない敵を警戒し周囲を探る。

 気を練り周囲に放ち反射させることで霊的な存在を探るのだ。

 妖魔は負の気を纏っている。

 負の気と気が打つかるとお互いに打ち消し合い気が反射して戻ってくることはない。

 何もなければ放った気が戻ってくる。

 だが砦の隅の一箇所だけは気が戻ってくることはなかった。

「そこに居るんだな!」

 風太は前世の癖で懐に手を入れて道具を取ろうとした。

 だが何も持ってはない。

 もしそこに妖魔が居たなら、風太は致命傷を負っていたかも知れない。

 それぐらいの失態である。

 見つかった妖魔は口封じするために襲ってくる事が多い。

 特に隠れている妖魔は見つかることを恐れている。

 だから見つけたら即封印するのが定石だ。


 ズドドドドドーン!

 物凄い音に風太は驚き跳ねた。

「何をビビッているのです」

 マデリーネが風太の前に降り立つ。

 巨大イノシシが山積みとなっている。

「音で驚かすのはホラー映画だけにしてくれ」

「ふーん、慣れてくださいです」

「ゆっくり下ろせばいいだけだろう」

「違います。

魔法で運んでいるので振動はなかったはずです」

「確かに揺れた感じはしなかった。

ならなぜ音がするんだ?」

「それは魔法の効果音です」

「……消せないのか?」

「隠匿系の魔法は消費が重くて辛いです」

「解った下ろす前に教えてくれ」

「はい、次からは呼びます」

 一時解けた緊張だが直ぐに風太は気を引き締めた。

 霊の気配は動いていない。

 逃げずに留まっているのは土地に執着している場合が多い。

 近づかなければ害を及ぼすことは殆どない。

 放置するのも一つの手だが、仲間が危険に晒される可能性を考えれば放置はあり得なかった。

「筆と紙を持っていないか?」

「何か記録でも取るのなら、知恵の書に念じれば残せるのです」

「いや、封印をしようと思って……」

「前世の技なら、先入観を捨てて試してみると良いです」

「どういう事だ?」

「意図しなくてもゲロマズ料理になったり前世の行いが反映されているのです」

「よく解らないが試してみるか」

 地面には崩れた壁が転がっている。

 丁度いい四角く磨かれた石を風太は拾う。

 指先に念を込める感覚で撫でるように描き始める。

 姿が見えなくとも霊体の波動を体で感じ脳裏に浮かんだものをそのままに写し出すだけだ。

 幼少の頃から叩き込まれ体に染み付いている。

 自然と絵が浮かび上がる。

 角が生えた人のような姿だ。

「魔人族のようです」

「封印は成功したみたいだ」

「それで封印した後は何をするんです?」

「突然、目の前が赤くなって時間が奪われていた。

これで攻撃される事が無くなれば霊の仕業だったと判断できる」

「……ちょっと待ってください。

それって瀕死エフェクトです」

「ん? 瀕死って、ただ落下したガメを受け止めただけだ」

「前世の感覚だと大丈夫でも、今は能力値分の身体能力です。

だから少しの痛みでも死ぬことも……、恐ろしい」

「すまない、迂闊だった」

「彼らの体力なら落ちたぐらいでは死なないです」

 助けようとして死んだのでは、身代わりによって誰かが犠牲になって本末転倒だった。

 絶対に自分の命を優先させ無ければならないと風太は自覚した。

「今後は気をつける」

「故意にやって死んだら困るので言わなかったですが、

瀕死からの回復をすると生命力が少し上昇するんです」

「流石にリスクが高すぎる。

自分を痛めつける趣味もないしな」

「所で、その封印した霊はどうするんです?」

「攻撃してきたのかと思っていたからな。

無意味な事をしてしまった」

 マデリーネは知識マウントが出来ると笑みを浮かべた。

「死霊術が使えればアンデットとして蘇らせる事ができます」

 アンデットは呪いによって命を留めている化け物だ。

 呪いを断ち切らなければ何度でも蘇る。

 陽光に弱く、夜にしか行動できない。

 そういった特徴から寝ている夜間に行動できる戦力として活躍が期待できる。

 等など、マデリーネは延々と一方的に話し続けた。

 黙して聞いていた風太だったが、何時まで続くのか呆れて打ち切るように言った。

「骸骨やゾンビは俺の趣味じゃない」

 伝承に骸骨の妖魔が記されており、恐ろしくとても凶悪な存在だった。

 昔は土葬だった為に多かったようだが、火葬するように成ってからは存在しなくなった。

 とはいえ幼い頃に聞かされた怖い印象は心に残り続け、嫌な感覚を残し続けた。

「ええっ……、まあ気持ち悪いのは解りますが鬼強ですよ」

「どの道、死霊術は使えない」

「でも蘇生や転生は不可能なので、コレクションにするぐらいしか思いつかないです」

「ん? 創生でも使えないのか?」

「創生は供物の記憶とか経験は引き継がないです。

ですから霊が消滅するだけだと思います」

「存在を消滅させてしまうのは勿体ないな」

 実体を持たない霊を使役する意味がない。

 物理的な干渉方法がなく偵察させても肝心の得た情報を話せない。

 使い道は本当になく、封印したまま放置するしかない。

「気が変われば魔法の研究をしてみれば良いです」

「魔法創生があったな、じっくり考えてみるか」

「いえ、文化レベルというのがあって、その文化の技術を上げるために研究が必要です」

「なんか複雑な事を言い出すな。

一体何をすれば良いんだ?」

「研究机を作って、その前に座れば必要な物が脳裏に浮かぶので用意すれば研究できます」

「えっ、この年になって勉強なんやってられない」

 代々伝わる技術の継承はとても厳しく辛いものである。

 毎日のように知識を詰め込まれるのだ。

 更に学業もある、成績が悪ければ追加の修行が待っている。

 肉体が悲鳴を上げるような過酷なもので、それを思い出すだけで風太は顔が青ざめた。

「いえ、誰でも良いので研究させれば、それで発展していきます」

「俺が全部やっていたら大変だしな」

「知力値の高い子に任せると失敗が少なくて早く研究が進みます」

「そんな優れた能力を持っているのは君しか居ないんだが」

「ちょっ、ちょっと、待ってください」

 マデリーネは慌てて手を大げさに振って拒絶した。

 研究は時間を食いつぶすのだ。

 まともな文明に発展させるには、相当な時間が失われるだろう。

 拒否するのは当然だ。

「俺よりも知識も豊富で、死霊術に力説していたじゃないか」

「私は、体を動かす方が得意なんです」

「あの二人の、能力値は体力に全振りした」

 生命創生の最低値は人間の10歳位の身体能力である。

 大人なのにその程度の能力しか無いといえばどれだけ劣っているか解るだろう。

 魔法は高度な技術であり大人でも難解であり、習得するには生涯をかけても足りないほどである。

 それを10歳程度の知力しか無い者に任せるのは無謀であった。

「育成すれば能力は伸びるので、研究を続けていれば知力も伸びていきます」

「つまり専属で任せた方がいいって事か」

 専属にしたほうが明らかに効率は良い。

 能力上昇もあり、どんどん成長していくだろう。

 だが、その伸びは潜在能力に依存する。

 専属にしたのに成果が全く出せず、研究が進まないことに気づくだろう。

「同じ仕事を延々としないといけなかったらやる気が出ますか?」

「内容によるが、飽きて嫌気がするかもな」

「色々と仕事を与えたほうが気分転換に成って成長も良くなります」

「なる程な、そういう事に気が回らなかった。

少し考えておく」

 グルルル……。

 ガオとガメがよだれを垂らし、巨大イノシシを見つめている。

「私もお腹が空いたです」

 一匹でも余りある肉の量が取れるのに大量に積み重ねられている。

「いや。こんなに大量に食うのか?」

「いえ、何匹かは生け捕りにしてます。

トドメをお任せします」

 マデリーネは魔法でランスを作り出すと風太に渡す。

「どうして俺が?」

「経験値稼ぎです」

 行動をすれば能力が上がる。

 とはいえ、無抵抗に動けなくなった相手にトドメをさして何の経験が得られるというのだろうか。

 ゲームの世界だからトドメを刺した者が経験値を得るのは当然という事か。

 風太は納得行かないが試してみるしか無かった。

 ランスは水を突き刺しているかのような手応えのなさで貫く。

「なんだこの槍は……、全然手応えがない」

 巨大イノシシの肉体が光の粒子となって消滅すると同時に魔石が大量に転がった。

 空から宝箱が降ってきて、蓋が開く。

 風太は何事か解らず驚き、後ろに飛んで避けた。

「ふふふっ、アイテムドロップです。

宝箱はレアアイテムが入っています」

「運が良かったみたいだな」

 宝箱の中身は骨付きの肉、漫画で出てくるような骨にぶっとい肉がついているアレだ。

 それも焼き立てで香ばしい匂いが漂っている。

「その肉は能力値上昇効果があるので、出来るだけ食べたほうが良いです」

「いや、これを一人で食べるには多すぎないか?」

「無理せず、別けてもいいです」

 ナイフがあれば切り分けたのだが、かじり付くしかない。

 口の中に肉汁が広がり、旨味が食欲をそそる。

「なんだ、味付けがしてあるのか。

明らかに焼いただけの肉じゃない」

「能力値上昇のエキスに漬け込んであるんです。

ゲロマズがレアアイテムだったらガッカリでしょう」

「確かにゲロマズは最悪だ」

 風太は残った骨付き肉をマデリーネに渡す。

 マデリーネは何も気にせずに美味しそうに食べる。

 食べ残しとかを毛嫌いする人もいる。

 汚い物として食欲がなくなったりとするがそんなことはなく。

 かじった後すら食べる様子をみて風太は複雑な気持ちになっていた。

「美味しいです」

「気にしないんだな」

「はい?」

「いや何でもない」

 よだれを垂らし見つめているガオとガメ。

 空腹でお腹がグルグル鳴いている。

 マデリーネはハッとして、ガオとガメに残った肉を渡す。

「独り占めするつもりは無かったです」

「君のおかけで食べられた。

独り占めしても良かったぐらいだ」

「まだドロップチャンスは残っています」

 しかし、残りのイノシシからはレアドロップは出なかった。

 


3,

 創生の儀式を終えて風太は一息つく。

「次はどんなのにしたのですか?」

姑獲鳥(うぶめ)を思い浮かべた」

「どんな姿なのです」

「鳥のような姿をしている」

「それで私の羽を、供物に加えたんですね」

「落ちていた5枚だけだ。

なにか不味かったのか?」

「いえ、別に何も。

ただ私に関係あるのかと気になったんです」

「子を産めずに死んだ母の妖魔だ。

人間の子を巣に連れ去る性質を持っている」

「なんでそんな化け物を……」

「子に対する愛情が深く、大切にしてくれるだろうと思って」

「そうだといいですね」

 創生の魔法は思想まで汲み取ってはくれない。

 期待したものと大きく違っていることも多い。

 


 マデリーネは話をしつつ研究机を作っていた。

 取ってきた木を輪切りに加工し、指先で四角を書くのだ。

「研究机が出来ました。

これで研究ができます」

「丸太を置いただけにしか見えない」

「簡単な研究だけ出来ます。

その中に上位の研究机があります」

「まずは研究しないと、研究机が作れないという訳か」

「果てしなく長い道のりになります。

まずは簡単な物から研究していくと良いです」

 風太は今は暇で何もすることがないことに気づく。

 冷却期間がなければ、連続して創生を行って居ただろう。

 それを待つ間は、本当にボーとしているしかなく退屈でしか無かった。

「どんなものか試してみようか」

「机の前に座れば、どんな物を研究できるか解ります」

 机の上に書かれた四角の中に映像が浮かび上がる。

 絵と説明が記されていた。

「カテゴリーがあるのか、生活に戦闘、文化、料理、その他……」

「好きなものから選ぶと良いです」

「沢山ありすぎて、どれを選べば良いのか迷うな」

「トイレなんてお勧めです」

「穴を掘ってあるから、そこですれば良いだけだと思う」

「あの穴ですか……、した後、土で埋めるんだけですよね」

「それで何か問題でもあるのか」

「外でするのは恥ずかしいです。

それに、葉っぱで拭くのもなんか……」

「余り気にしていなかった。

気が付かなくて済まない」

 トイレを選ぶ。

 脳裏にどのような形にするか浮かんでくる。

(取り敢えず外から見られずに出来るトイレ……)

 ぼんやりと形が見え、それは四角く囲われた形をしていた。

 

 作るものが決まったからなのか、脳裏に浮かんでいたイメージが消えていた。

 そして必要な研究素材が表示されている。

「木の棒なら、薪用に集めてあるな」

「沢山必要になると思うから、取ってきます」

 砦の周辺ではもう回収出来ず、遠くに森がから回収している。

 マデリーネの負担は大きくなりつつあった。

 そんな彼女の負担を軽減するにも研究は必要である。

「助かる」

 風太が木の棒を手に取ると、それは光り輝くサイコロに変わった。

「なんだ!」

 一瞬驚いてサイコロを落としてしまう。

 出目は3だった。

 研究は失敗である。

 サイコロは砕け散り消滅した。

「意味がわからない、何だったんだ」

 もう一度、木の棒を手に取りサイコロへと変える。

 今度は慎重に振る。

 出目は5だった。

 サイコロが青く輝き、研究台に吸い込まれた。

 円グラフで研究の進捗状態が表される。

 三分の一ぐらい進んだようだ。

「成る程、サイコロの目が一定以上なら成功になるのか」

 風太はサイコロを振り、一喜一憂した。

 十何度目か、サイコロを振った時だ。

 マデリーネが戻ってきて、木の束を置く。

「随分と早く戻ってきたな」

「もうすぐ夕方です」

「何だって……、まだそんなに時間は経ってないはずだ」

 風太は、木の束が大量に積み重ねてあることに気づいた。

 一度にそれほど運ぶことは出来ず、何往復かしたのだろう。

 数時間過ぎている証拠だった。

「サイコロを振ったら、時間が一気に飛びます」

「知らずに夢中になって振っていた」

「気をつけないと疲労で倒れてしまいます」

「サイコロを振るだけで研究が進むから、ついつい夢中になる」

「回数を決めると良いです」

「トイレの研究は終わった」

「それは嬉しいです」

 ガオが作った簡易トイレが出来上がっていた。

 木の棒を骨組みにして四角柱に、イノシシの皮で覆っただけのトイレだ。

 用を足すところは穴が空いているだけで、結局進歩はない。

 それでも外から見られずに行えるのは大きい。

「出来はイマイチだが、無いよりかはマシだろう」

「はい、これで安全地帯を探しす手間が省けます」

 外は化け物が徘徊しており、無防備な所を襲われたら絶望的だ。

 砦の近くは狩りによって危険は排除されている為、比較的安全になってる。

 だが障害物が少なく、隠れるという課題があったのだ。

「副産物で、縄の研究も出来た。

ある木の皮を剥いで紐状にして使うだけなんだが、研究しなくても簡単に作れそうだよな」

「私達は前世の記憶があるから可能ですが、

他の者は研究なしの場合は殆上手く行かないです」

「この世界の法則に従うしか無いってことか」


 ガオがグルルル……とお腹を鳴らし近づいてくる。

「料理の研究はしたんです?」

「それはまだ」

 料理の研究をしなければ、何も作れないのである。

 風太が肉を焼けるのは、前世ボーナスでしかない。

「その研究も急いだほうが良いです」

「今日は我慢してくれ」

 必要な研究は多岐にわたり、前世の水準にするのは途方も無いことだった。

 風太が肉を焼いている間、ガオは研究台に向かって何かを作っている。


「何を研究させているんです」

「さあ、勝手に触り出した」

「真似し始めたのです。

上を見て育つので、振る舞いにも気をつけないと」

「俺が怠けて寝転がっていたら……」

「ぐーたらな配下になって役に立たないです」

「気をつけないとな、……って、面倒くさ」

「落ち着ける個室も必要ですね。

くつろげる時間も必要ですし」

「なんでこんなに大変なんだ」

「滅亡勢力を選んだからです。

他の勢力なら文明レベルもそこそこあります」

「今更、言っても仕方ない。

優先して欲しい事をリストにして置いてくれないか」

「お任せくださいです」

 それが途方もなく大変なことだと知るのはまだ先のことである。

 この時はまだ簡単にできる些細なことだと思っているのだった。

 

 少し焦げた肉を風太は眺めている。

「ゲームみたいだな」

「この世界の法則は神々が介入したことによって生まれたものです」

「神々は何をさせようとしているんだ」

「戦わせようとしているだけです」

「どうしてだ?」

「それは賭けを楽しむためです。

だから聖戦には色々な決まり事があってなるべく戦力差が出ないように調整されています」

「俺たちって駒というか遊び道具って扱いなのか」

「まあそうです。

兎に角、全力を尽くしましょう」

「……色々と思うことはあるが楽しむしか無いな」

 食事は微妙だが、集まって食べるのは悪くはない。

 ガオとガメは笑みを浮かべて美味しそうに食べる。

 見ているだけでも元気が貰えるようだった。


 

 食事を終える頃には日が落ち暗くなり始めていた。

 風太が、研究台に座るとガオがしていた研究成果が残っていた。

 連続失敗で進捗は全く進んでいない。

「寝床の研究か、地べたで寝るのは流石に嫌か」

 マデリーネが翼を広げてくれるので、それなりに暖かく寝ることは出来る。

(彼女に負担を強いて居るのかも知れないな)

 風太はサイコロを振る。

 6の目が出た。

 するとサイコロが2つに分裂する。

(ゾロ目が出れば一気に進捗が増える。

ここで成功させたい)

 その願いが通じたのか、6のゾロ目が出た。

「やった!」

 寝床の研究が終わった。

 ガオとガメは木の枝を集めて、寝床を作り始めた。

 数分で完成したのだが、それはどう見ても大きな鳥の巣だ。

「なんで鳥の巣なんだ」

 ガオが天井を指差す。

 ぴよぴよと鳴く姿が見える。


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