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聖獣達の鎮魂歌外伝~継承者の物語~  作者: 悠介


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歪みゆく歴史

 ディンと竜太達が出会った、その日の夜、坂崎家の食卓には兄弟たちとディン、そして源太がいた。

「まさか皆にも見せてあったなんてなぁ。」

「うん、だって皆のこと信じてるから。」

 夕食のから揚げを食べながら、ディンは驚く、それに対して当然だよという風な竜太、その言葉を聞いて弟達の口元が緩む。

「竜太お兄さんったら飛び上がるように手紙みせてきたんだよ?もう、びっくりしたよ!」

「ほんとだよ!まだみんな話もしてなかったのに、驚きすぎて苦しいの忘れちゃったもん!」

 大志と大樹が口々にそう告げる、どうやら竜太は事件の当日に手紙を皆に見せたようだった。

「ね!僕たちみんなで頑張ろうってきめたもん!」

 陽介も口を出す、心なしかディンの存在があるからか皆テンションが高い。

「ほんと大変だったんだよ?みんな無理しようとするんだから。」

 そう言いはするが、祐治も若干テンションが高い。

「はは、みんなディンさんに会うの楽しみにしてたんだね。」

 そんな弟達を見て笑う浩輔、という自分も、手紙のおかげで苦しさが少しも和らがなかったといえば嘘になる。

 ディンの手紙は、竜太に真実を伝えるとともに皆の励ましにもなっていたようだ。

「そっか、ごめんなもっと早く来れなくて……。」

「父ちゃん、謝らないでよ。だって、しなかったんじゃなくて出来なかったんでしょ?」

 ディンが申し訳なさそうに言うと、すかさず竜太が言葉をかける。

 力を失っているから、と書いてある事は知っている、そして今力を持っている竜太にとって、その状態でここに来るのは不可能だったという事もわかっている、だからこそかけられる言葉だ。

「そうだよ!それに竜を助けてくれたし!」

「……。話はよくわかんないけどさ、謝る事じゃないんじゃないか?」

 浩輔と源太もそれに続く。

「源太…、浩輔…。」

 嬉しそうに目じりに皺を作るディン、三人の優しさがよほど嬉しいのだろう。

「さ、ご飯食べちゃお!せっかく父ちゃんが作ってくれたんだし!」

 この話は終わり!というように竜太が皆に告げる、この話題を続けていると、いつまでも食事が終わらないと思ったからだ。

「そうだな、みんなよく味わってくれよ?」

「はーい!」

 ディンもその考えに気づき、皆をせかす、それに返事をして七人はせわしなく食事を終えた。


 二時間後、小学生の子供達を寝かせ、ディン、竜太、浩輔、源太だけがリビングに残った、祐治も起きていたそうにしていたが竜太の判断で今日はひとまずこの四人となった。

「さて、どこから話そうか?」

「いろいろ聞きたい事はあるんだけど、まずは僕が気絶した後の事教えてよ!」

 少し気分が高揚している竜太、やはりというべきか、そこは気になるのだろう。

「そこからか……、わかった。」

 ディンは一瞬躊躇うが、しかし頷き事の顛末を語り始めた。


「……。」

 竜太と襲撃者達の間に立ち、無言で竜太を見るディン、竜太が呼吸をしているのを確認すると、源太の安全を確認する。

「あ……、ぁ……!」

 恐怖で声が出なくなっている源太、しかし傷をつけられた跡などは見られない。

「……。よくもやってくれたな?」

 目の端でそれを確認すると、ディンは襲撃者達の方に向き直り口を開いた。

「……!」

 それは周囲の空気を張り詰めさせ、同時にひどく冷たい空気が場を支配する、襲撃者達の動きを止め、周囲の音全てを止めてしまうほどに、冷徹な声色。

「てめえら、許されるなんて思ってねえだろうな?」

「……!」

 動けない、目の前の者には勝てない、そう思うには十分すぎる威圧感。

 たった一人、しかもターゲットとそう年齢は変わらなそうな少年、そして何より、隻腕。

 八人という大人数で襲撃をかけた集団からすれば、本来取るに足らない相手のはずだ、それが何故。

「き、貴様は何者だ!?」

 襲撃者の一人、太めの男が恐れを隠せずに叫ぶ、沈黙に耐え切れず、声を出してしまったのだ。

「……。俺か?俺はな……。」

 そう呟くと、ディンの姿が消える。

「が……!」

 低い声が教室に響いた。

「!?」

 襲撃者達は声の方向を見る、そこにはディンがいた、左手に血濡れのナイフを持った状態で、ディンが立っていた。

 そして、地に倒れ伏す男がいた、喉を掻き切られ、あたりに血をまき散らして。

「こいつの父親だ。」

「な、父親!?」

 ディンの言葉にやせ型の女が叫ぶ、唯一血の付いたナイフを持っていることから、竜太に傷を負わせたのはこの女だと予想がつく。

「そんなバカな事があって……!?」

 それを否定しようとする、襲撃者達が手にした情報には、父親の存在など書いていなかったのだから、当然といえば当然だろう。

「残念だけどな、そんなことがあるんだよ。」

「ぎゃあぁあぁぁあ!?」

 女の金切り声が鳴り響く、ディンは一瞬にして女の腹部を掻き切っていた。

 女の黒いコートが染みでさらに濃くなる、そして、絶命した。

「な……、馬鹿な……!」

 痩身の男が驚愕の声をあげる、わずか三十秒で二人も殺された。

「馬鹿はてめえらだよ、人の子供にこんなことするから。」

 言葉とともにディンが消える、刹那、痩身の男と恰幅の良い女が喉を切り裂かれ、声もなく絶命した。

「……。」

 一瞬竜太と源太を見るディン、どうやら二人は気絶してしまったようだった。

「!?」

 残りの四人が戸惑い、怖気づく。

「さて、てめえらと会うのは初めてだな。」

 どよめいている四人に目を向け、笑う。

「こ、こんなことが……!」

「……?」

 深くかぶっているフードの下から低い男の声が聞こえる、その声に聞き覚えがあるディン、首をかしげる。

「……、いいわ、私達は……。」

 何かに気づいたように声を出すと、四人のうち一番後ろに陣取っていた襲撃者の女がフードをとる。

「……!?」

 驚く、眼を見開き、亡霊とでも対峙しているような、そんな反応をする。

「ふふ、やっぱり私たちの事を知ってるみたいね。あんたたち!」

 女は笑い、他の3人に指示を出す、すると三人もフードを外した。

「嘘だろ……!?」

「ふふ、どう?」

 ディンはさらに驚き女は笑う、男が二人と女が二人、まだ二十代と思われる若い女から四十を超えているだろう中年の男がいる。

「なんで、なんで貴方達が……!」

 驚くのも無理はない、その四人は、ディンにとってもとても懐かしい顔なのだから。

「なんで?面白いわね、最初っからそういう話だったのよ。ね、坂崎さん?」

「ええ、河野さん。」

 二人の女が笑う。

「……!」

 驚きと怒りで言葉を失い、恐ろしい形相になるディン。

「苦労したよ、守護者の魂を手に入れるのには。」

 四十代の男が話す、手を横に出し、やれやれという手ぶりをしながら。

「ですねぇ、佐野妻さんが一番危なかった。」

「おめえさん若いのに嘘がお得意だったからな、荒井よ。」

 男二人も笑う、河野と坂崎のやり取りを聞いて大体の事情を把握できたのだろうか、4人の襲撃者に余裕が見える。

「……。」

 ディンの左手に握られたナイフが小刻みに揺れる。

「あんた、私達の事知っているなら答えてみなさいよ?私達はなに?」

「貴方達は……、あの子達の……!」

 全てを理解したディン、怒りと悔しさとで唇を強く噛んでしまい、血が垂れる。

「あの子達の……!許さねぇ……、絶対許さねぇ!」

「ははは!ならどうするの?大事な息子の兄弟、、その親を!」

 河野が高らかに声をあげる。

「そう、どうするっていうんです?」

 それに乗っかるように声を上げる荒井。

「どうするかだと!そんなん決まってんだろ!」

 ディンは怒りのままに行動を選択した、ナイフを放り投げ、左手を四人に向けかざす。

「殺す!リュートに、あの子達に牙を向ける者すべて!」

 叫びとともに光の奔流がディンの左手に集まり、放たれた。

「竜神術、絶雷!」

 光の奔流は雷に姿を変え、そしてそこにいる四人を捉え焼き尽くす、否、正確には四人は消えてしまった。

 強すぎる電気エネルギーは、一瞬にして四人を灰にしてしまった、断末魔をあげる間も、痛みを感じさせる隙も与えずに。

「くそ……。」

 ディンは小さく呟く、そして。

「くそぉ!」

 怒鳴る、目の前の現実に、そして涙を流す、歪んでしまった歴史に、そして子供達の悲しみに。

「うわあぁああぁ!」

 叫ぶ、自分が信じてきたものに、崩れ去った自らの歴史に。

「くおおぉ!」

 吠える、自らの浅はかさに、背負わなければならない業に。


「……。」

 一分ほど経って、ディンは無言で竜太の前にしゃがみ、左手をかざす。

「移癒。」

 そう唱えると竜太の体が光りに包まれ、傷が癒えていく、そして、ディンの体のいたるところから血が流れる。

 それは、竜太が受けた傷と全く同じ所だ、痛みに耐えるディン、傷は煙を上げながら癒えていく。

 高等治療魔法「移癒」、対象の傷を自らに移す魔法、そして自身の治癒能力を活性化させ、自らの肉体で治癒する魔法だ。

「……。ごめん、みんな……。」

 立ち上がり呟く、誰に語り掛けるわけでもない独り言を呟くと、ディンは魔力を練る。

「同時転移。」

 ディンが詠唱をするとディン、竜太、源太の周りに魔法陣が形成され輝く、その輝きが 消えたころ、そこには誰もいなかった。

 ディンも竜太も、源太も、そして、八人の襲撃者の死体も、大量に流れた血痕も。

 そこには何もない、ただ、閑散とした教室が存在するだけだった。


「……。」

「……。」

「……。」

 誰も言葉を発さない、今語られた状況を、必死に飲み込もうとしている。

 否、必死に否定しようとしている、自分達の親が、自分達を殺そうとしていた。

 目の前にいる隻腕の青年が、自分達の親を殺した、しかも、竜太にとっては本当の父親。

 そして青年にとって、殺した相手はかつての親。

 誰も言葉を発さない、誰も発する事が出来ない、虚無というに相応しい静寂が、場を支配する。


「……、なんで……?」

 とても長く感じられた静寂を破ったのは、浩輔だった。

「なんで、母ちゃんが……?」

 首を横に振り、頬には涙が伝う。

「わかんないよ……。」

 浩輔は一人呟く、何もかもがわからない、本能が思考を停止させる、考えてはいけない、その答えは自らを傷つける、そう感じていた。

「父ちゃんは……。」

 また少しの沈黙の後、竜太が重々しく口を開く。

「父ちゃんは、このこと知ってたの……?」

「いや、知らなかったよ……。まさか、あの人達が……。」

「そっか……。」

 そして黙り込む、ディンとしても、これは予想できない出来事だった。

 いや、出来たとしてもしたくなかった事だ、何より、考えられる歪みの中で最も最悪で、最もあり得ないことだった。

「……。もしかして、見間違えなんてこと、ないか……。」

 源太が口を動かす。

 そうであってほしいと、あまり長く子供達と関わって来たわけではない、彼らの親の顔など見たこともない、しかし何よりディンの表情が、それが見間違いなどではないと語っていた。

「……、でもあの時……。」

 竜太が再び言葉を発する。

「確かに僕は見たんだ、母ちゃん達が死んだのを……。」

 あの時、というのは竜太と子供達が共同生活を始めるきっかけになった事件、犯人が見つからず、一か月は毎日どこかで報道されていた、松戸市連続殺人事件。

 被害者十一人、ほぼ一家惨殺、各被害家族の中で一人だけ生存者が存在し、、それらが皆知り合いだった、何か大きな問題があったのではないかと、マスコミは無責任に報道していた。

「病院で検死もされて。僕、終わった後色々説明されたんだから。」

 暗い表情で語る、自分達が母親に襲われたという事実を、簡単に否定出来る論拠だ。

「……、それに関しては竜太が寝てるうちに調べたんだ。」

 竜太が話を終えたと感じると、ディンは口を開く。

「確かに記録上は十一の死体はみんなの家族だった。」

「記録上は?」

 源太が引っ掛かりを感じて言葉を発する。

「ああ。で、俺の探知に引っかからない人間が四人、おそらく行方不明になってる。それが、襲撃者であった皆の親の兄弟なんだ。」

 ディンは源太を制し、話を続ける。

「俺の時の歴史の話だから信憑性に欠けるかもしれないけど、その兄弟四人は確かに生きてたんだ。事件の後、一度だけあったことがあるから。」

「じゃあ……。」

「だから顔も覚えてる、何より、あの人達の事を忘れるほど馬鹿じゃない。」

 浩輔が一度口をはさんだが、意に介さず一度話を完結させる。

「じゃあやっぱり……。」

 頭を垂れる竜太と浩輔、やはり自分の親たちが、しかし何故。

「恐らく、これが歴史の歪みだと思う。」

 ディンは持論を語る。

「何故とかどこがとかは俺の今の力じゃわかんないし、正直知りたくもない。調べはするけど、それでどうこうなるわけじゃないから。」

「今の力?父ちゃん、復活したんじゃ。」

 竜太が問う、含みのあるディンの言い方に違和感を感じる。

「ああ、でもまだ全部の力を覚醒させられたわけじゃない。だから、使える力も限られてくるんだ。」

 ディンはゆっくりと話す、それはまるで、自分自身が再確認したいと思っているかのようだ。

「そっか……、ここまで来れるようにはなったけど、って感じなんだ。」

 浩輔がわからないなりに、かみ砕いて理解する、この話だけは、ついていけないでは済まされない。

「そんなとこだ。だから今は、もう転移と治癒使っちまって魔力空っぽ、調べようにも調べられねぇんだ。」

 インターネットの情報などで判断できるほど軽い事ではない、それはここにいる全員が理解していた。

「……、でもほんとになんでなんだ?」

 源太が口を開く、ふと思いついた疑問を口にする軽さで。

「二人のお母さんがあの中にいて、でも竜太は親御さんが死んでるのを確認してて、ディンさんが竜太と俺をここに送った時には、えっと……。」

「とりあえずっていうのはおかしいけど、とりあえずこの話は情報が纏まってからにしよう。一番の問題はこれからどうするかだ。」

 源太が言葉に詰まったところで話を遮り、次の話題に進める。

「休めばある程度は魔力は回復するから、俺は明日からでも情報を集めようと思ってる。で、俺としてはある程度情報が揃うまではここから出ないでほしい。」

「父ちゃんの時とは違っちゃってるから、誰か敵かわかんないもんね。」

 ディンの提案に竜太が言葉をはさむ。

「それなら確かに、みんなを危険な目に遭わせたくないから賛成。」

「人を疑うのは嫌だけど、そうだね…。祐治たちを危険な目に遭わせたくない。」

 浩輔もそれに同調する、兄として、弟達を守らなければならない、それは、力を持っている持っていないの話ではない。

「俺は……。」

 話し始め、すぐに黙ってしまう源太、自分はどうすればいいのか、わからないという感じだ。

「出来れば源太にもここにいてほしいな、あと雄也も呼んでほしい。」

「なんで雄也が出てくるんだ?」

 ディンが優しく言葉をかけると、源太は頭に?を浮かべる。

「雄也は優しい子だ、それだけに前回深い傷を負ってしまったんだ。」

「そういえば雄也、あんまり良くない噂聞くしね…。誰かにいじめられてるって。」

 雄也は野球部に入部した時からいじめの対象だった、小学校中学年といってもおかしくない容姿が、格好の的だったのだろう。

「でも、どうやって……。」

「簡単さ、脅し半分でここに連れてきてから全部話せばいい、きちんとケアしてあげればあの子はわかってくれるよ。」

 ディンが方法を提案する、それは、一つの賭けであり、一つの確信めいた事でもあった。

「うーん、あんまりいい話じゃないけど、それが一番早いかもな。」

「そこはまかせろ、まあ明日中にはやるから。」

「え、早くない!?」

 重苦しい空気の中にいるにも関わらず、浩輔が涙を忘れてツッコミを入れてしまう程、軽々しく吐かれた言葉。

「ああ、明日には魔力もある程度回復してる。人一人転移させるくらいなら出来る、その後のこともまあ大体は想像できてるよ。」

 思わず笑うディン、涙の跡が残っているにも関わらずツッコミを入れる浩輔の姿は、さぞ滑稽だっただろう。

「……。さすが竜太のお父さんなだけあるな…、話のスケールが違うぜ……。」

 源太もまた笑う、浩輔の姿を見て緊張の糸が緩んだのだろう。

「じゃあそこらへんは父ちゃんに任せるとして、僕はどうしよう?」

 竜太がディンに問う。

 仮にも力を持つものとして、何もしないわけにはいかない、そう思わせる口ぶりだ。

「竜太……。俺は本当はお前に負担をかけさせたくない、でもそう言えるほどの力は今俺にはない、だから……。」

「協力するよ、僕は僕の意思でみんなを守りたいんだ。」

「……、わかった。」

 躊躇いを見せるディンに、竜太は明言する、その瞳は、かつて自らが宿していたものと同じ強い意志が写っている。

 結局のところ、誰が誰を殺したとか誰が殺されただとか、その話は調べてみないと何もわからない、もしかしたら彼らは全くの他人だったのかもしれない。

 だが、それは今の四人には関係がなかった。

 竜太と源太にとって、ディンは命の恩人だ、浩輔にとって、ディンは弟を救ってくれた人だ、それに竜太にとって、ディンは大切な父親だ。

 そしてディンにとって、ここにいる全員が命を賭して守りたい子供達だ。

 しがらみなどそこにはない、歪んでしまった歴史の中で、決して歪まない愛がそこにはあったのだ。

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