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生きて帰るという約束

「さあ!消え去れ!」

 戦いは始まってしまった、デインがその場で剣を振るうと、剣から闇が波状に放たれディンへ向かう。

「闇照らす光よ!」

 ディンは構えていた剣を横に振るう、ディンの剣から光が迸り、目の前に迫っていた闇と衝突し消えた。

「では、これはどうかな?」

 デインが消え、目の前に現れる、無造作とも言える動きで袈裟に振るわれた剣が迫ってくる。

「っ……!」

 ディンは弾こうと上に剣を振るったが、間に合わなかったのか左の肩を少し斬られるがしかし、かまわずに剣を振りぬき、重傷にならずに済む。

「わあぁ!」

 ガキンと金属が当たる音、それとともに、あたりを暴風が襲う。

 絶界を通して襲う風に、皆腕で顔を庇い防ぐ。

「なかなかやるではないか!」

 デインは嘲笑とともに後ろに跳ぶ、そして十メートルほど下がって、優雅ともいえる動作で地に足をつく。

「こんなもんで実力がわかってたまるか!」

 今度はディンが攻める、デインの懐に走り込み、右に構えた剣を一閃した。

「な!だが弱い!」

 格下とせせら笑っていたデインは、不意を突かれ反撃を食らう、腰回りのローブと服が破け、横に傷が入る、しかし瞬間的に傷が癒え、反撃を加えようと剣が振るわれる。

「喰らうか!」

 それをいなし後ろに跳ぶディン、瞬時に距離を詰め、デインの剣に剣をぶつける、また爆風が巻き起こり、皆が悲鳴に近い声を上げる。


「なんて戦いなんだ!」

「まるでついていけないよ……!」

 わずか五秒の間に起きた出来事、目の前で繰り広げられるぎりぎり追いつけるか追いつけないかの戦いに、皆思わず目を見開く。

 竜太でさえ見たことがない本気のディンと、それに勝るとも劣らないデイン、いや、片腕のディンの方が技量は上、といえるのかもしれない。

「父ちゃん!負けないで!」

「負けんなぁ!おやじぃ!」

「危ないよぉ!」

 子供達が必死に応援している、負けてほしくない、約束を破ってほしくない、そう願って、懸命に声を張り続ける。


「あぁ、ディン様……。」

「ジール?」

「私達は何にも出来ない、それってこんなに悔しい事だったんだね……。」

「クェイサー……。」

「今あいつがしてんのは、ずっと前のしりぬぐいなんだもんね……。」

「フラディアまで。」

 滞空しながら二人の戦いを見ていて、気持ちを吐き出す竜達。

 今戦っているのは、確かに王だ、王でなければ封印は解けないし、対峙することは出来ない。

 しかし、それはディンが望んだことではない、ただ王を継ぐ者として、戦わなければならない。

「……、我々は名の為に此処にいる?」

「カテストロ……!?」

「……、我々は泣き事を言う為にここにいるのか……?」

「……。」

「我々は王を信じた……。ならば最後まで信じぬくのが……、我々のすべき事ではないのか……?」

 重々しく口を開く暗竜カテストロ、そのしゃがれた声に、竜達は驚く。

「確かに今王が戦っているのは我々の不出来の不始末かもしれない、しかし王はそのような考えは持っていないだろう。」

「それは……。」

「ならば我々がここで愚論を交わす理由は無かろう?」

「確かのそうだけどさ……、あんたはなんも思ってないの!?」

 嗄れ声で話を続けるカテストロに、フラディアは噛みつく、そんなことはわかっているが、考えてしまうのだと。

「我の思考など何の意味も持たぬ、それよりも濁竜よ、あそこにいる子等を見てみよ。」

「……?」

「皆、王を信じておる。皆、王の勝利を願っておる。」

「……。」

「貴様等が愚論を交わしている間、彼の者達は王を見ておった。」

 フラディアは珍しく黙って聞いている。否、悲し気に目を背けていた竜達は皆、実に七百年ぶりに口を開いたカテストロの言葉を聞いている。

「彼の者等は王を信じておるのだ。戦う事を知らぬ者達でさえ、な。」

「……。確かにカテストロの言う通りだ、僕達は王様を信じてここにいる。なら、ここで悲しんでいるのは王様を信じていないことになってしまう。」

「テンペシア、貴方……。」

「信じよう、僕達の王様を、みんなの父を。」

「……、そうですわね……。」

 ブリジールの肯定を最後に、ドラゴン達は沈黙した、黙し見届ける事、それが自らの定めだと。


 二十分ほど続いた斬撃の応酬、余裕で剣をふるい続けるデインに対して、少しずつ疲労の色が見えてくるディン。

 少しずつ動きが鈍り、反応力が落ちてくる、致命傷こそ受けずとも、所々服は裂け血が滲んでいる。

「喰らえ!」

 斬り合いに飽きてきたのか、そろそろ頃合だと考えたのか、強襲をかけるように再び袈裟に斬りかかるデイン。

「喰らうか!」

 攻撃を予期していたディンは瞬時に体を後ろに引き、そのまま飛び下がる。

「それで避けているつもりか!戯けが!」

 デインは下がるディンを追うように前進し、振り切った剣をそのまま逆に薙ぐ。

「ただじゃ喰らわねぇよ!」

 ならば肉を斬らせて骨を断つ、斬られる覚悟で剣を振りかぶり思い切り斜めに振るう。

「父ちゃん!」

 二人から目を離せないでいた竜太は、見てしまった、深々と腹を裂き、片や深々と肩にめり込む二本の剣を。

「ぐっ!」

「っつ……!」

 同時に漏れる痛みに耐える声、そしてほぼ同時に後ろに跳ぶ2人。

「くっ、中々やりおるな……、だが!」

 デインは右肩を押さえながら目を細めてディンを見る、斬られた肩に闇の奔流が集まり、傷を癒していく。

「はぁ、はぁ。」

「我が剣の毒に気づかなかったのが命取りよ!」

 ディンは剣を落とし、腹を押さえる、治癒しようと魔力を練り、黄緑色の光が傷を覆っている。

 がしかし、癒えない、光の内側、傷に張り付くように闇が纏わり付き、治癒を妨害している。

「我が闇は全てを蝕む毒となる!貴様如きの光では、治癒することは叶わぬよ!」

「くっそ……。」

 獲物を追い詰めた豹のような目をし、ディンを笑う、ディンは魔力を集中させ治癒しようとするが、無駄に終わる。

「なら、このまま、戦うだけだ……。」

 傷の治癒をやめ、血塗れの手で剣を握るディン、灰色のパーカーが、明るめのカーキ色のチノパンが、朱に染まっていく。

「ほう?その気概だけは褒めて遣わそう、だが!」

 デインは薄ら笑いを浮かべながら消え、ディンの目の前に現れる。

「……!」

 そして両手で握り直した剣を振り上げ、斜めに一閃した、ディンは辛うじてそれを受け止めるが、斬られた腹部に痛みが走り足の力が抜けてしまう。

「その傷で我に敵うと思うてか!」

「がっ!?」

 膝をついてしまった所を思い切り蹴られ、一瞬気を失いそうになりながら吹き飛ぶ、体勢を立て直すことも出来ず絶界にぶつかり、ゆっくりと落ちていく。

「ディンさん!」

「オヤジ!」

 すぐ近くにいた2人が悲痛な声を上げる、絶界に凭れかけ苦痛に耐えているディンの姿は、痛々しいという言葉では言い表しきれない。

「だい、じょうぶ……。」

 何とか声に出すが、掠れた小さな声しか出てこない。


(これは、まずい……。)

 ディンは感じていた、恐らく自分はまた負けると。

(でも、今度は……)

 しかし、どこかそれでもいいと感じていた、今回自分が負けたとしても、誰かが場を離れれば、封印解除はキャンセルされ、デインはまた封印される。

 そして、一つ目の絶界は解けない、「自分が死んだとしても破壊されない結界」、つまり、封印が解けたとしてもデインがその場を離れることは出来ない。

「でも、なぁ……。」

 ディンは立ち上がる、負けるにしても、最期まで戦う事は諦めない。

 それが、自分を信じてくれた皆へのせめてもの答え。

「ほほう?その傷でまだ抗えるというのか?」

 ディンがゆらゆらと立ち上がる姿を見て、目を細めるデイン、その瞳には嘲りを、その唇は嘲笑を浮かべている。

「まだ、負けて、ないからな……。」

 絞りだすように声をだし、手を前に翳す、多量の出血で腹部は真っ赤になり、吹き飛ばされたと時の衝撃で飛び散った血が体中にちりばめられ、まるで地獄から這い出てきた幽鬼のようになりながら。

「竜神、王術……、淵絶雷……!」

 掠れる声で詠唱すると、ディンの手の先から雷が迸り、デインへと襲い掛かる。

「甘いな!我が甥御よ!」

 しかしデインが剣を一振りすると、その雷は弾かれ絶界にぶつかり消えてしまった、強化された竜神王術を、まるで目の前を飛ぶ蠅を払うかのように、易々と。

「くっそ……。」

 絶界に凭れ、悔しそうな声を上げるディン、出血は止まらない、常人ならとっくに失血死しているであろう出血量だ。

 いくら竜神とはいえ、人間と同じ構造をしているのだから、血液の量にも限りがある。

「そろそろ楽にしてやろう、いや……。」

 デインは嘲笑を浮かべたまま、瞬間移動した。

「貴様は苦しみながら、恨みながら死ぬのだ。」

「ぐ、がは……!」

 目の前に現れたデイン、右の肋骨あたりに感じる鋭い痛み、熱い液体が流れる感覚。

「貴様は憎みながら、悔いながら死ぬのだ。」

「ぐぅ……!」

 肋骨から抜かれ、今度は胃のあたりに刺さる剣、泉のように血が溢れ、ディンを紅く染めていく。

 血にまみれ、血を吸う剣、血を吸い続けることで強くなる、呪われた神の剣、デインの中の闇が、血の代わりに闇をディンに流し込む。

「父ちゃん!」

「貴様等はそこで見ているがよい!我を倒さんとする愚者の末路をな!」

 竜太の叫びにデインが反応し、その場にいる全員に向かって呪いの言葉を投げかける、皆どうにかして絶界を破ろうとしているが、しかし強力過ぎる結界は破れない。

「やめろ!父ちゃんをこれ以上傷つけるな!」

 竜太はひたすらに結界を殴り続ける、剣を使いたかったが、動けないうえにすぐ近くに浩輔がいるから使えない、もう何度拳をふるっただろうか、殴り続ける拳に血が滲んでいる。

「父ちゃん!今……!」

「ははは!愉快よのう!」

 竜太と浩輔には、ディンの背中を貫いている漆黒の剣が見えている、だから、余計焦燥感に駆られる。

「傷つけるなとは出来ない相談だな、我はこやつを屠りここから出なければならないのでな。」

「……、そりゃ、無理だ……。」

「ほう、まだ話す余力が残っていたか!ならば!」

「がぁ!」

 左手で剣を掴み、何とか傷を癒しながら剣を抜こうとしているディン、しかし、デインの力によってそれは一気に引き抜かれ、再び吸い込まれるようにディンの体へと向かう。

「……!」

「父ちゃん……!」

「デインさん!もうやめてぇ!」

 剣を抜かれた拍子に上を向いてしまうディン、そのがら空きの首元に、邪神の剣は喰らいついた。

「……。」

 胸から喉にかけて縦に裂かれ、呼吸が出来なくなるディン。

(嗚呼、やっぱり……。)

 ディンの心に絶望が広がる、そして、その絶望が伝播するようにその場にいる者達に広がっていく。

「……。」

 喉を裂かれ声を発する事もなく、ズルズルと下がっていき地面に倒れ伏す、皆との約束を守れないことを、悔いながら。

「ディン!」

「父ちゃん!」

 叫び声が木霊する、呼べば、笑いながら応えてくれると信じて、いつものように優しさを讃えるその瞳を細め、笑ってくれると信じて。

「……。」

「無駄だ!こやつは最早起き上がる事はない!」

「ふざけんな!父ちゃんは…、父ちゃんは約束したんだ!」

「ほう?何をだ?」

 竜太に向かい声をかける、デインは気づいているだろうか、竜太がディンの息子である事を。

「生きて帰るって……、絶対負けないって約束したんだ!」

「ははは!それは愉快!しかし現実とは残酷なものなのだよ!」

「ふざけんな!今すぐお前をぶん殴ってやる!」

 怒りで言葉が荒くなる竜太、認めたくない、ディンの敗北を否定することで自身を保っている。

「何を言おうとこやつが敗北したことに変わりはない。」

 デインはディンを蹴り飛ばし仰向けにする、その姿に、竜太は言葉を失う。

「どうした?こやつは死なぬのだろう?」

 肺を貫かれ、喉を裂かれ、ディンの呼吸は止まっていた。

 結界が消えていないという事は、まだ息絶えたわけではないが、もう絶望的だった。

「……!」

 皆ディンの姿に絶句する、目を背けたい、見たくない、認めたくない。

 悲しみが、絶望が、心臓を鷲掴みにする。

「結界が消えていない所を見るにまだ息はあるようだな、ならば!」

「……。」

 デインは剣を逆手に構え、とどめを刺すべく大きく上に持ち上げる、そして、それをディンに向かって振り下ろした。


 ……。

 やっぱり、だめだったな……。

 混濁する意識の中、ディンは1人考えていた、もう痛みを感じない、肉体はその活動を止めてしまっていた、ただ魂だけが鳴動し、結界を保っている。

 みんな、ごめん……、デイン、助けられなくてごめん…、竜太、傍にいられなくてごめん……、先代達、貴方達の犠牲を無駄にして……。

 少しずつ思考が緩慢になっていく、肉体を失った魂は、そう長くとどまることは出来ない。

 ……、悠輔、俺は……。

 最期に思い出す、五百年眠っている最愛の人を、自分の中にいる、もう一つの魂を。

 ディンが死ねば、眠っている悠輔の魂も消滅する。

 何もできずに……。

 もう、考える事も煩わしい、ほの暗い空間の中、魂が鳴動をやめようとした、その時…。

「ディン、君はこんな所で諦めるのかい?」

「貴方はこんな所で死ぬわけにはいかないでしょう?」

「……?」

「ディン、貴方の覚悟はこのような脆弱なものでしたの?」

「我が後継者よ、其方は此処で死ぬべきではない。儂らが其方の力となり、もう一度戦いの場に向かわせたのは、ここで息絶えさせる訳ではないのだ。」

「……。」

 ほの暗い空間に横たわり、目を瞑るディンの傍らに四つの気配、その気配の持ち主たちは、各々思ったことをディンに語る。

「戦え我が後継者よ、儂らの力を使い闇に囚われしデインを救うのだ。」

 年老いた、しかし力強い声が響く、ディンはその言葉に、是や否といった答えが求められていない事を知っていた。

 戦うしかないのだ、それが王たるものの宿命、それが守護者の使命。

「……、わかったよ、先代。」

 ディンはゆっくり立ち上がると、頭を掻きながら答えた。

「やっぱり、諦めるのは嫌だからな。」

 そういうとディンは輝きに包まれ、消えた。

「……。あの子は本当に強くなったね。」

「そうね、ディラン。」

 二つの声が嬉しそうに言いあう、そして四つの気配もまた、ほの暗い空間から消えていった。


「父ちゃん!死ぬなぁ!」

 竜太の叫びが響き渡る。

「死ねぇ!」

 デインの宣告とともに、闇の剣がディンの心臓を穿とうとした、その刹那、ディンの体を眩い光が包む。

「なに!?」

 デインが驚きの声を上げ、振り下ろした剣に戸惑いが伝わる。

「馬鹿な!ぐわぁ!」

 光は塊となってディンを離れ、今まさにとどめを刺そうとしていたその剣をデインごと吹き飛ばした。

「そんな馬鹿な!何が起きた!?」

 何とか着地し、目を見開く、紅く妖しく光るその瞳が、命尽きようとしていたディンを、その傍らに浮遊する光を写す。

「……、やっぱだめだよな。」

 ディンは静かに立ち上がる、何事もなかったかのように、とはいかなかったが、しっかり、しっかりと大地を踏みしめ立ち上がる。

「今ここでやられたら、父さんたちが俺に力を託した意味がないもんな。」

 傷は光によって癒されていた、ディンはその光を見つめ、静かに笑う。

「ありがとう、竜神達よ。俺はもう諦めないよ。」

 光にそう告げる、すると光は五つに分かれ、ディンの周りを囲んだ。

「父ちゃん!」

「ごめん、心配かけたな。」

 竜太の安堵の声が聞こえ、言葉を返す、そして五つの光の塊の内、目の前にある光に手をかざした。

「貴様、何を……!?」

「見せてやるよ、俺達の覚悟を。俺達の想いを、父さん達の願いを!」

「まさか、それは!」

「現れろ!竜神達の剣よ!今こそ、その力で闇を払う時だ!」

 デインの戸惑いを意に返さず、光に向かい命じる。

「竜の御心!竜の慈愛!」

 ディンは名を呼ぶ、その剣が持つ銘を、その剣が持つ力を。

「竜の憂い!竜の想い!」

 五本の内四本が剣に変わる、現れた剣は地面に刺さり、ディンを守る様に囲っていく。

「そして竜神王剣、竜の意思よ!」

 最後の一本の名を呼ぶ、一際大きく輝いた光の塊が、剣となる、それは他の剣よりも一回り大きく、見ている全員が、その力を感じる。

「竜の……、意思……。だと?」

「そうだ。これらは先代やその一族の心の剣だ!みんなが、デインを救うために俺に遺した、みんなの想いだ!」

「馬鹿な!それならなぜ我の剣まであるのだ!」

「これはデイン、お前が前俺に託したものだ。時を遡る前、その想いを託してくれたものだ!」

 竜神剣、竜の想い、元来の発現者の名は、デインアストレフ。

 最後の戦いの時、光によって正気を取り戻したデインが、ディンも知らぬ内に剣を託していたのだ。

「剣の譲渡はすなわち、その者に殺され、その者を殺すこと!」

「そうだ!みんなお前の為に、命をかけたんだ!」

 ディンは自らの剣を目の前、五本の剣の中心に刺す、竜神の剣とは、いわばその持ち主の力そのものであり、その持ち主の最も強い心の性質を表した剣であり、そしてその持ち主と一つになって結びついている剣だ。

 ディンの剣は誇り、先代は意思、父ディランは憂い、母レイラは慈愛、祖母ライラは慈悲の御心、デインは世界を想う心を。

 それぞれ体現したものであり、その譲渡は生死のやり取りによって行われる。

「それだけじゃないぞ!」

 再び目の前に手をかざし、ディンは唱えた。

「陰陽刀絆!お前の力を貸してくれ!悠輔!みんな!」

 ディンが首から下げている宝玉が2つ光り、その光はディンの翳した手の元に集まる、それは、柄に白と黒の線が交わり、鍔元で重なっている日本刀へと姿を変えた。

「陰陽刀……?」

「竜、あれって……。」

「うん、あの刀から浩達に似た力を感じる。」

「それじゃあ……。」

「あれは悠輔さんの力だ。父ちゃんの中で眠ってる。」

 絶界の間、浩輔と竜太は言葉を交わす。

 二人にはわかった、浩輔達の中に流れている力と、同じ力が刀に宿っていることが、それがディンの最愛の人だという、悠輔のものだと。

「竜神剣竜の誇りよ、陰陽刀絆よ!今此処に1つとなり、その力を示せ!」

 ディンは叫ぶ、割れんばかりの大声で叫び、地面に刺した自らの剣と、手に持っている刀を重ねた。

「馬鹿な!そんなものがこの世にあろうわけが!」

 デインは驚愕の声をあげる。

 理解した、二つの剣が、自らの驚異であると。

「そのような物、破壊してくれる!」

 慌てた様にディンに走りより、二本の剣を破壊しようと闇の剣を振るう。

「させるか!竜の意思!」

 しかし、阻まれた、地面に刺さった剣が独りでに動き、デインの剣を防ぐ。

「竜の憂い!」

 更にディンが銘を叫ぶ、すると今度はディンの左後ろに刺さっていた剣が動き、闇の剣に向かう。

「なにぃ!?」

 二本の剣の衝撃に耐え切れず、吹き飛ばされるデイン、着地しようとするが失敗し、その場に腰を打ち付ける。

「竜神達の剣よ、行け!」

 ディンは叫ぶ、それに呼応し五本の剣はそれぞれ浮き、デインに向かって飛来する。

「くっ!」

 デインは何とか剣を防ごうと構えるが、剣がデインを貫くことはなかった、最初からそこに到達するように飛んでいたと言わんばかりに、剣は地面に刺さる。

「ふふ、ふはは、外れたぞ!」

 デインは笑いを漏らす、しかし。

「竜神王術!神魂守護結界!」

 ディンはもとより、デインを攻撃する為に剣を飛ばしたわけではなかった、五本の剣で魔法陣の起点を作り、結界を張る為に剣を動かしたのだ。

「な……!」

「もうお前はそこから出られない。五本の剣が、五人の意思が、お前を捉えたんだ!」

「馬鹿なぁ!」

「今、助けてやるからな。」

 ディンは目の前で一つになった剣を掴んだ。

「竜神王剣・竜の絆」

 その剣は、不思議なものだった、形はバスターソードのままだったが、陰陽刀の柄の模様が刃に移っていた。

 白と黒が交じり合う、究極の剣、柄頭に黄玉が填っており、ディンが身につけている黄玉の首飾りの宝玉と共鳴し、輝く。

「これで、終わりだぁ!」

「やめろォ!」

 ディンはデインの元に走る。

「デインから出て行けぇ!」

 デインを真っ二つにせんと剣を振り下ろされた剣は、体を貫通した。

 あの時と同じ、前回の最後の一撃と、全く同じ軌跡を描く剣。

「バ……、馬鹿……、な!」

 飛び出さんばかりに目を見開き、断末魔の声をあげる。

 しかし、血は流れない、体が半分になることもない。

「これは闇だけを斬り、その中の光を癒す剣。お前に巣食う千年前の人々の闇だけを切った。」

「……!」

 デインの身体中から闇が漏れ出す、それと同時に、デインの中に僅かに残っていた光が身体を満たしていく。

 空を覆っていた暗雲は消え去り、穏やかな夕焼けが顔を出す、鳴動していた火山の活動は止まり、穏やかになった。


「……。」

「……。」

「……。」

 誰もが息を飲んだ、陰陽師も、守護師も、竜神も、皆言葉を忘れ目の前の光景に魅入っていた。

「……。おかえり、デイン。」

「……。ありがとう、ディン。」

 交わされる二つの言葉、そこには、片腕でデインを抱きしめるディンと、ディンの腕に抱かれ涙をこぼしているデインの姿があった。

「やっと、やっと助けられた……。」

「ディン……。」

「やっと、やっとみんなとの約束を……。」

「……?ディン?」

 事切れる様に脱力し、デインに覆いかぶさる、それと同時に全ての絶界が消え、五芒星と八芒星も消え去った。

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