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 第8話 報告書がもたらす何か

「天川1等陸尉、秋山陸曹長から簡易報告書が送信されてきました。 ご確認下さい」


「分かった。 送信されて来た簡易報告書を私と宮内、八神、それと真田准陸尉の端末に回してくれ」


「了解」


 司令部に設けられた執務室で事務作業をしてると無線で秋山陸曹長から簡易報告書が上げられて来た事が報告され即座に此処ファーストに居る尉官全員に報告書を回す様に指示を出した。 それから直ぐに私の端末に報告書が送られて来たので即座にファイルを開き読み始めた。


 報告書には一部秋山陸曹長の予測も含まれていたがそれでもこの世界での貨幣単位や暦、そして何より魔法に関する報告には興味を惹かれた。 政治屋共には最後に添えられた各種資源情報に食いつくだろうが現場の俺達にしてみればそんな物よりも現地の政治体系や取り巻く環境、現地の武力、そしてお金の情報が何より重要だ。 私は一通り報告書を読み終えると無線で他の3人を私の部屋に来る様伝えた。


「揃ったな、それで全員秋山陸曹長からの報告書を呼んだか?」


 私が聞くと3人は真剣な表情で頷いた。


「真田、情報科の君からの意見を聞かせてくれ」


「今一番注意すべきは秋山君が推測していたアンドリュー殿の事でしょう。 もし彼が本当に王の諜報機関に所属するのなら今後彼が鍵になるでしょう。 それに私も秋山君の推測を支持します」


「何故だね?」


「これは秋山君も指摘して居ましたが貴重なアーティファクトなる物を託されていた事、王命を密命として受ける立場、物事に対処する冷静さ、他にもありますが第一印象通り彼は相当厄介な相手です」


「成程な、確かにそうだ。 他には?」


「この世界での貨幣に関しての情報が得られたのは大きいでしょう。 予測ではありますが日本円での価値も書かれていましたので物価の予測がしやすいですし。 そしてやはり魔法に関しては興味深いですね」


「それは私も大いに同意するところではある」


「それよりも俺は宗教観が知れた事が大きいと思うぞ。 地球でも宗教間対立紛争は今の時代になっても絶えん。 早い段階でこの世界での宗教概念が知れたのはトラブル回避に繋がる」


「宮内の言う通りですね。 災害派遣で他国に赴く際に要注意事項として必ず派遣先の宗教関係は講習がありますからね」


 真田准陸尉との会話に宮内2等陸尉と八神2等陸尉が割り込んで来た。 2人は海外への自衛隊派遣の経験がある為この拠点に回されたとも言えた。 その2人が言う通り現地民との宗教関連でトラブルが起きれば今後の活動に大きく響く可能性が十二分に考えられるため2人の言い分も理解出来た。


「それと鉱物で不確定ですが未知の物がある様ですね。 それと石油関係は未知数、と。 これは政治家達がまた騒ぎそうですね」


「真田准陸尉、それは言わんでくれ。 振り回される現場としてはたまったんじゃ無いぞ」


「それはそうですがね。 これも無視出来ない情報である事は間違いありませんよ」


「それはそうだがな」


 真田准陸尉の言い分に力なく同意しつつ苦笑が漏れた。 


「ですが、簡易報告書だけでもこれだけの情報が得られた事は非常に大きい。 この世界は正真正銘の未知の世界なのですからこれらの情報は計り知れない価値があります。 その知識を有する秋山君も」


 真田准陸尉の意見に緩みかけた部屋の空気が張り詰めた。


「挟間陸将補は出来た方だ、我々が想像する最悪の事態は避けられるだろう。 だが中山2等陸佐がどう動くだな。 アレは厄介な所とのパイプをいくつも持ってる」


「それですが情報科と警務科が合同で動いてます」


「それは朗報だな」


「全くだ」


「なら一安心出来そうだ」


 真田准陸尉から告げられた情報に私達3人は頬を綻ばせた。 正直彼のせいでホワイトベースもファーストも防御面で不安しか無い状態なのだ。 確かに予算が限られてるのは分かるがこの世界の生物の危険性を彼は報告書でしか知らない。 いや、知ってるのかすら怪しいと思ってる。 知ってるならばファーストの防衛火器が対戦車弾と12.7mm重機関銃4丁と普通科隊員の5.56mm小銃だけでは足りない事は明白だ。


 それなのに彼は最初重機関銃すら必要無いと許可しなかった為拠点派遣が決まっていた私達と秋山陸曹長が協力し説得して何とか4丁まで認めさせた。 それにだホワイトベースを囲う防護壁のコンクリート塀の厚みは20cmしか無い。 これは短時間でそれなりの範囲を囲う必要があった為工期短縮で20cmとされた。 その後に追加工事で厚みを80cmまで増やす計画があったが何を思ったのか中山2等陸佐はその計画を破棄し追加工事で増やされた厚みは+20cmだった。 


 つまり今現在ホワイトベースを守る防護壁の厚みは40cmしか無い。 日本側の【裂け目】の第一次防護壁の厚みは60cmあるが、これは大型猪と大型の熊に何度か破壊された事がありその際死者も出ている。 なのにだ、中山2等陸佐は防護壁の厚みを減らした。 当然その事について追及されたが政界から横やりが入り有耶無耶にされた。


 このファーストの防護塀も当初は40cmの鉄筋コンクリート製の上から複合合金板を施し更にその上から本物の木材で見た目だけだが擬装する計画がいつの間にかに彼が手を回し複合合金板と木材の擬装で作られる事になっていた。 彼のせいでホワイトベースに詰める2千300名余りとファーストに派遣されてる80余名の命が危険に晒されていた。 勿論この事は上層部に独自ルートで何度も報告した。 その結果が挟間陸将補の現地視察となったのだが。


 そしてこの前線拠点の防護塀の脆弱さは昨夜の巨大猪の襲撃で露呈した。幸い死者こそ出なかったモノの重傷者が多数出た。 それは今夜UH-90SPJが3機来てホワイトベース経由で日本に搬送され本格手的な治療を受けるが恐らく何らかの後遺症が残るだろうとファースト勤務の医務官に言われた。 これも医療施設を縮小させた中山2等陸佐の責任と言えるだろう。 正直腸が煮えたぎり許されるなら中山2等陸佐を気が済むまで殴りつけたい衝動にかられた。


「天川1等陸尉、怒り心頭なのは我々も同じですよ。 怒気を収めてください」


「すまない」


 八神2等陸尉から指摘され私はハッと気づき深呼吸を何度か繰り返して気を落ち着かせた。


「今夜怪我人と陸佐はホワイトベースに搬送されます。 既に我々からの報告でホワイトベースには挟間陸将補の助力の元中山2等陸佐を拘束する為の隊員も準備されてます」


「今度は政治屋共から横やりは入らんだろうな」


「今度ばかりは庇い切れないでしょう。 彼が認めさせた計画で作った防護塀が突破され多数の重軽症者が出たのです。 これで責任が問われなければ彼らの家族から突き上げを食らいますよ」


「そうだが、これまで散々横やりを入れられて彼奴は処罰を逃れて来たからな」


「ですがそれも今回ばかりは逃げられないでしょう。 現幕僚長は何せ秋山陸曹長の御祖父様ですからね。 さらに陸将補は親戚の叔父ですよ。 彼らが可愛がる孫で姪の秋山陸曹長が中山2等陸佐のせいで死んでても可笑しくない状況に晒されて平然としていられますか?」


「…無理だろうな」


「俺もそう思う。 というより今の話は本当なのか? 幕僚長の孫とか陸将補の姪と言うのは」


「本当ですよ。 余り知られていませんけど。 ついでに言えば私も従兄に当たりますけど」


「「「「は?」」」」


「と言うのは冗談です。 でも孫や姪の話は本当です。 余り他言しない様に」


「驚かすな。 まぁ他言しないのは了解だ」


「あ、あぁ分かった」


「確かに余り言いふらす事ではありませんね」


 真田准陸尉の笑えない冗談に私を含め他の2人も胸を撫でおろした。 が、私はふと普段冗談を言わない真田准陸尉が血縁関係で冗談を言うのだろうかと疑問に思って真田准陸尉を見ると彼は私を見て微笑んでるだけだった。 その事に私はこれ以上真偽を確かめるのが怖くなった。


「まぁ陸将補も幕僚長も今回の件は表面上冷静に対処されるでしょうが内心どう思ってるかは全く予想できませんけどね」


「「「…………」」」


 真田准陸尉が言った事に私達は何も言えなかったが少なくとも中山2等陸佐は終わったな、と言う感想を抱いた。


「さて、話が大分それたが他に気になる事はあるか?」


 私は咳ばらいをしつつ改めて訊ねると3人は3人はそれぞれ自分の端末を取り出して報告書を見直し始めたが直ぐに八神2等陸尉が手を上げた。


「この魔石を使った魔石具、魔道具と言うのが気になります。 報告書にもどの程度普及してるか不明とありますがモノによっては脅威になる物があるやもしれません」


「確かにそうですね。 むしろあの水晶が何かしらの動力源として利用可能と言う方が重要度が高いですね」


「そう言えばアンドリュー殿はあの水晶がそれなりの価値を持ってると言って居たが魔石具や魔道具の動力として使われるならああ言ったのも納得が出来るな」


「そうなると自衛隊もそっち方面で今までに確保した水晶を研究してみますか?」


「それなら既にある物を入手してそっちを研究した方が早く無いか?」


「それもそうですね」


「問題はどうやって入手するかですね」


 宮内2等陸尉が言った事に私達腕を組んで唸った。 現在の所接触した現地住民はアンドリュー殿達4人だけ。 しかも言葉が分かるのは秋山陸曹長のみ。 


「そう言えば… 彼らが怪我が良くなれば近くの領都、ええっとシュバッツェに戻り其処から王都へ、陛下に報告に行くと言ってましたよね」


「確かに言っていたな」


「待て、真田お前まさか」


「そのまさかです。 彼らがシュバッツェへ戻る際に秋山陸曹長始め数人が一緒に行き現在育ててる農作物を持って行き売り、その売り上げ金でこの世界の食材や各種道具類を購入するのはどうでしょうか?」


「確かにそれは考えたが危険過ぎないか?」


「確かに危険はあるでしょう。 ですがずっとこの拠点から外を眺めてるだけでは何も進みませんよ」


「それはそうだが。 さっきの話を思うに許可が下りない様な気がするんだが」


 八神2等陸尉が苦笑しながら言うと私達は「あ~、あり得るかも」とは思ったが口には出さなかった。


「まぁそれに関しては秋山君も交えて相談しましょう」


「そうだな」


 その後も話し合いは続けられ途中で夕飯を挟み消灯時間まで話し合いは続けられた。

誤字脱字がありましたらお気軽にご連絡ください。


感想、コメントもお気軽にお願いします。


また続きが気になる、読んでて面白い、等少しでも思って頂けたら下の☆☆☆☆☆マーク評価宜しくお願いします。 書き続けるモチベーションになります

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