第50話 強かであれ
それから暫く互いに言葉を発する事も無く静寂に包まれた。 私は私でどうして良いのかも分からずただボーっとソファーにだらしなくもたれ掛かり天井を眺めていた。
「レーコ、ミーシャにも打ち明けて助言を貰うのはどうかしら?」
「ミーシャさん?」
私は視線を天井からノーラに移し意図が読めず首を傾げた。
「ええ、ミーシャは結婚して子供も居るわ。 それにミーシャは元々男爵家の令嬢だけど嫁いだのは伯爵家なの。 そう言う意味では身分差恋愛を成功させてるとも言えるわ。 少しは参考になる話が聞けるんじゃないかしら」
「…それってかなり凄い事?」
「そうね、男爵家令嬢が普通嫁げるとしたら良くて子爵家止まりだから凄い事よ」
「それは凄いね。 ん? 結婚して子供も居るのにノーラの側付きをしてるの? 私の想像だと貴族の夫人って家を守り社交界でこう色々と他の婦人方とやり合ってる印象があるんだけど」
「レーコが貴族夫人の事をどう思ってるのか今ので大体想像出来たのだけど、あながち間違いでも無いから否定しづらいけどまぁ良いわ。 それでどうするの?」
「ん~、そうだね。 ちょっと聞いて見たいかな」
「分かったわ」
私の返事を聞いたノーラはソファーから立ち上がり元々病室にあった台に置かれていた鈴を鳴らすと少ししてノックの後にミーシャさんが入って来た。 ソファーは2脚しか無かった為ミーシャさんはベットに腰掛ける形となりノーラが事情を説明しどうしたら良いか意見を求めた。
「と、言う訳なのミーシャ。 身分差を跳ね除けて結婚した貴方の意見を聞きたいの。 どうかしら」
「姫様、それはいくら何でも私には難題すぎる問題です」
「それは私も分かってるわよ。 でも何か無いかしら」
ノーラが重ねてミーシャさんに訊ねるとミーシャさんは一度私に視線を向けると小さく溜息をついた。
「レーコ様も相当弱っておいでと見えますね。 私から言える事があるとすれば一つだけでございます」
そう言ったミーシャさんは真剣な表情をして私の方に向け座り直したので私もソファーにしっかりと座り直して聞く態勢を整えた。
「少なくともアンドリュー殿はレーコ様に対して少なからず好意を持ってると思われます。 ですので既成事実の一つでも作れば責任感の強いアンドリュー殿の事、責任を取りレーコ様の元に留める事が可能ではと思います」
「既成事実!?」
「え!?」
ミーシャさんの言った事に私とノーラは驚いてミーシャさんをガン見してしまった。
「待ってミーシャ、既成事実と言う事は…」
「はい、姫様。 殿方との行為を及ぶ事でございます。 私も夫はそれで捕まえました。 まぁ元々お互い好意を持って居たのですがちょっと強引でしたが罠を張りまして。 で、その後夫に責任を取って貰う形で婚姻しましたが後悔はしておりません。 そうで無ければ私は豪商の後妻としていけ好かない商人に嫁に出されていましたし、伯爵家に嫁ぐ為それはもう色々努力も致しました」
「え、そうなの? その話私初耳なのだけど」
「まぁ世間では身分差を跳ね除けた恋愛婚として語られてますが私が夫を罠に嵌めて墜としたのが真相です。 尤もその事を知ってるのは協力してくれた友人数人だけですが」
「そ、そうだったのね。 ミーシャの意外な一面を知ったわ」
「まぁそう言う訳ですのでレーコ様。 本当に好いた殿方と添い遂げたいと思うのなら多少強引な手段に及ぶ事も視野に入れた方が確実です。 女は強かでなければ得られる幸せも得られません」
「は、はい」
「実践した人が言うと妙な説得力があるわね。 因みにどんな罠を仕掛けたのか参考に聞いても?」
ミーシャに訊ねたノーラを除き見ると顔を真っ赤にしながらも興味津々と言った感じだった。 それを見て世界は違えどもやはり年頃の少女ともなるとこの手の話は気になるのだなと思った。
「夫が貴族学院の学祭で賞を取ったその祝賀会に紛れ込み彼に睡眠薬と媚薬を混ぜた物を飲ませました。 その後は上手く誘導して、ですね。 その時邪魔が入らない様に友人がさり気なく協力をして貰いました」
「ちょ!? それ色々色々大丈夫だったの!?」
ミーシャさんが言った内容に思わず私は突っ込んでしまった。 ノーラはノーラで口をあけ驚愕の表情でミーシャさんをガン見していた。
「まぁ色々とギリギリな所でしょうか。 ですがその当時私にも時間的猶予が無かった為強引だった事は認めますが」
「猶予が無かったとはどう言う事なの?」
「あれ? ちょっと待って下さい、ミーシャさん。 いくつか確認して良いですか?」
「ではレーコ様からどうぞ」
「先ずミーシャさんって今いくつなんですか?」
「22になります」
「お子さんは?」
「4歳ですね」
「おぅ。 確かノーラの側付きとなって6年と言ってましたよね? と言う事は16歳から王宮侍女として?」
「いえ、15からですね。 貴族学院では侍従科主席で卒業したので王宮侍女として採用されました」
「その貴族学院は確か10歳から15歳まで在籍するんでしたよね」
「はい、その通りです」
「えっとその、旦那さんは同年で?」
「いえ、一つ下の21です」
「それじゃノーラも聞いてた猶予が無かったって言うのは?」
「私が16になるまでに王宮で良い条件の男性を捕まえる、或いは見初められ無ければ先程申しあげました豪商に嫁に出すと両親に言われておりました」
「それじゃ旦那さんを罠にかけて捕まえた時期は?」
「16になる2月前です」
「猶予が無かったと言うのは理解したわ」
「それじゃノーラの側付きとなったのは結婚後と言う事?」
「その通りですね。 流石に王族の側付きになるには男爵家令嬢では身分が低いですから。 伯爵家夫人となれば身分的にも十分ですし、何より王宮侍女として恥ずかしくない様しっかりと仕事をこなしておりましたので侍従長からの評価も高かった、と言うのもあるかと」
「因みにその旦那さんとはどうやって知り合ったの?」
「経営学の共同野外学習の際に同じグループになり互いに領地の経営理論について熱く語り合ったのがきっかけですね」
「ああ、あの全学年強制参加のあれね」
「その通りです、姫様」
「えっと、それはどういう?」
「1学年から5学年の生徒全員が幾つもの班に分けられて地方領に行き其処でどの様に領が運営されてるか学ぶのよ。 王都にいただけでは知りえない、また交流の無い、或いは少ない遠方の地方領を知る為に毎年行われてる野外学習ね。 私達王族ともなれば中々王都から離れる機会も無いから貴重な現地を知る事の出来る機会でもあったわ」
「そうなのね。 と言うかやっぱり王族って気軽に王都を離れられ… 何でノーラはシュバッツェに何度も来れたの?」
ノーラの言葉に納得しかけた途中で気軽に王都を離れる事が出来ない筈のノーラが居た事に疑問に思って訊ねた。
「最初に居たのは本当に偶然よ。 それまで何度も陛下にお願いして漸くかなって赴いたらレーコ達ジエイタイが居たの。 その後は今回の件が原因じゃないかしら」
「成程」
「それでレーコ様、私の話は参考になりましたか?」
「あ~、なったと言えばなったのかな? どうなんだろう」
「はっきり致しませんね。 レーコ様はアンドリュー殿と添い遂げたいと思われる程好いて居られると聞きましたが違うのですか?」
「うん、それは本当ですよ。 ですけど、日本が掲げてる最終目的は【裂け目】を閉じる事。 そしてアンドリュー殿と添い遂げる、結婚すると言う事はどちらかがどちらかの世界に残ると言う事です。 そうなれば私かアンドリュー殿のどちらかが永遠に親族・友人との繋がりが断ち切られると言う事です。 私が向うの世界に残る、或いはアンドリュー殿が此方の世界に残る事になっても変わりません。 だから私はこの気持ちを抑え込んで来たんです」
「…申し訳ありません、レーコ様。 その事に私は気づいて居りませんでした。 確かに永遠に家族や友人と会えなくなるとなれば辛いですね」
「あのレーコ。 どうして日本国は【裂け目】を閉じる事に拘るのかしら? 別に閉じなくてもこれまでの様に交流を続ければレーコが其処まで悩まなくて良いのではなくて?」
ノーラからの質問に私はどうしたモノかと頭を抱えた。 日本が【裂け目】を閉じる事を最優先事項としてる理由を言っても良い物かと悩んだ末私は伝える事にした。
「これから話す事はまだ正確な確証は得られてない不確定な情報だけどいいかしら? それとこの事は絶対に他言無用と約束出来なければ話さないと誓える?」
抱えてた頭を上げて真剣な表情でノーラに問えばまだ顔が赤いもののノーラは表情を引き締めて頷いた。 一方ミーシャさんは自分が聞いてはいけない類の話だと判断したのか一礼してから病室から出て行こうとしたが、ノーラが引き留めた為ベットに座り直した。
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