第49話 バレた想い
医療棟に戻った私は荷物が置いてある昨夜泊まった病室に戻り私物の中から折り畳み小型パソコンを取り出し通信ソフトを起動させお爺ちゃんのアドレスを選択しコールボタンを押した。 そして数コール後
「おお玲子、久しぶりだな。 日本に戻って来たのか」
「あ、お爺ちゃん久しぶり。 うん、任務の一環でね。 それで今大丈夫? 周りに人居たりしない?」
「任務の一環でだと? まさかな… ああ、今は儂一人だ、何だ秘密の相談か?」
「うん、秘密の相談と言うか報告かな」
私が困り顔で言った事に画面の向こうのお爺ちゃんは怪訝そうな表情をしつつ優しいお爺ちゃんから幕僚長としてのお爺ちゃんの顔つきになるのが分かった。
「玲子、今報告と言ったか? それは自衛官としての報告か?」
「はっ その通りです、秋山幕僚長。 この件は迂闊に報告書等で報告を上げた場合に及ぼす影響が予想出来ない為猪狩1等陸佐と相談した結果、秋山幕僚長に私のプライベート通信で報告を上げるのが一番確実と判断され今に至ります」
「だがそれは幾つもの規則違反を犯してる事になる。 それを承知していて尚その判断か?」
「はい、その通りです秋山幕僚長。 事最悪の場合はこの地球の常識が覆りかねず世界大戦になる可能性も捨てきれません」
「………其処までの事か?」
「はい」
私が伝えた事に驚いたのか少し間が空いた確認に私はしっかりと頷き答えた。
「其処まで言うならその報告事項を言って見ろ」
「ありがとうございます。 昨日日本に来られた【裂け目】の向こうの現地住民との会話に於いてこの地球にも極極僅かながらにも「魔力」がある事が判明しました」
「ん? すまん、もう一度言ってくれ」
「この地球にも極極僅かながらにも「魔力」がある事が判明しました」
「…………聞き間違いでは無かったか。 「魔力」とは魔法行使に使う向こうの世界のエネルギーの一種だったな。 こちらには無いと思われていた」
「その通りです。 更に言えば地球上では空想世界では有り触れていますがそのモノは存在しないモノと言われ続けています」
「それがあると言うのか?」
「はい、来られた方の1人が言うには。 但し、向こうの世界と比べた場合ほぼ無いと言っても良い希薄さとの事ですがそれでも魔力を感じた、と」
「そうか。 確かに今までの常識が覆りかねん事案だな。 この事を知ってるのは猪狩1等陸佐意外に誰が居る?」
「私と猪狩1等陸佐以外では「魔力」に気付かれた現地住民の方のみです」
「儂を入れて4人か。 確かに正規の手順で報告を上げるには問題が大きすぎるな。 良いだろう、この件は儂が預かる。 秋山准陸尉、猪狩1等陸佐両名にはこの事は一切の他言無用を命ずる。 それと気付かれた現地住民の方にも他言しない様に伝える事、分かったか」
「了解しました」
「所で玲子、例の件は考えてくれたか?」
「あ、其の件につきましては何度言われようとも考えは変わりません。 諦めて下さい」
「そうは言うがそろそろ玲子も身を固めてだな」
「お爺ちゃん? 其の件をこれ以上口に出すなら私も考えがありますよ」
「だがな、玲子。 儂としては出来ればひ孫の顔を見たいんじゃ。 だからお見合いの件、少しだけでも良いから話を」
「お・じ・い・ち・ゃ・ん。 それ以上言うならプライベートでは口ききませんよ」
「そ、それは反則じゃ玲子。 わ、分かった、お見合いの件は諦める。 な、これで良いじゃろ」
「はい、言質頂きましたので良いでしょう」
「老い先短い儂の唯一の願いなんじゃがのう。 気になる人でも居たりはせんか? 全力でサポートするぞ?」
お爺ちゃんが言った気になる人と言うフレーズで私の頭の中でアンドリュー殿が浮かんだがそれを払拭する様に私は頭を振った。
「おい、今の反応は初めて見るぞ。 もしかして本当に気になる奴が居るのか?」
「え? 居ませんよ。 またお爺ちゃんのいつものが出たかと思っただけです」
「ぅぐっ 其処まで言うか」
それから少しお爺ちゃんとの雑談をして通信を切った。 切った後私は腰がけていたベットに横になり大きな溜息を付いた。
「気になる人、かぁ アンドリュー殿…」
言葉にしてしまった瞬間胸が締め付けられた。 分かってる、彼は異世界の住人。 【裂け目】を閉じる事に成功すればもう二度と会えなくなる人だ。 そう割り切って諦めようとこの気持ちを自覚してから何度も自分に言い聞かせて来た。 だがこの気持ちはどんどん大きくなるばかりでちっとも静まってはくれない。
最近は割と本気で【裂け目】を閉じる際に向こうの世界に残ろうかと考える回数が増えて来ている。 だが両親や兄弟、お爺ちゃんや親戚、友人と二度と会えなくなる寂しさも考えるとその決断も出来ない。 自分はこんなにも優柔不断だっただろうかと自問自答しても答えも出ない。
しまいにはどうして好きなっちゃったんだろうと思ってしまうことすらある。 最悪なのはノーラを助けたいと決意したにも関わらず3人が向こうに戻れなくなればアンドリュー殿とこっちでずっと居られるのではと思ってしまった事だ。 その事に気が付いて私は自己嫌悪に陥ったがどうにか表に出さず接する事が出来たと思う。
気づけば視界がぼやけていたので目元を触ると指先が濡れていた。 私はあれ? と思ってもう一度触って漸く自分が泣いてる事に気付いた。 気づいたが最後、私は堪える事が出来ずうつ伏せになり枕に顔を押し付けて声が漏れない様に泣いた。 涙と一緒にこの色々な感情も一緒に流れて消えてくれと願いながら。
気が付けば日は大分傾き午後4時を回ろうとしていた。 驚いた私は急いでベットから起き上がろうとして一瞬立ち眩みがしたが何とか堪えて立ち上がり1階事務所まで行き今の状況を確認すると驚く程事態は進んで居た。
先ずノーラが午前9時頃目覚めその後猪狩指令と会談後に首相とテレビ通信で会談をした後、午後2時より全国中継でテレビ出演し日本国民に向けて自衛隊への助力?をお願いしたと言う。 今はその審議投票中で結果は午後6時に出ると言う。 その結果を受け政府内で今後の自衛隊がどう動くか話し合われる事を聞いた。
それらの事を聞いた後最後にノーラから私が起きたら休んでる病室に来て欲しいと伝言を預かったと聞いて私は首を傾げた。 教えてくれた医務官にお礼を言って向かおうとしたら顔は洗って行った方が良いと言われ元の病室に戻って鏡を見ると成程と納得してしまった。
その後病室にて最低限の身嗜みを整えて隣のノーラ達が居る病室の扉をノックするとミーシャさんが出迎えてくれてそのまま中へ通された。 部屋に入るといつ運び込んだのかノーラは1人がけのソファーに座り優雅に何かを飲んでいた。 ノーラは私に気付くと視線で対面にあるもう一つの1人がけソファーに座る様に促して来たのでそれに従い私はソファーに座った。
「ミーシャ、悪いのだけどレーコにお茶を出したら外に出てもらえるかしら」
「畏まりました、姫様」
ミーシャさんはこれまたいつの間に運び込んだのかティーセットから私の分のお茶を用意すると言われた通り部屋と言うか病室から出て行った。
私はミーシャさんが淹れてくれたお茶のカップを取ると甘酸っぱいリンゴの様な良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「カモミール、と言うハーブティーの一種だそうです。 私を担当してくれてるカトウさんから頂きました」
「あ、そうなんですね。 名前は聞いた事はあるけど飲むのは初めて」
「あら、レーコも初めてなの? とても美味しくて落ち着けるわよ」
「ノーラが言うなら間違いないね」
「なぁにそれ」
その後2人して小さく笑い暫し無言のティータイムが続いたが無言故の静かなこの時間が逆に今の私には心地よかった。
「ねぇノーラ、このお茶を飲ませてくれる為に呼んだんじゃないわよね?」
「そうね、レーコも部屋に来た時より幾分顔色も落ち着いたしそろそろ良いかしら」
「そう言う言い方をして来るのはちょっと怖いわね。 まぁいいわ、それでどんな用事なの?」
「単刀直入に訊ねるのだけどレーコ、貴方アンドリューの事好いてるわよね」
「………え? どうして」
ノーラから言われた事を直に理解出来ずに暫し呆けてから口から出たのはそれだけだった。
「ごめんなさい、聞くつもりは全くなかったの。 ただ目が覚めた時隣室から押し殺した泣き声が聞こえて来て気になって行ってみたらその…」
「枕に顔を押し付けてアンドリュー殿の事を言いながら泣いてる私が居た、と」
ノーラの言葉を引き継ぎ私が言うと居心地が悪そうにしながらもノーラは頷いた。 それを見た私はテーブル代りに私とノーラの間にある小さなサイドチェストにテーカップを置くとだらしなくソファーにもたれ掛かった。
「聞かれちゃったかぁ」
「ごめんなさい、本当に聞くつもりは無かったの。 ただ泣き声が気になっただけで…」
ノーラは尻すぼみになりながらも故意では無かった事を伝えて来た。
「気にしないで、とは言えないけど其処まで気に病む必要は無いよ、ノーラ」
「そ、そう? ありがとう、レーコ」
「でもそっかぁ、聞かれちゃったか。 それなら下手に誤魔化す必要は無いね。 うん、私はアンドリュー殿の事が好きになった。 添い遂げたい、と思える程にね」
「そ、添い遂げる…」
私は天井を見ながら言ったがノーラの呟きが聞こえ視線を下げてノーラの様子を見ると顔が真っ赤になっていた。 それを見て色々想像してるんだろうなぁと微笑ましく思えた。
「でもこの恋は実事の無い恋だよ、ノーラ。 私とアンドリュー殿ではそれこそ本当の意味で住む世界が違うからね」
私は再び天井に視線を戻し残酷な現実を告げた。
「それは‼」
私の呟きを聞いたノーラは声を荒げながら立ち上がろうとしたが反論が思いつかなかったのかゆっくりとソファーに座り直した。
「ねぇノーラ、私はどうしたら良いんだろうね。 もう私はどうしたら良いか分からなくなっちゃった」
「レーコ…」
素直にノーラに自分の心打ちを告げるとノーラから悲しそうな声が聞こえて来た。
恋バナっていざ文章で描写しようとすると想像以上にムズカシイ… それでも書かねば話は進まないので何度も何度も書き直し漸く納得出来る描写を書く事が出来ました。 自分の語彙力の無さにへこまされました。 トホホ…
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