第47話 いざ日本へ 其の2
今年最後の更新です。 読者の皆さんのお蔭でこの話も此処まで書き続ける事が出来ました。 本当にありがとうございます。 来年も頑張って続きを更新して行きますので宜しくお願い致します。
それでは皆さんにとって来年が良い年になります様に、良いお年を。
私達を乗せたマイクロバスは遂に【裂け目】を封じてる半円のドームの前まで来た。 其処で一度下車しドーム、【裂け目】の通行を管理してる隊員の指示に従い通行記録を電子機器と手書きで記録した。
ノーラ達3人は通行記録を残す為の電子キーが無い為仮発行の通行証で代用する為3人も問題無く記録を済ませ3人は私達自衛隊がこの世界に来るきっかけとなった【裂け目】と対面する事となった。
【裂け目】を封じるドームの扉が静かに左右へと開いて行くと私達にはもはや見慣れた光景、だが3人には初めて見る光景に飲まれていた。
【裂け目】は割れた鏡が空中に散乱した様に漂っており、割れた鏡の様に見える物がそれぞれ不規則に動き周囲の光を反射している。 また【裂け目】自体が淡く青紫色に発光していて初めて見た者はその幻想的な光景に息を呑む程美しく、幻想的で不可思議なモノだった。 尤も?その規模は高さ7m、幅8mもあり巨大だった。 故に【裂け目】を封じるドームも高さ10m、幅12mもある。
「これが【裂け目】。 この向こうに日本が…」
【裂け目】を見ながらノーラが呟いた。
「はい、その通りです。 王女殿下、引き返すのであれば此処が最後となりますが如何致しますか?」
隣に居た早川さんがノーラに訊ねた。
「お気遣いいただきありがとうございます。 ですが此処で引き返しては此処まで来た意味を失います。 どうか私を、私達を日本へ連れて行って頂けますか」
「分かりました。 それではバスへお乗りください」
「ええ、分かりました」
早川さんがノーラ達をバスへもう一度乗る様に促した時鋭い静止の声が上がった。
「お待ちください‼ この【裂け目】からは途轍もない程の魔力を感じます。 本当に平気なのですか?」
アンドリュー殿の質問に私達は顔を見合わせるが質問に答えれる者は誰一人として居なかった。 が、その場に居た日本勢の全員の視線が私に向けられた。
「アンドリュー殿、その質問ですが現に私達は特に大きな問題も無く何度も【裂け目】を行き来しています。 それが答えになりませんか?」
「確かにそうかも知れません。 ですがこの魔力量は… 殿下、殿下もレベル2の魔法士ですよね? 殿下は何とも思わないのですか?」
「私もこの【裂け目】の魔力の膨大さには驚きましたが私が為すべき事を思えば些細な事です。 【裂け目】を何度も行き来してる自衛官の方々が無事な事を思えば何を恐れる必要がありましょうか」
アンドリュー殿の問い掛けにノーラは毅然と答えた。 問いかけたアンドリュー殿もノーラの答えを聞いて瞑目してノーラに向き直り膝を付いた。
「エリアルノーラ王女殿下、申し訳ありませんでした。 【裂け目】が有する魔力量に中てられ些か正気を失っていました。 先程の失言お詫び申し上げます」
「構いません、私も私が為すべき事が無ければ恐らく貴方の様に取り乱したでしょう。 故に不問とします。 引き続き護衛として側に付きなさい」
「はっ 寛大な処置、痛み入ります。 この身を掛け王女殿下をお守り致します」
「よしなに」
「はっ」
アンドリュー殿はノーラの言葉に短く返すと静かに立ち上がり私達の方に向き直り、
「お騒がせしました」
と謝罪し頭を下げて来た。 其処でも私に視線が集まった為仕方なく私が答える事にした。
「いえ、お気になさらず。 初めて【裂け目】を見て動揺しない方が少ないと思いますから。 それに、アンドリュー殿のお蔭で【裂け目】が魔力を持っていると言う新たな事実を知る事が出来ましたのでむしろお礼を言うのは此方かと」
私がそう言って微笑むとアンドリュー殿も釣られて微笑んだ。 …その微笑みに私は盛大に被弾し抑え込んでた胸の高鳴りが再度爆発するかの如き感覚を味わった。 心臓が物凄い速さで脈打つのを自覚しそれを悟られない様に必死に取り繕い再び一行をマイクロバスに乗る様誘導した。
全員がマイクロバスに乗車するとゆっくりと【裂け目】へと進んだ。 【裂け目】に触れると思ったら今迄見えていた周囲の光景は一変して暗闇に包まれた。
「本当に暗闇に包まれて何も見えないのですね」
「ええ、でも直ぐに抜けますから大丈夫ですよ」
ノーラの呟きに近くに座った早川さんが答えた。 それを証明する様に私達を乗せたマイクロバスは確実に進んで行くとやがて前方に小さな光が見えた。 光は近づくにつれて徐々に大きくなり最後には爆発したかの如く視界を塞いだ。
眩しさに閉じた瞳を開ければ其処は見慣れた日本側の【裂け目】のドームの中で監視カメラでマイクロバスを確認したのかドームの扉が開き始めた。
そこであれ? と思いノーラ達を見ると3人とも気を失っていた。
「ノーラ‼ アンドリュー殿‼ ミーシャさん‼」
私は座ってた席から立ち上がり急いで3人の元へ駆け付けた。 駆け付けた私は直ぐに3人の脈を取り生きている事を確認した。 呼びかけても反応が無い為日本側での通行記録をすっ飛ばしてマイクロバスは【裂け目】駐屯所内の医療棟へ直ぐに向かった。
無線で連絡していた為医療棟に着くと表には3人分の担架を抱えた医務官達が待ち構えていた。 私達は一人づつ抱えてマイクロバスから降ろし担架に乗せると直ぐに医療棟へ運び込まれていった。
3人の搬送が終わると私達もそのまま医療棟へ入りいつもの検査を受けた。 私達の検査が終わっても3人は未だ目を覚まさず寝たままだった。 私は直ぐに【裂け目】駐屯所司令に連絡を入れこの後予定されていた首相との会談が難しい事を伝えると司令も即座に動くと言い通信を切った。
私は検査着からいつもの迷彩服に着替えるとノーラ達が寝てる病室へと向かった。 病室について念の為ノックしてから入ったがやはりノーラとサーシャさんは気を失ったままで静かに寝ていた。
2人の顔は医療棟に運び込んだ時より幾分良くなっており深刻な事態ではなさそうだと思え私は安堵の溜息を付いてからノーラが寝てるベット横の椅子に座った。
「ノーラ、一体どうしちゃったの? 【裂け目】を通る前はあんなに元気だったのに」
私は起きたら怒るかな? と思いながらもノーラの頭を優しく撫でた。 ノーラの頭を撫でた時、触れた手から私の中から何かが急速に抜けて行く感覚に襲われた。 吃驚して思わず撫でていた手を引っ込めたが直後に強い倦怠感に襲われてベットの縁に手をついて倒れそうになるのをどうにか堪えた。
「だ、大丈夫ですか?!」
私の様子にそれまで部屋に居た医務官の女性隊員が駆け寄って来た。
「だ、大丈夫。 ちょっとふらついただけだから」
「とてもそうは見えません。 と言うよりも秋山准陸尉が王女様に触れただけで其処まで蒼褪めるのは異常です。 秋山准陸尉も横になって下さい。 直ぐに部屋を用意しますから」
「私は平気よ。 それよりノーラを」
「レーコ?」
私と医務官の女性隊員はハッとしてノーラを見た。 其処にはまだ顔色が良く無いが目を開けたノーラが居た。
「私はどうしたのですか? それに此処は? 確か【裂け目】を通って…」
「ノーラ達は【裂け目】を抜けた瞬間に気を失ったの。 それで検査を受ける予定だった医療棟に運び込んだわ。 此処は医療棟の中の病室の一室よ」
「そうでしたか」
私がノーラの疑問に簡潔に答えるとノーラは再び目を閉じた。 暫くして目を開けると覗き込む私を見て来た。
「どうやら急激な魔力欠乏症になった様です。 私の中にある魔力が殆どありません。 代わりに温かく優しい魔力が、之はレーコの魔力ですね?」
「そうなの? あ、そう言えばノーラに触れた時何かが私の中から抜け出していく感覚があったわ。 それってつまり」
「レーコの魔力が私の中に流れ込んだのでしょう。 知らなかったとは言え本来魔力欠乏症の者に魔力を譲渡するのは危険を伴います。 今後は止めてくださいね」
「ええ、分かったわ。 それよりその魔力欠乏症はどうすれば治るの? ミーシャさんとアンドリュー殿もまだ目を覚まさないのだけど」
私はそう言うとノーラから視線を外し隣のベットで寝てるミーシャさんを見た。 ノーラも私の視線を追い視線を向けると
「ミーシャ!?」
「落ち着いてノーラ。 恐らくミーシャさんもその魔力欠乏症で気を失っただけだから」
「そうですか。 それと魔力欠乏症は体内の魔力が自然に回復すれば目が覚めます。 それと回復薬を飲む事でより早く魔力を回復させる事が出来ます」
「そうなの? その回復薬って持って来てたりするかしら?」
「私は持って来ていませんが、もしかしたらアンドリュー殿なら或いは。 彼の荷物の中に薄い赤色の小瓶があればそれが回復薬です」
「なら彼の荷物を調べても良いかしら? もしあれば2人に飲ませた方が回復が早いのでしょう?」
「構いません、むしろお願いします。 もし3本あれば私にも頂けますか? 正直まだ辛いので」
「分かったわ。 えっと…」
そこで私を支えてくれてる女性隊員を見ると彼女は仕方ないなぁみたいな顔で私を見返して来た。
「私の名は加藤です、秋山准陸尉。 それと秋山准陸尉の隊の方に先程の話を伝えて来れば良いのですね?」
「はい、お願いできますか?」
「分かりました、ですが秋山准陸尉は椅子に座って安静にしててくださいね。 もし動かれていたら、分かりますよね?」
「ええ、分かってるわ」
「では」
加藤さんは私を椅子に座らせると病室から出て行った。 その後ろ姿を見送ってノーラを見ると目を閉じて静かな寝息を立てていた。 私はもう一度頭を撫でようした手を慌てて引っ込めて椅子の背もたれにもたれ掛かり静かに見守る事にした。
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