第42話 自衛隊
翌朝日の出と共にシュバッツェを出発した私達だったが予想された追跡、襲撃の類は無く昼前にはファーストに到着した。 その為手配して貰った偵察ヘリによる高高度からの監視とファーストからの軽装甲車2台の護衛は無駄となったがノーラにはその待遇を喜んで貰えた。
ファーストに到着した私達は先ず魔法師団の5人を宿舎となる家へ案内しノーラは前回来た時の家へと案内し早めの昼食を取ってから会談となった。
「お久しぶりです、王女殿下。 御壮健で何よりです。 襲撃の報を受け心配しました」
「ありがとうございます、天川一佐。 天川一佐も壮健で。 レーコ達が居なければ危なかったでしょう。 勿論辺境伯の護衛達もですが」
「それは何より。 それでそちらの方々が?」
「ええ、彼らが【裂け目】の調査の為に来た王宮魔法師団の者達です。 代表はクレイストとなります」
「お初にお目に掛かります。 クリフトニア王国王宮魔法師団のクレイストと申します。 以後お見知りおきを。 私の後ろの4人は右からオルフ、セレドア、ソニア、アデリアとなります」
クレイストが紹介すると4人は天川1等陸尉に右手を胸に添え頭を下げた。
「私の次席?はアデリアとなります。 彼女は実家は子爵家でもありますので貴族諸侯の事は私達の中で一番詳しい者になります」
「紹介ありがとうございます。 私がこの拠点の責任者となります誠一郎 天川と言います。 日本国陸上自衛隊の一等陸佐の官位を持ちます。
宜しくお願いします」
「此方こそよろしくお願いいたします」
「さぁ、お掛け下さい。 今後の予定の確認等しましょう」
その後自衛隊側と王宮魔法師団の予定を確認が終わるとクレイスト達は先に宿舎の方へと戻った。 部屋に残ったのは天川1等陸尉に私達4人、そしてノーラとその侍女だ。
「さてエリアルノーラ王女殿下、我々自衛隊は昨夜其処に居る秋山からの報告を受け昨日より6度偵察飛行を行いました。 その報告をお聞きになる覚悟はありますか?」
先程までの会談と比べ天川一佐の纏う雰囲気が一変したのを受けノーラも表情を引き締めていた。
「覚悟は出来ております、お願いします」
「…分かりました。 先ず湖畔の町ですが此処は既に帝国側と思われる勢力に占領されているものと思われます。 その町付近に王国軍と思われる軍勢も確認出来ました。 尚、街の港には25メル(メートル)程の軍艦らしき船も相当数確認出来ています」
「相当数とはどの程度の数でしょうか?」
「港に停泊してる数だけで16隻、港外に8隻。 また町に接近中の8隻の船団も確認しました」
「…分かりました。 続けて下さい」
「橋が架かってる街については橋の規模が大きい2か所で侵攻が行われているのを確認しました。 大きい街の方はまだ侵攻を許していない様でしたが少し小さい街の方は市街地でバリケードを築き住民の避難を行っているのを確認しました。 此方は王国軍らしき軍勢の到着に後2日から3日かかる位置でその所在を確認しています」
「大きい街はナザリアでしょう。 恐らくクルト伯の所ですね。 次の小さい方は橋の規模から考えて… サンドロム伯の所のレイニールかと。 帝国側の軍勢の規模は分かりますか?」
「ナザリアでしたか? 其方には凡そ8千程でしょう。 もう一方のレイニールですが此方ははっきり申し上げられませんが5千から6千程と予想しております。 湖畔の町の方もはっきり申し上げられませんが千から多く見て2千程では無いかと分析官から報告を受けております」
「…………」
天川一佐の報告を受けてノーラの表情は険しくなっていくのが見て分かった。 当然天川一佐もその事に気付いているだろうがあえて淡々と告げている様に見えた。
「…少ない」
険しい表情をしたノーラがポツリと呟いた。
「殿下? 少ないとは一体…」
「帝国兵の数です。 今のお話では帝国兵は最大で見積もっても1万7千に届かない筈です。 王国軍全軍で1万5千人居ます。 それに各領にもそれぞれ兵力を持っていますし、傭兵やハンター、戦う意力のある者も含めればクリフトニア王国の総戦力は3万弱になると思います。
父上、陛下は最悪の事態として我が国が攻め滅ぼされる事態を想定しています。 それにしては帝国軍の兵力が1万7千ではいくら何でも少なすぎます」
「成程、確かにそう言われると少ないですね」
「天川一佐、現在確認されてる帝国兵が第一陣で後方に第二、第三の兵団がいたとしたらどうでしょうか。 それぞれが各2万の軍勢ならば合計で6万人になりクリフトニア王国の倍の兵数です」
私は思いついた可能性を述べると2人はハッとして私を見つめて来た。 天川一佐はそのまま視線を横にずらした。
「柳田、情報科の君の意見は」
「は、秋山准陸尉の言った可能性は十分あり得るかと」
「その根拠は?」
「先程の湖畔の町に向かってると言う船団の存在。 索敵範囲外に引き返してる船団が居る可能性も考えれば」
「兵数は更に増える、か。 だがそれでも船で移送出来る兵数は限られるぞ」
「その為の橋の架かる街の占領でしょう。 現に片方の街は落ちかけてる。 後方に更に戦力が居た場合、落とした街の占領を確固たる物にする為の増員としても有効かと」
「追加偵察の必要がありそうだな。 手配しよう」
「ですが良いので?」
柳田は訊ねてからチラッとノーラに視線を向けた。 それに気づいた天川一佐は軽く頷いた。
「偵察ならばいくらでも言い訳がたつ。 それにこの世界の詳細調査としても役立つのは否めないだろう」
「一佐がそう言うのであれば」
「尤も判断するとしたら陸将補だ。 私は報告を上げるだけだ」
そう言った天川一佐は苦笑いをしていた。 それに釣られて私達も苦笑いをしたがノーラは微妙な表情をして私達のやり取りを見ていた。
「ノーラ、どうかしたの?」
「レーコ… どうして自衛隊は其処までしてくれるの?」
ノーラに問われ私は天川一佐に視線を向けた。
「王女殿下、今まで私達は最低限の範囲であり行動しておりました。 それは現地の人々に過度な恐怖を与えない為です。 故に使える装備にも限りがありました。 ですが、今回の行った偵察は王女殿下の要請があり実行出来たのです。 追加の偵察もその範囲で行えると言う訳です」
「自衛隊は今迄力を十全に発揮して居なかったのですか?」
「有り体に言えばそうなります。 尤も使える装備に限りがあるのは別の理由もいくつかありますが」
天川一佐そう言うと頭を掻いた。 確かにGPS等を始め衛星通信システムを使う装備類はこの世界では全くの役立たずの為この世界に持って来た装備はアナログ式の装備が殆どだ。
レーザーのエネルギーパック充電システムの構築がこの世界で構築出来る可能性が低い為わざわざ実包式の物を持ち込んだのだ。 正直言ってこの世界に持って来た装備は旧式装備が殆どと言っても間違い無かった。
「では、もしも… もしも私がクリフトニア王国国王代理として日本国自衛隊に更なる要請をした場合はどうなりますか?」
今迄よりも真剣な表情をしてノーラが天川一佐に訊ねた。
「はっきりと申し上げるならば、偵察以上の事は国の議会の承認が必要となります。 正直にお伝えします、我々自衛隊は戦闘行為については防衛戦を除く戦闘行為は出来ません」
「それは一体どういう」
「専守防衛。 この理念に基づき我々自衛隊が存在するからです。 私達の国は昔行われた世界大戦で負けました。 そしてそれ以降軍事力を持つ事を放棄しました。 が、万が一他国から侵略を受けた場合に備え防衛する組織として自衛隊が作られたのです。 それ以来日本は防衛にのみ備え続けています。 故に我々自衛隊の持つ力は防衛戦闘にのみ使用可能なのです」
「ではもし私が日本国に我が国の窮地に自衛隊に助力を求めた場合はどうなりますか?」
「日本と同盟、或いは何らかの条約を結んでいた場合、それに基づき自衛隊が派遣される事はありますがそれでも戦闘行為に関しては防衛に関してのみとなるでしょう」
「ならば!! 一昨日の夜にレーコが自衛隊が持つ武器を使用した事に関してはどうなのですか?!」
「その件に関しては、己が身の安全を確保する為の防衛処置、と言う扱いになります。 その結果として王女殿下の身を守る事となった、と上層部は処理しています」
「そんな…」
絶望した様な表情をしたノーラが私を見つめて来たが私は視線をあわせる事が出来なかった。 私自身も先の拳銃使用についてその様に処理されてる事を今知ったので気まずかったのだ。
そんな私の様子を見たノーラは更に表情を暗くして俯いてしまった。 部屋には重苦しい空気に包まれて誰1人言葉を発せなくなってしまった。 私はノーラを守りたいと決意したのにも関わらず現状何も出来ない苛立ちに手を握り閉めていた。
「…秋山」
「はい」
「手を解け。 強く握りしめ過ぎて血が出てるぞ。 何も出来ずに悔しいのは分かるがそれでお前自身を傷つけてしまっては王女殿下を余計悲しませる。 悔しい思いをしているのは何もお前だけでは無い。 高木、手当してやれ」
天川一佐に言われ手を見ると掌に爪が食い込み血が出ていた。 高木は椅子から立ち上がり救急パックから応急処置キットを取り出して私の手の処置を始めた。
私は何となくノーラを見ると心配そうな表情で私を見ていたノーラと目が合った。 その時私はある事に気付いた。
「そういえば」
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