第40話 縋りつく少女
その後荷物の確認に行った柳田からの報告によれば無くなった荷物は剣が一本と短剣が3本、それと何故か服が数着とハンター用の装備の小手が1セットだった。
「それ以外で無くなった物はないんだな?」
「はい。 鎧や盾も残ってました。 これは単純に持って行くと荷物に為見逃された、と判断します。 服等も荒らされていましたがそれだけでした」
「そうか… たが何で剣と短剣なんだ? 日本産の、我々の物が目的ならそれこそ予備弾とかもあったはず」
「これは予想ですが、予備の弾だけを見ても使用方法が分からなかった為ではないかと。 その点、剣や短剣それと小手などは使用方法は一目で分かる物です」
「言われて見ればそうよね。 それでも何で私達の装備品が狙われたのかしら?」
私と柳田が揃って頭を捻ってるとおずおずと辺境伯が手を上げて話しかけて来た。
「あ~レーコ嬢、以前城下の店で其方達の剣等を職人に見せたのを覚えておるじゃろうか?」
辺境伯に言われその事を思い出した。
「ええ、覚えてます。 それが何か関係があるのですか?」
「実はあの後店の職人から其方達の持ってた剣について報告を受けたのじゃがな、この国最高の鍛冶師をもってしてもあの剣を作るのは困難、あれほどの純度の高い鋼の剣は早々作る事は難しいとあった。 もしその事が何処からか漏れておったのなら狙われた事にも納得が出来るのじゃが」
辺境伯は最後の方は辛うじて聞き取れる音量で視線を若干そらしつつ言って来た。 どうやら私達の荷物があさられた原因が自分の所の領民にあるかもしれないと思って気まずいのだろうと思った。
だが私はそれよりも辺境伯が言った内容の前半部分に驚いていた。
「辺境伯、確認したいのですが宜しいですか?」
「う、うむ」
「私達が持ってた剣ですが、それをこの国で作るのは難しいのですか?」
私が訊ねると辺境伯は一瞬顔を顰めたのを私は見逃さなかった。 どうやら失言だったらしい。 それでも辺境伯は直ぐに表情を取り繕って私を見返して何かを言おうとした所でノーラが割り込んで来た。
「アンドルフ辺境伯、其処から先は私が言います」
「…畏まりました」
辺境伯は一度視線をノーラに向けたがその後私を見て引き下がった。
「レーコ、その報告を受けた時私も一緒に居ました。 鍛冶師達の話では少なくともレーコ達の持ってた剣を作るのに必要な純度の高い鋼を作れる炉が無いと。 可能性として作れるとしたら王都の国営の炉だけだろうとも。 専門外だからはっきり言えないのだけど、鋼の剣のクリフトニア王国での普及率は3割から4割程。 その大半は王国騎士団とかになるわ。 それ以外の一部が市場に出てる程度なのだと私は習ったわ」
「つまり、クリフトニア王国内では鋼の剣はそれほど流通していない、そう言う事ですか?」
「そうなるわね。 勿論生産量を増やすべく国も色々してるとは聞いて居るわ。 現状は私は知らないのだけど」
「襲って来た賊は私達が持ってたこの国では珍しい純度の高い鋼の剣を奪う事も目的だった、と言う事でしょうか」
私が訊ねるとノーラと辺境伯は眉を下げて困った様な表情をして互いに顔を見合わせた。 その時後ろに立って居たアンドリュー殿が一歩進み出て来た。
「王女殿下、発言の許可を」
「許します」
ノーラが許すとアンドリュー殿は軽く一礼して私と柳田に視線を向けて来た。
「レーコ嬢、純度の高い鋼の武器はアナイアの森の魔獣に限らず全ての魔獣に対して有効な武器なのです。 故に各国は昔から純度の高い鋼の武器を作る事に躍起になっています。 恐らく帝国もそうでしょう。 辺境伯の予想が当たって居た場合、狙われたとしてもおかしくありません」
「成程。 そう言うのであればそうなのでしょう。 まぁあの剣は私達にしてみれば数ある内の1本でしかありませんので賠償どうこう言うつもりも無いので安心して下さい」
私がそう言うと私と柳田以外の視線が私達に突き刺さった。
「えっと、どうしました?」
「いいえ、私達の国との技術の差を思い知っただけよ」
ノーラはそう言うと静かに頭を振った。 辺境伯やアンドリュー殿はそれに対して小さく頷くだけだった。 其処で私も失言、では無いかも知れない、けどそれに近い事をした事に気が付いた。
その後新しい部屋が用意出来たと報告に来た侍女さんに救われ? 一度解散しそれぞれ部屋に戻った後湯浴み等を済ませると私はノーラが寝泊まりする部屋へと案内された。 部屋の前にはライラさんが居り私に気付くと軽く頭を下げて来た。 私もライラさんに頭を下げると部屋へ入った。
ノーラはベット近くにセットされたソファーに座って寛いでいた。 私に気付くと対面に座る様言われて私は言われるままに対面へと座った。 私が座ったのを確認した侍女さんが用意してくれたグラスが私とノーラの前に用意された。
「レーコ、少し付き合って貰えないかしら」
「喜んで」
私が答えると侍女さんが薄い桃色の液体をそれぞれのグラスに注ぐと瓶をテーブルに置いて離れた。
「これは?」
「私が好んでる果実酒です。 レーコにも飲んでみて欲しくて今回それなりに持ち込んでいるの」
「そう、ありがとう」
「では、乾杯しましょう」
ノーラはそう言ってグラスを持ち上げたので私もグラスを手に取り互いにグラスを合わせると綺麗な「キンッ」と言う音がなった。 果実酒を飲んで見ると口当たりが良く爽やかな風味が鼻に抜け後味も良かった。
「これは美味しいですね」
「レーコが喜んでくれて嬉しいわ」
その後何も言わず互いのグラスに果実酒を注ぎ静かな晩餐が続いた。 私は何を言って良いのか分からずチビチビとノーラが注いでくれた果実酒を飲んでると突然ノーラが俯いて嗚咽が聞こえて来た。
私は驚いて一瞬固まってしまったけど直ぐに気を取り直すと震えながら泣いてるノーラの横に移動してそっとノーラを抱いた。 抱き着いた時ノーラの肩が一瞬震えたが私が抱き着いたのだと気づくと態勢を変えて私に縋りつき声を殺して泣き始めた。
王族とはいえノーラは16歳の少女だ。 そんなこの少女が何を背負っていて、今こうして声を殺し私に縋りつき泣いてるのに私はこの小さな少女にかける言葉は思い浮かばなかった。 今はただ私に縋りつき泣いてるノーラの背中を優しくなでてあげる事しか出来なかった。
暫くするとお酒が入って居た事もあってかノーラは泣き疲れたのかそのまま静かな寝息を立て始めた。 私はそのままノーラを抱きかかえそっとベットに寝かせて上げた。 寝かせたノーラに掛布を掛けてあげてからどうしようかと部屋を見渡した時、ベット横のチェストに手紙らしきモノが乗ってる事に気付きベットを回りそれを手に取った。
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親愛なる我が娘、エリアルノーラへ
お前がこの手紙を呼んだと言う事はお前に襲撃があったと言う事だろう。 何時、何処で襲撃を受けたかは私には分からないがこの手紙を呼んでいると言う事はきっと無事なのだろう。 先ずその事を嬉しく思う。
何処で襲撃を受けたのかは分からないが無事なら先ずはアルフ爺、アンドルフ辺境伯を頼りシュバッツェへたどり着きなさい。 爺なら間違い無くノーラの味方になってくれるだろう。 そして無事シュバッツェへ着いたのならノーラに付けた王宮魔法師団のクレイストと彼が信用出来ると判断した者だけを連れて日本国の前線拠点へと行き亡命しなさい。
その為に必要な物はノーラが乗る馬車の仕掛け金庫に全て準備してある。 襲撃された事で聡いノーラの事だ、凡その予想が付いてると思うが今の段階で判明してる事を伝えよう。 現在我が国は帝国からの侵略戦争を受けている。 先の貴族連合軍の蜂起直後に帝国から宣戦布告を受けて既に国境を守る3伯爵領は戦闘行為に入ってる事だろう。
が、帝国の動きは5年ほど前から掴んでいた為それ相応の準備は我が国も整えていたが今回の帝国の本気度は今迄の非では無い様だ。 帝国は3伯爵領にも押し寄せてるがそれ以外にもビーデリア湖畔の街にも軍艦が多数押し寄せ襲撃を受けてると報告を受けてる。 其方には密かに移動させていた王軍第三軍を既に向かう様指示を出してる。 第一軍と第二軍は3伯爵領の応援へと派遣してあるのでそちらは早々落ちる事は無いだろう。
第四軍は帝国に懐柔された貴族領へ牽制と捕縛を命令しており恐らく戦地にはたどり着けないだろう。 そして第5軍には王都の守りを固める為に残している。 此処まで読めば分かると思うが今ノーラが向かってる、或いは着いてるシュバッツェが帝国の侵攻路から最も遠い為安全な地となりやすい。 だが帝国の密偵及び特殊部隊の存在がある為安心は出来ないだろう。 この手紙を読んでること自体がその証明の様な物だ。
安心しなさい、信用出来ると裏が取れてる貴族諸侯には宣戦布告が来た直後に伝令を出し協力を呼び掛けている。 時間が経てば援軍が戦地へ続々と向かう事となるだろう。 だが何事にも絶対と言う言葉が無い様に私は打てる手は全て打ってるつもりだ。 そう、クリフトニア王家の正当な血筋とそれを証明する為の物を私が今一番安全だと判断した場所へ送りだした。
私の杞憂で済めば良いが此度の帝国の侵略戦争はクリフトニア王国の歴史上最大規模となるだろうと私は思って居る。 故に周囲に悟られない様慎重に事を進め、ノーラをシュバッツェへと送り出した。 分かってくれとは言わないが、之だけは信じて欲しい、私も妻も決してノーラを蔑ろにした訳では無い。 心より愛してる。 そして愛してやまない娘に最悪の事態には過酷な運命を背負わせなければならない悔いている。
国王として思ってはならぬ事をあえて言うならば最悪の事態に陥ったとしてもノーラが幸せに暮らせるならクリフトニア王国を復興する必要はない。 ノーラ自身の幸せを優先したとしても父親として攻める気は無い。
その時は戦争を止める事を出来なかった愚かな王であり父を恨んでくれて構わない。 どうか、生き延びてくれ私達の愛おしい娘よ。
ブレンハワード・フォン・クリフトニア
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私は手紙を読んで絶句し、そして何故ノーラが私にしがみ付き声を殺して泣いたのか理解すると同時に手紙を読んでしまった事を激しく後悔した。 その時ノーラが寝言で「父さま」と呟いたのが聞こえ思わずノーラの方を見ると止まったはずの涙を再び流していた。 寝ながら泣き、父親を呼ぶノーラを見て私は決心した。
ベットの縁に座りノーラの頭を優しく撫でてると強張らせていたノーラの表情が和らいだの確認して私はそっとベットから立ち上がり部屋を出た。
「動かれるのですか?」
部屋を出た直後、部屋の扉を守っていたライラさんに声を掛けられた。
「ええ」
「……手紙を、読まれたのですね?」
「貴方は手紙の内容を?」
私が訊ねるとライラさんは静かに頭を静かに振った。
「殿下に手紙を渡したのは私です。 陛下からもし襲撃を受け生き延びる事が出来た時に渡すよう言い使って居りました。 故に内容は知らずとも予想する事は出来ました」
「そうですか」
「殿下は今は」
ライラさんはそう言うと殿下が居る部屋の扉を見つめた。
「今は泣き疲れて寝ています。 なので今の内に動ける事はしておこうかと。 …貴方はどうされますか?」
「私は… 今はここを守ります。 レーコ様、どうか姫様をよろしくお願いいたします」
ライラさんはそう言うと私に頭を下げて来た。
「何処まで出来るか保障出来ませんが、今私に出来る事はやるつもりです」
「ありがとうございます」
頭を下げたままお礼を言って来たライラさんをその場に残し私は柳田達が居る部屋へと歩を進めた。
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