第37話 これはもしや…
夕餉も終えたいつもの応接間にエリアルノーラとアンドルフ辺境伯、アンドリュー、ライラ、ザガット、王女の専属侍女、そして何故か私も呼ばれ集まっていた。
「エリアルノーラ王女、此度の事は些かあからさま過ぎると思うのですが一体陛下は何をお考えなのかお分かりになりますか?」
辺境伯から問われたノーラは困った表情を見せた。
「私も疑問に思い父上、陛下に訊ねました。 が、明確な返答は得られませんでしたが妙に焦ってる印象を受けました」
「あの陛下が焦る事態が?」
「アンドルフ、貴方もそうなりますよね。 アンドリュー、ライラ、貴方達は何か知っていて?」
ノーラは近衛情報小隊の2人に訊ねた。
「申し訳ありません姫様、私達には何も。 第1か第5小隊、団長辺りなら何か知ってるかもしれませんが」
「そう…」
アンドリューからの返事を聞いてノーラは小さく溜息を付いた。
「ノーラ、もしかして帝国、或いは隣国が関係してるんじゃ無いかしら」
「レーコ… どうしてそう思うのか聞かせて貰えるかしら」
微妙に気落ちしてる様に見えるノーラに私は声を掛けた。
「先の貴族連合軍との戦闘行為で私達自衛隊の存在は明るみに出ました。 それによって此処シュバッツェに居たと言う帝国の陰にも当然知られる事となりましたが、その多くは捕縛したと辺境伯様から聞いています。 ですが捕縛出来なかった者も少なく無いと聞いてます」
「そうね、その話は私も聞いてますし、その事を伝えたのは私ですからね」
私の言った事にノーラは頷き、また私もノーラが言った事に頷いた。
「故に帝国からクリフトニア王国に対して何かしらの問い合わせ、もしくは要請が来る事は容易に想像が出来ます。 ノーラもそう言ってましたし、日本側の上層部もその様に認識しています。 故に陛下はその様なモノが来た時に素早く動ける様に下地を整えているのでは無いですか?」
「それは私も考えました。 ですが、今までの父上を考えると不自然に思えて仕方ないのです」
「これは情報部からの推測なのですが、王国の一部の貴族、或いは対帝国同盟の加盟国の何処かが帝国と裏で繋がっていたとしたら之までの様な強引ともとれる手段を取ったのではと。
そしてさっきノーラが言った急いてる感じたと言う事は既に相手側の動きを掴んだ、或いは既に動いているとも考えられます。 故に対応を急いでいると考えれば…」
私が言った内容に驚いたかノーラ以外も目を見開いて私を見つめて来た。 だがルッツカード伯爵が行って居た禁忌魔法の研究、【裂け目】、私達の出現、魔法師団の早々な派遣決定、貴族連合軍の蜂起、そして今回の事を踏まえると情報科の分析官からの報告もあながち間違ってるとも思えなかった。
「確かにレーコ嬢の言う通りであれば陛下が急いて事を進めるのにも納得が行くが…」
「でもそれだと何処が、或いは誰が、と言う事になるのだけど」
辺境伯とノーラは揃って唸り始めた。 アンドリュー殿とライラ殿も視線を交わした後真剣な表情で考え込み始めた。
「こういう時は状況を整理してみてはどうでしょうか? 私達はクリフトニア王国の事以外は詳しく知りませんし。 一つづつ確認して行くのも良いと思いますよ」
「そうじゃな、レーコ嬢の言う通りかも知れん」
「そうね。 問題は何処から見直すか、だけど…」
「それでしたら以前概要だけ教えてくれた周辺国との位置関係をもう一度教えて貰えませんか? 其処から何か見えてくるかも知れませんし」
私の提案にノーラ、辺境伯、アンドリュー殿が互いに視線を交わし頷いた。 其処から以前より詳しくクリフトニア王国の周辺国について説明された。
クリフトニア王国の直ぐ西側にあるのがリディル王国でクリフトニア王国と同じく北側は帝国との国境を持っているが、その大半は大河でありもし帝国側から侵攻する場合大量の船が必要になるらしい。 尤もこれはクリフトニア王国にも言える事だがリディル王国側に比べて川幅はクリフトニア王国の方が狭い場所が多く、数か所には橋が架かってる場所もあり、当然橋が架かってる場所の街には両国の兵士が詰める砦も併設されてるとの事。
次いでクリフトニア王国の南東側から南側にあるのがセルノード王国であり国土はクリフトニア王国のほぼ2倍。 また海に面しており海洋貿易に力を入れてるとの事。 また内陸側は周辺国にも輸出されるほどの収穫量を誇る豊かで広大な農耕地があり同盟での力関係は頭一つ抜きに出てるらしい。
そして、リディル王国の南側から南東側に国境を面してあるのがサクトゥール王国。 同盟内では一番の採掘量を誇る鉱山を有しており一番地下資源が豊富だと言う。 以上の4か国で対帝国同盟を結んでるとの事だった。
此処で注意しなければいけないのがリディル王国の北西側にあるクリスタ皇国で、この国は中立を宣言してる。 当然帝国との国境を有している為過去何度か同盟参加を打診したらしいが断らり続けてるらしい。
因みに対帝国同盟4か国供に海に面しているがクリフトニア王国が海に面して面積が一番少ないとの事。 クリフトニア王国と帝国との国境の半分は広大な湖であり、また其処から連なる川がリディル王国へと伸び西側の海に繋がっているとの事だった。
辺境伯が紙に簡単に書いてくれた地図を見るとこの大陸は九州に似てると思った。 又、情報が無い為にクリスタ皇国と帝国の北側はどうなっているのか不明らしい。 帝国側からの交易に来る商人達の話ではいくつかの国があるらしいのだが詳しい事は分からないとの事だった。
帝国との国境を有する場所は3家の伯爵家が守っており互いに連携を取り合っており3家の仲は非常に良いと事だった。 其処で気になって確認したのがルッツカード伯爵領の位置だがセルロード王国との国境と面した地域だった。
「そういえばどうして帝国は侵略行為を?」
「うむ、この簡易地図でも分かる通り帝国は海に面しておらん。 故に海、更に言えば塩を求めておる、と言うのが儂らの認識じゃな」
「そうですね、一応帝国内では岩塩が取れ、流通しているのは確認されています」
「後、確認はされて居りませんが帝国の北側には常に煙を上げてる山がありその周辺は作物が育たない荒れた土地が広がってる、と言う情報もありますね」
アンドリュー殿が言った事で帝国内には活動中の活火山があるらしい事が伺えた。 又、掛かってる橋の幅も馬車がすれ違える程度の幅しか無いらしく一度に大量の兵が対岸に渡るのは無理らしい。 そもそも橋自体も一番短かくても200メイル(約200m)ある為、兵士が攻め込んで来るのが用意に確認出来る為対策が間に合うらしい。
「そうね、ありがちなのが国境を守ってる3伯爵家の後ろ側の領地貴族、或いはセルロード、サクトゥール王国側の貴族が、と考えられるけど…」
「先の問題を起こした貴族達は皆セルロード王国側に領地を持つ貴族ですね」
「そうね、そう考えると帝国と通じてるのはセルロード王国側の貴族となるのだけど」
「じゃが帝国との距離があり過ぎる。 もし密使が商人に扮して移動したとしても連絡を取り合うのも一苦労じゃぞ」
「そうなのよね」
「リディル王国はどうですか?」
「リディル王国の方は橋が架かってる場所無いんじゃ。 帝国との行き来は大河の流れが穏やかな所で船で行き来して居る故侵攻しようとすれば直ぐに気づくじゃろう」
「行き来があるにはあるのですよね?」
「あるの」
「ありますわね」
「ありますね」
私の問い掛けに3人は頷いた。
「と言う事は最悪リディル王国が、とも考えられるのですが…」
「それはあり得んじゃろう。 リディル王国の王太子妃はエリアルノーラ王女殿下の姉君じゃからな。 今年長女を御産みになられて居る」
「あ、そうなんですね。 おめでとうございます」
「ふふっ ありがとう、レーコ」
「そうなるとクリフトニア王族とリディル王族との仲は良好な訳ですがその下の貴族はどうなのでしょうか?」
「其処まで疑い出すと切が無くなるのじゃが… 今代のリディル国王は陛下と並び賢王と名高い、下の貴族の手綱もしっかりと握って居るはずじゃ」
「と、なるとやはりセルロード王国側の貴族、或いはセルロード王国自体が怪しくなってくるんですが」
「どう考えても距離があるのだがのう」
「そうなのよね、国境を越えてセルロード王国側まで行くとしたら一月は掛かるわ。 それでは連携なんて取れないし、そもそもそんな距離を移動すれば国内故に丸分かりなのだけど」
「ですが殿下、事前に大まかな時期を示し合わせて置く事は可能です。 帝国が攻める時期に呼応して内戦を起こされれば面倒な事になるのは確かかと」
「ああ、帝国と国境を守る地を挟撃するのでは無く王国内の兵を分散させるのね」
「はい。 そうされれば国境への応援に駆け付けるのも遅くなりますし、応援に回せる兵も少なくなります」
「確かにその通りね」
アンドリュー殿とノーラが言った事を聞いて私は引っかかりを覚えた。 クリフトニア王国内での内戦、王国兵の分散に該当する様な事がつい最近起きてる。 内戦に相当する事に国王は王軍を動かさず対応をしなかった。 それ故に私達自衛隊が戦闘をする事になったのだが…
”もし動かさなかったのでは無く、動かせなかったとしたら”
そして内戦とも言える事態を引き起こしたコンラード侯爵が帝国と通じていた張本人であればあの頑なまでの対応と配下の貴族への情報の遮断の徹底ぶりにも説明が付くのでは…
やがてノーラ達も同じ結論に達したのか表情を強張らせて沈黙した。 応接間は言い知れぬ緊張感に包まれた静寂が支配していた。
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