第28話 戦の足音4
『お前達は何をやらかしてくれてんだ、戻って来たら解雇通知が待ってるからな! お前達のせいでマスコミへの非難の電話が鳴りっぱなしだよ! それとお前達を全員裁判所へ訴えるから覚悟しておけ!』
『ちょっ 課長?! いきなりなんですか、何でそんな事になるんです?』
『何でだと? お前達がやらかしてる事が自衛隊からの配信で日本所か世界中にばらまかれてるんだよ!! いくら何でも機関銃の真横にカメラを設置して自衛隊側から懇切丁寧な説明を受けてもそれを受け流して〈それの何が悪いんですか?〉や、報道する為に政府と結んだ条項に抵触する行為をしでかして謝罪する所か〈それが何か?〉と開き直ってる姿が余す事無く配信されてるんだよ!! 今も俺の声がその配信から聞こえてるぞ!』
『な?!』
『お前達はやり過ぎだ、馬鹿野郎が! お蔭で選ばれた報道各社には今尚非難の為の電話やメール、押しかけが来てるだろうよ‼ それとな、進んでた企画関係者や会社からキャンセルの電話やメールも届き始めたそうだ、この責任どう取るつもりだ貴様ら!』
『は?!』
『ああ、待て。 今代表取締役社長が来られた、変わるぞ。
もしもし、鈴木君だね、君はとんでもない事をしてくれたね。 君とそちらに出向いてくれたスタッフ達には感謝していたのだよ。 誰も行きたがらない異世界へ行っての自衛隊と現地の人達との戦闘行為の取材に行ってくれたのだから。 だが、蓋を開けてみたらそれがコレとはね。
一時期我々マスコミへの風当たりは非常に厳しい物となり、報道各社は非常に厳しい状況を乗り切って再びある程度まで信頼を取り戻して来ていた。 それが君達のお蔭で元の木阿弥だよ? この責任どう取るつもりかね? ああ、因みにだが君達は戦の取材が終わるまで日本に帰る事は出来ないからね。 これは自衛隊と言うより政府との取り決めで既に決まって居る事だから。
それとね、之は今迄会社で働いて来た君達へのせめてもの温情だが、君達の家族の引っ越しを手配しよう。 こんな事をしでかした君達だ。 当然家を特定して嫌がらせ等をする輩も出るだろう。 その対策だよ。 少し待ちたまえ、今政府の広報担当から電話が入った』
そう言って通信機からは聞き取れない音量で会話が始まった。 その為報道クルーの纏め役の鈴木さんは虚ろな目をしながら挟間陸将補を見つめた。 暫くボンヤリと挟間陸将補を見つめていたが俯いて震え出したと思った瞬間挟間陸将補を殴り飛ばした。 殴られた挟間陸将補はそのまま倒れ込み、鈴木さんはそのまま挟間陸将補に馬乗りになり挟間陸将補を殴り始めたが直ぐに周りにいた警務科の隊員に取り押さえられる形となった。
警務科の隊員に手を借りて立ち上がった挟間陸将補は口の端と鼻から血が流れ出ており、更には左目の上が赤黒く腫れあがり始めていた。 直ぐに医務官を呼ぶ声が上がり携帯している救助キットからガーゼ等を取り出して止血作業が開始された。
その直後に鈴木さんの持ってた通信機から誰でも良いから通信機を挟間陸将補に渡してくれと叫び声が響き、近くにいた隊員が如何にも渋々と言う体で通信機を渡すと其処からは謝罪の嵐だった。 医務官が到着し治療の為運ばれて行くと報道クルーに渡され之からは自衛隊側の指示に絶対服従する様に厳命された。 そして全報道クルーはその場で自衛隊側の指示に従う事を誓わされると通信は切られた。
その後は設置されたカメラの移動、報道クルー用に設置された物見櫓に素直に移動された。 この物見櫓は最上階のみ厚み3cmの特殊防弾ガラスに覆われ、それ以外は防壁にも使われてる特殊軽量複合合金製素材を使い作られてる事を説明した。 つまり、最初から報道クルーの安全は自衛隊側が配慮していたのである。 更には自衛隊の通信が聞こえる機器も設置されており、自衛隊側の行動が筒抜けの状態。 当然この事も某動画サイトを通じて日本、そして地球側に全て配信された。
更には相互言語研修に使われた建物で現在自衛隊が置かれてる状況を事細かに説明をされた報道クルーは顔色は真っ白を通り越して青白くなっていた。
「それじゃ自衛隊はその殺傷力皆無の弾薬で2200名もの武装した集団と戦う事になるんですか?」
「その通りです。 貴方方が最初にカメラを設置した隣にあった機関銃、あれならば鎧越しでも打撃力は期待出来ますが隊員が持つ小銃では鎧越しならば大した衝撃にはならないでしょう」
「もしかしてあの物見櫓にトイレや水道設備、非常食等があったのは」
「万が一、防壁を突破されてもあの物見櫓ならば非常食が尽きるまでの間は籠城が可能でしょう。 出入り口を突破されなければ」
「それじゃ貴方達自衛隊は!? 貴方達はどうなるんだ?」
「男は皆殺し、女は慰み者、ですかね。 そうなる前に懇意にしてる王女殿下と辺境伯が止めてくれると思いますがそれも確かな事とは、相当な死傷者が出るかと思われます。 そしてホワイトベース、いえ、日本政府が此処ファースト奪還をしなければ…」
「…何故その様に平気な顔をして君はそんな事が言えるんだ? 最悪殺されるかも知れないのに」
「私達は自衛隊です。 自衛隊は国と国民、その財産を守るのが使命です。 此処がもし万が一にも突破され、クリフトニア王国が日本恐るるに非ず、と全軍を挙げ【裂け目】を目指したらどうなります? 此処と同じ惨劇が【裂け目】の拠点のホワイトベースでも繰り広げられますよ? そしてホワイトベースをも突破されれば次は日本本土が。 そうなれば【裂け目】を閉じる機会は永遠に失われるかも知れません。 そうなればこの世界の軍勢は何時でも日本へ軍を派遣出来る事になります。
今は自衛隊側が【裂け目】を守ってるからその事態は起こりえないでしょうが、この一戦にはそれだけのモノが掛かってると言う事を理解してるんですよ、私達は」
「そんな事一言も…」
「言えないでしょうね、そんな事。 まぁ皆さんなら分かると思いますがホワイトベースまでは余程の事が無ければ侵攻されないと思いますが、それも絶対とは言い切れません。 それでも此処を目指してあと1日の距離に2200名もの軍勢が迫っている。 その事実に変わりがありませんが今尚辺境伯と王女殿下を通じて戦回避の為に我々は動いてます」
「そう、それです! 向かって来てるその貴族連合軍からは何か要求は無かったんですか?」
「勿論ありましたよ」
「それを教えて下さい‼ この会話は既に日本に送られ今日本中に映し出されてるんです。 お願いします」
「少しお待ち頂けますか? 上に確認してみます」
そう言って私は無線で天川1等陸尉に連絡を入れた。 天川1等陸尉からは挟間陸将補に確認を取ると言われ暫く待つ様指示された。 そして挟間陸将補は直ぐにホットラインで日本へ。 そして政府へと連絡が回される事となったが当然この流れは全て日本中に放映されていた。 そして異例ともいえる速度で連絡が来た。
「お待たせしました。 連合軍側が示した撤退の条件を纏めた書類を持って来るのでもう少しお待ちください」
それから暫くして書類を持った隊員が入って来て私に渡された。
「それでは読み上げます。
1つ、日本国自衛隊なる蛮族は即座に武装放棄すべし。
1つ、放棄した武装は全てクリフトニア王国軍に差し出すべし。
1つ、今現在日本国自衛隊なる蛮族が占領せし村を開放すべし。
1つ、解放後村を占領せし者達はクリフトニア王国の軍勢に下るべし。
1つ、日本国なる国はクリフトニア王国の一部を不法占領した対価とし大金貨1万枚支払うべし。 因みに日本円で大金貨1枚で100万相当ですので1万枚と言うのがどれだけ法外な値段かお分かり頂けるかと思います。
1つ、日本国はクリフトニア王国の軍勢に下った1人に付き大金貨10枚支払うべし。
1つ、日本国自衛隊なる蛮族は即刻クリフトニア王国王女殿下の身柄と現地住民の身柄を開放すべし。
以上となります。 因みにですが私達自衛隊はクリフトニア王国第二王女殿下及び現地住民を相手の意思を無視した事実は一切ありません。 今皆さんがいるこの部屋で互いの言語を教え合う相互言語研修を行ってはいましたが来られた皆さんは楽しそうでしたよ。
更に言えばエリアルノーラ第二王女殿下もこの要求の内容をご存じですし、この要求はあり得ないとまでおっしゃっていました。 つまり、この要求は不当極まる物、と言う事になります」
「無条件降伏と国への法外な賠償金請求に他なりませんよね。 しかもこの村? 村がある国の第二王女もそれを認める程の」
「そうなります。 それで皆さん、常識に照らし合わせて受け入れられますか? ついでに言えばこの要求にはある点が抜けてるのですが分かりますか?」
「え? …すみません、私には」
「俺もだ」
「あ‼ 下った兵士の安全に何も触れてない!」
《あ‼》
「その通りです。 それを踏まえてもう一度お聞きします。 受け入れられますか?」
「無理だ! 普通降伏を求められても其の身の安全が保障されなければ到底降伏なんて出来る訳が無い‼」
「そうだ、それにその後の賠償金も王女殿下が認める程法外な額らしいじゃないか! そんな要求飲める訳があるか」
「と言うよりもこんな要求をされて引き下がれる訳が無い。 それを見越してこんな要求をしてるとしか思えないぞ」
「確かに。 一体何を考えてこんな要求をしたんだ?」
「ああ、それは王女殿下が教えてくれました。 今回兵を上げた貴族達ですが帝国との開戦派の武力派貴族との事です。 但し、自分達の領地は帝国との国境は王都を挟んで反対側の」
「…じゃぁ何か? 自衛隊はそんな貴族達のガス抜きにされた、そう言う事か?」
「それとその貴族達の処分する為の口実作り、でしょうか? その事に王女殿下は些か国王陛下に怒りを見せていましたが」
「そもそもその要求は日本を見下し過ぎてないか。 と言うよりも日本を馬鹿にしすぎじゃないか? それにもし仮に負けて相手に下った場合、自衛隊の人達はどうなるんだ? それこそさっき貴方が言った様な事が起こらない保証が何処にある? この拠点を放棄すれば済む話かも知れないがそうすれば【裂け目】を閉じる為に自衛隊が今まで行って来た行為全てとは言わないが相当数が無駄になるぞ。
そうなれば【裂け目】を閉じる事が更に難しくなり時間が掛かるんじゃないのか? そもそもの話だ、自衛隊の異世界派遣の際に現地民との接触は避けて通れない事としそれでも派遣する事を俺達国民は支持した。 それがいざ現地民とのいざこざが起きたから自衛隊撤収だ、政府は解散しろ、だのいくら何でも都合が良すぎだろ、俺を含めた国民は。
正直に言って俺はさっき俺がやろうとした事を恥ずかしく思う。 本当に申し訳なかった。 虫の良すぎる話だとは思うが俺は貴方方自衛隊を支持したいと思う」
報道クルーの1人の男性がそう言うと他のクルーも謝罪した後に自衛隊を支持すると言ってくれた。 が、私は報道クルーを心の其処から信用は出来なかった。 そしてどれだけ現場の私達が苦境にあるかを知った人達が政府に訴え掛けて通常弾の使用許可が下りないかな、等と私は密かに思ってしまった。
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