第27話 戦の足音3
演説後の住民の反応は自衛隊を擁護する意見が多かったがそれでもシュバッツェの直ぐ近くで戦が行われる事へ非難する声もそれなりに聞こえて来た。 ハンターギルドは今回の戦に関して静観の構えで戦への参加の有無は所属してるハンター達の判断に委ねられる形となった。
一方の傭兵ギルドは一時的には盛り上がったがどちらの陣営に付くかで相当揉めたと聞いた。 普通に考えたら住んでるクリフトニア国王の貴族連合側に付くのだが自衛隊側に王国の第二王女殿下が味方してる事から自衛隊側に付くべき、との意見も出て意見が割れたらしい。 最終的にはシュバッツェの傭兵ギルドとしては今回の戦に関しては不干渉の方針を打ち出した。
参加する場合は完全に自己責任の形でハンターギルドと同じく所属してる傭兵たちに委ねられた。
そもそもの話、シュバッツェ領主のアンドルフ辺境伯が戦には一切協力しない旨を先の演説の時に宣言してる為傭兵ギルドにその手の依頼・要請が来てない為参加しても報酬が望めない可能性が示唆され所属してる傭兵達の多くは様子見の姿勢を取った。
又アンドルフ辺境伯は領地内の農村に近づいて来る貴族連合軍に不当な搾取をされない為に兵士を派遣。 派遣された兵士にはエリアルノーラ王女殿下のサイン入りの書類を持たせる徹底ぶりを見せた。 更には近隣の領主にも貴族連合軍の協力する必要は無い旨をしたためた手紙を送ったりと色々動いていた。
自衛隊は自衛隊で観測ヘリを使い高高度偵察を行いほぼ正確な貴族連合軍の情報を得ていた。 その情報を元にSOAで10日後に着くと計算された。 人数は事前にノーラから聞いた情報より若干多い2200人程。 4貴族家の私兵のみで2200人、と聞いて多いと捉えるか少ないと捉えるか微妙な数字だが自分達の領地の治安活動等を行う人員を残して来た、と言うならこの数はまぁまぁ多い方だとノーラは言った。
偵察映像の解析の結果2200人の内200~250人はどうやら傭兵の集団らしい事が分かった。 野営の時に5つのグループに分かれてたので偵察カメラの倍率ギリギリまで高度を下げて撮った映像を解析した結果、装備も服装もてんでんバラバラな集団だった事から此処まで来る途中で合流した傭兵達だろうと結論づけられた。
貴族連合軍の到着予想がたった為ファーストでは籠城・防衛戦に向けての最終準備が急がれた。 それと並行してファーストから300m程シュバッツェ側に離れた位置に高さ7m、幅15m程の小高い丘が自衛隊が重機を使用して作られた。 この小高い丘はエリアルノーラ王女殿下とアンドルフ辺境伯が戦を観戦する為に作られた。 之は戦終了後に貴族連合軍と日本・自衛隊側が報告した際に虚偽の報告がされない為に絶対必要だとアンドルフ辺境伯とアンドリュー殿が強く言って来たので作られた。
丘が作られた位置はアンドルフ辺境伯とアンドリュー殿が連合軍がこの位置に布陣すると予測した場所とファーストの両方が見渡せる位置に作られた。 もし連合軍の布陣位置が違っても既に丘が作られ王女と辺境伯が見てる事を理解したなら連合軍側の布陣をある程度コントロール出来るとの意見もあり、自衛隊側は総力を挙げて丘を作り上げた。
ただ準備中にファーストの事を知ったシュバッツェの住民や傭兵、ハンター達が興味本位なのかファーストに訪れる人達がそれなりに来た。 大抵の人は此方が「戦準備をしてる場所を見学出来ると思いますか?」と訊ねると頷いて遠目で眺めてからシュバッツェへ帰っていったが傭兵と思しき数人のグループは3日ほど野営までしてから帰っていった。
当然そのグループには自衛隊側からと伯爵の所の兵が尾行に就いた。 そのグループは翌日にシュバッツェを出て行ったが行き先の方角が連合軍の方向だった為数両の車両で追いかけ補足。 その場で尋問すると自分達が見た事を連合軍に売るつもりだった事が判明。 その場でスパイ容疑で拘束しシュバッツェ守備隊の牢屋に入って貰う事になった。
正直エリアルノーラ王女直々に尋問されたら嘘何か付けないよね、と思いながら私はその時の事を思い返した。 その事が広まったのかそれ以降同じ様な真似をする人は出なかったので此方としても余計な人員が割かれる事無く準備を進める事が出来た。 が、アンドルフ辺境伯から会談の要請を受けて私と天川1等陸尉、挟間陸将補は辺境伯邸へと赴いた。
通された部屋には辺境伯、王女殿下、アンドリュー殿とファランド殿、執事のザガットさん、王女専属侍女のメイリーさんが居た。
「お待ちしておりました。 今はお互いに忙しい身、挨拶は不要です。 席に座り次第早速お話を始めましょう」
「畏まりました、王女殿下」
代表して挟間陸将補が答え、私達はそれぞれ席に着くとザガットさんとメイリーさんが素早く全員の前にお茶を配膳して部屋の隅に控えた。
「それではお話に入らせていただきますが、自衛隊の皆さんにとっては余り良い話とは言えない内容となりましょう」
「それは聞いてから判断したく思います」
「分かりました。 率直に申し上げて貴方方自衛隊、日本国の事を帝国に知られた可能性があります。 辺境伯が以前より調べていた者達は怪しい行動をした時点で捕えましたが監視の目をすり抜けた者も少なからず居る者と思われます」
「まぁそうでしょうな。 我々も派手に動いてますし、ある程度は覚悟しております。 それで王国側としてはどの様に?」
「陛下からは今の所なにも。 ただ帝国から何かしらの質疑が来た時は返答をしなければいけないでしょう。 その時どう返答するかは何とも…」
「そうですか。 ではもしその時が来た時後からでも良いのでどの様に返事をしたか教えて頂く、と言う事は可能ですかな? 我々も身の振りを決めねばなりませんので」
「私からはお約束できかねますが、陛下にはその旨しかとお伝えいたします」
「今はその返事で納得しましょう。 他にも何か御座いますか?」
「今伝えるべき事では無いかも知れませんが魔術師団から10名、その護衛に騎士が3名と兵士9名が貴方方の言う【裂け目】を調査する為に来る事が決まったと連絡がありました」
「総員22名ですね、了解しました。 因みにその方々は何時頃来られるのでしょうか?」
「この戦の終了の報告が来たら出発する手筈になってるそうです」
「成程、ではこの戦、早々に終わらせる事にしましょうか」
「…私が言う事ではありませんが、お手柔らかにお願いしますわね」
「分かっております。 ですが、手心を加えるのは今回までと思って頂きたい。 部下を失いたくない指揮官は世界を違えどもその思いは同じはずです」
挟間陸将補から醸し出される異様な怒気に飲まれたのかノーラは一筋汗を流しながら頷いた。 挟間陸将補から醸し出された怒気にはとある訳があった。 この会談の直前に日本政府から出された指示とそれに伴う弾薬変更が行われたからだ。
その指示とは "現地民に可能な限り死者を出ない様にせよ"
そしてその指示を後押しする様に弾頭部が通常弾頭では無く暴徒鎮圧用に開発された対人衝撃弾と言う特殊弾頭の弾薬に総変更された。 勿論暴徒鎮圧と言う目的の為炸薬量も減っており射程距離も減少している。 この弾頭弾でも当たり所が悪ければ死ぬ可能性が十分あるが通常ならせいぜい骨折する程度の威力しかない。
それを鉄製の鎧を着てる兵団に向けて撃っても衝撃がある程度だろうと現場の私達は判断した。 果たして死傷力の無い弾を幾万発浴びせれば相手側が引く気になるのか、と私達は頭を抱える羽目になったのだ。
言うなればこれはこちらを殺しに来る相手に手を差し出して迎え入れる様な物だ。 しかもファーストの防衛人員は増員されたとは言え元の86名から153名に増えた程度でしか無い。 一方の貴族連合軍は傭兵を含め2200名以上、戦力差は火を見るより明らか。 其の上使える弾薬は非殺傷能力しか無い弾頭だけでどうやって双方に死者を出さずに戦闘を終結させるかは現場に丸投げ状態では挟間陸将補がキレるのも頷ける。
更に言えば王手数社の報道クルーがファーストへと来るとの事でその事でも私達は頭を抱えていた。 但し、戦闘行為は編集の余地が無い様に報道局が持つネットワークを通じて生中継せる事を日本政府が認めさせ、必要な設備には細工がされない様に自衛隊の情報科隊員の監視付き付きと言う条件も認めさせた点だけは評価されていた。
会談から2日後、連合軍到着予想日が3日後に迫った日に報道クルーとその機材を空輸してきた5機の汎用ヘリがファーストに到着した。 汎用ヘリは機材と資材を降ろすと直ぐにホワイトベースに帰還して行った。
報道クルーをひとまず寝泊まりする為の家屋へ案内した後、報道クルーの纏め役と挟間陸将補が打ち合わせをする為外したら他の報道クルーはすぐさま防壁の足場上に機材を配置し始めたのですぐさま止めさせた。 何せ配置していた機関銃の真横にカメラを設置されたら邪魔物以外何でもない。
報道クルー達がカメラを設置しようとした場所全てが機関銃の真横、60cm以内の位置では最早妨害行為の何者でも無い。 排莢が当たっても文句も言えない位置だし、何より機関銃の操作にも支障が出るのが目に見える場所にカメラの設置等許可出来る訳が無かった。
当然報道クルーと自衛隊側が揉めて挟間陸将補と纏め役がすぐさま呼ばれたが纏め役は「その位置の何処が悪いので? 機関銃があると言う事は其処が良い絵が取れる場所でしょ?」と宣った。 その事に現場の自衛隊員は全員怒りの表情。 一方の報道クルー達はニタニタと厭らしい顔つき。 明らかに確信犯だった。
それでも挟間陸将補が纏め役と報道クルーを集め、自分達が何をしてるのか説明していた。 曰く、報道を認めたが自衛隊の妨害行為は行ってはならない、と事前に交わした条項に抵触して居る事。 その事が伝われば貴方方全員日本に戻り次第逮捕案件、だと。
纏め役と報道クルーの大半は「それが何か?」的に厭らしい顔つきと態度が変わらなかったが数名のスタッフは青ざめ始めた。
が、私達自衛隊側もただやられる一方では無かった。 実は数名の自衛隊員はヘルメットに付けたカメラでその様子を撮影し某動画配信サービスで生中継していた。 そして纏め役の持ってた通信機から着信音がなった。 それに忌々しそうに胸元から取り出して通信機から周りに聞こえる音量で怒鳴り声が響き渡った。
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