第26話 戦の足音2
エリアルノーラ王女殿下から伝えられた内容はすぐさまホワイトベースを通して日本政府にも伝えられた。 閣議は直ぐにでも自衛隊を撤収するべきだ、と言う意見と文明レベルの差で圧勝が予測出来る為専守防衛に徹して防衛戦とするべき、との意見に割れた。
当然外国からの多種多様な圧力等も当然あった。 隣の大国に至っては兵士を派遣しても良い、と言って来たが戦闘で得た地域は我が国の領土とし、移民を認める事が条件だった。 当然承認出来る訳が無い為日本政府は兵士、兵器、兵糧等は自国で賄える為必要無い、と断った。
某大国は結んでいる条約を持ち出し援助すると言って来たがこれに関しても政府は丁重にお断りした。 近隣の周辺各国からも多々の援助申請が来たが日本政府は全て断った。 この件は日本の問題であり、それに口を出すのは内政干渉だ、と弱気外交の日本としてはかなり強気の声明を世界に発した。
だが政権支持率は目に見えて落ち、首相の辞任を求める声と異世界からの自衛隊総撤退を求める声も上がった。 それも伴い閣議でも自衛隊の撤退が決まり掛けたが【裂け目】を研究を依頼した教授や学者から【裂け目】を閉じる為には異世界側での活動が必要不可欠、今整備した拠点を失えばこの先に両方の世界に深刻な問題が発生する恐れがあると反対意見が出た。
また、【裂け目】周辺の元々住んでた人達からも住んでた家に帰りたい、と自衛隊を支持する意見も出て閣議は荒れたが最終的に首相は専守防衛に則った自衛の為の戦闘行為のみ認め、自衛隊の撤退はあり得ないと決断した。
更に現地前線拠点に滞在している該当国の王族を通じて戦闘行為回避に向け外交官を派遣を決定。 交渉に必要なあらゆる支援を自衛隊各位に要請。 そしてファーストの防衛に野戦特科を追加配備を決定。 人員増員と防衛に必要な多種多様な装備をファーストに追加配備も指示をだした。
首相はあらゆる手段を使い戦争行為に発展しない為の努力をする、と言ったがファーストから上がって来る情報から戦闘行為に発展した場合に備えあらゆる準備も同時に行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日本政府の指示でファーストでは大急ぎで防衛準備が行われた。 想定事項No.3:ファースト籠城戦に備え先ず最初に3か月分の戦闘食料が運び込まれ、次に各種迫撃砲及び弾薬、医薬品が運び込まれた。 ついで野戦特科の砲班と榴弾砲が4基航空科により輸送された。
ホワイトベースにも高射特科の隊員と各種車両と観測ヘリと対地攻撃能力のある戦闘ヘリが配備された。
ファーストに相互言語研修の為に来ていたシュバッツェ守備隊とアンドルフ辺境伯の次男のファランド殿と使用人達にシュバッツェへと帰るよう要請した。 これは挙兵した貴族連合が掲げる大義が「蛮族から現地の民と王女殿下の救出」である為その前提を崩す目的だった。
相互言語研修の為に来てた人達に説明するとシュバッツェへと帰る事に理解して貰え、準備が整い次第シュバッツェへと帰って行ったのは王女殿下と緊急の会談を行った夜から3日後だった。 だが、王女殿下とファランド殿が数名の供を連れてその二日後にファーストへと戻って来た。
「エリアルノーラ王女殿下、何故ファーストに来られたのですか? 貴方方が此処に居れば貴族連合に大義名分を与える事になるのは十二分以上に理解して居る筈ですが」
「それは勿論理解しています。 が、例え私達がシュバッツェに居たとしても兵を上げた貴族連合は間違い無く此処、ファーストに攻撃を仕掛けます」
「それは何故かお聞きしても?」
「自衛隊がクリフトニア国王の領土に無断で侵攻し、拠点を作った。 これは侵略行為に他なりません。 故に貴族連合は私と現地の民が居なければ異国の兵によって奪われた領土奪還を掲げるからです」
「成程、そう言われると確かに我々自衛隊はクリフトニア王国の領土に無断で侵入し拠点を設けていますね。 ですが、この元廃村を含め僅かばかりの土地はアンドルフ辺境伯から日本の国土として認めて貰いましたが、それはどうなのでしょうか?」
「確かにアンドルフ辺境伯からその話は聞いています。 ですが、それはあくまでも一時的な許可に過ぎません。 なぜならクリフトニア国王の領土はあくまでも国王陛下の土地、領主貴族はその土地の管理を任されてるに過ぎないのです」
「ではお尋ねしますが、クリフトニア国王の領土とされてるのは何処まででしょうか?」
「この辺りであれば目の前のアナイアの森の浅い場所まで、ですね」
「で、あればアナイアの森の奥、山脈の麓にある自衛隊の基地は領土外という解釈で間違い無いですね」
「それは… そうですね、そうなるかと思います」
「では最悪の場合はこの場を放棄し、麓の拠点に引き上げればこの事態も収拾が可能でしょう。 ですが、それでは折角得た繋がりが断たれてしまう。 それは双方にとってあまりに惜しい。 王女殿下の目論見的にも、そうではないですか?」
「おっしゃる通りです、天川1等陸尉殿」
「それで王女殿下は何をお考えになられているのかお聞かせ願いますか?」
「私が行いたい事には自衛隊の協力が必要不可欠なのですが、ご協力して頂けますか?」
「先ずはお話を聞かなければお答え致しかねます。 場合によっては本国に指示を仰がなければいけませんし」
「それを聞けて安心しました。 それではお話します、私が考えていることを…」
王女殿下からの申し出に関する許可は意外にもあっさりと出た。 その事にいささか拍子抜けしなかったと言えば嘘となる。 だが許可は出たのでノーラに伝えると大いに喜んだ。
翌日から早速その為の準備に取り掛かったのだが思いも寄らない来客があり、私は司令部に来る様にと連絡を受け出頭した。
先ず最初にとった行動は直ぐ近くのシュバッツェの住民への説明だった。 ノーラはシュバッツェにある大広場で住民に向けて今回の戦の経緯について説明しすぐ近くで戦が発生する可能性がある事を説明した。
ノーラの次に領主であるアンドルフ辺境伯は今回の戦に関してシュバッツェは協力は行わない事を明かした。 今回兵を上げた貴族達は既に辺境伯が自衛隊に対して対応してたにも関わらず兵を上げた。 要は辺境伯の顔に盛大に泥を塗った事になる。そんな事をしでかしてくれた貴族達に協力する義理は無い、と住民の前で断言した。
尚、この演説に自衛隊は各種音響機器と高さ7m、幅12mの大型モニターを貸し出してたりする。 これは自衛隊と言うよりも日本の技術力の高さをアピールする為でもあった。 そして最後に挟間陸将補と外務省職員が登場し何故日本がこの世界に来る事になったのか【裂け目】が出来てからの経緯をモニターを使い説明。
日本が決して侵略目的で自衛隊、軍を派遣した訳では無い事、最終的に【裂け目】を閉じる手段が確立し実行可能になった時点でクリフトニア国王の領土から完全撤収する事を説明した。 そして今回の戦は攻撃を受ければ身を守る為の戦闘は行うが、日本側、つまり自衛隊側からは戦闘を仕掛ける事が無い事を断言した。
そうする事によって日本側に侵略の意図が無い事を証明するのが目的である事も説明された。 更にエリアルノーラ王女殿下を通じ、クリフトニア国王の国王陛下との交渉が既に始まっており今回の戦に関して自衛隊、日本側には一切責任を問わない旨を記した書簡が自衛隊に届けられた事も告げられた。
因みにその書簡はこの演説の前日に近衛第3情報小隊の面々によって届けられた。 近衛第3情報小隊はそのままエリアルノーラ王女殿下の護衛として残り、ファーストへとこの演説後に来る事になっている。 私としては再びアンドリュー殿と再会した形となり嬉しくもあり、多少切ない気持ちになる羽目になった。
再会した時に感じた気持ちを今の私は持て余し気味でアンドリュー殿に気付かれない様に取り繕う事で精一杯になり、自分の気持ちを自覚する事になった。 そんな私だが演説後2・3日はハンターとしてシュバッツェの残りシュバッツェの住民の反応を調べた後ファーストへと帰還する予定となっており、そこでどうにかある程度この感情に折り合いをつけれないかと思案してたりもする。
そんな事を考えてる内に演説は予定されていた事を全て終了し、ノーラ達と挟間陸将補は舞台から降りて行くのが見えた。
「マーク、トージ、アイン、取り合えず広場から離れて適当な食堂に入って直後の反応を窺うわよ。 その後はハンターギルドに行って同じく情報収集。 その後適当に街を歩き回ってから宿屋に戻るわ。 良いわね」
「「「了解」」」
後ろに控えてた柳田達に指示を出して私達4人は広場から抜け出して広場から程よく離れた場所にある食堂に入って早速情報収集、他の客達の会話に耳を傾けた。
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