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 第19話 王女殿下の思惑

 頭を上げた私は気になってる事を思い切って聞く事にした。


「エリアルノーラ王女殿下、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ。 まぁ貴方が聞きたい事はどうして私がアンドルフ辺境伯邸に居るのか、って事かしら」


 どうやら私の疑問は王女には簡単に見抜かれていたらしい。 私は半ば諦めつつも王女に頷いた。


「先ず最初に言って置くと私が本日此処に居合わせた事は全くの偶然です。 此処に居る理由を言えば、同好の士に会いに来ただけです」


 そう言ってエリアルノーラ王女殿下は微笑んだ。 王女の言葉を聞いてアンドルフ辺境伯も嬉しそうに頷いたのを見て私とアンドリュー殿達も納得顔で頷いた。


「つまり、エリアルノーラ王女殿下もマスター・マクマの冒険譚のファンであらされる、と言う事で宜しいでしょうか?」


「ええ、その通りですわ! そしてアンドルフ辺境伯はクリフトニア王国でマスター・マクマの研究の第一人者。 そんな辺境伯に色々と教えて頂こうと思い父上に何とか許可を頂きましてまかり越しました。 此方に到着したのは昨日の夕方です」


「そうでしたか。取り合えず納得は出来ませんが、理解はしました」


「あらあら、ふふっ」


 私の返事を聞いて王女殿下は楽しそうな笑顔を見せた。


「貴方、良いわね。 私に対してその様な物言いをしたのは貴方が初めてですわよ。 貴方気に入りました、私の友人になって頂けませんこと」


「失礼な物言いと感じられたのでしたら心よりお詫び申し上げます。 それと王女殿下の友人は畏れ多いので辞退させて頂きたく存じます」


 私の返答を聞いて王女殿下はますます笑みを深めたのを見て私は失敗したかもと思った。


「本来王族である私からのお願いを断るのは一種の不敬罪になるのだけど貴方は異世界の出、不問と致します」


「ありがとうございます」


 私はそう言って頭を下げたが、内心焦っていた。 王女が言った不敬罪の範囲が掴みきれないからだ。 之からは更に言葉使いに気を付けて発言をしなければ、と気合を入れてから頭を上げた。


「あら、随分と顔つきが変わりましたわね、貴方。 色々お話しましょう。 でもその前に… アンドルフ?」


「畏まりました。 ザガット以外の使用人は部屋から下がりなさい」


 王女は辺境伯の名を呼びながら視線で問いかけると直ぐに辺境伯はその意図を読み取り筆頭執事を残しそれ以外の者達を下げた。 指示を受けた使用人達も反論する事無く指示に従い部屋から退出して行った。


「さて、これで心置きなくお話出来ますわね。 部屋に残られてる方々、之からの事は一切他言無用ですよ」


「「「「はっ!」」」」


「分かりました」


 王女は私達の返事を聞くと満足そうに頷いた。


「これで堅苦しい喋り方をしなくて済むわね。 そうそう、此処からは無礼講としますので安心して下さいね」


 王女はそう言って今まで見せていたのとは違う微笑みを見せた。 私は之が素の王女の姿なのだろうと思った。


「真面目な話なのだけどレーコ嬢、冗談抜きで先程の魔力適性検査の結果は吹聴しない方が良くてよ。 数は分からないそうだけど此処シュバッツェにも相当帝国の陰が入り込んでるのは間違い無いみたいだから」


「帝国の陰。ですか?」


「ええ、そうよ。 そうでしょ、アンドルフ」


「はい姫様、ハンターや傭兵で魔法が使える者達は少なからず誘致を受けた者達が居りますので間違い無いかと」


「と、言う訳よ。 貴方方も十分気を付けなさい。 父上、陛下には私からも貴方方の事は正確にお伝えする事を約束するわ」


「何故其処までして頂けるのですか?」


「そうね、色々理由はあるのだけど… 建前は如何なる理由があるとしても我が国に他国… それも異世界の軍隊が拠点を設けてる事に対する警戒、かしら。 それに貴方方も今後交渉するにしても国の最上位の王族との繋がりがあれば助かるでしょ?」


「それは、確かにその通りですね。 で、建前があるならば本音もありますよね?」


 私は王女の言い分に納得しつつも、最初に建前と言ったので彼女の本音の部分が気になり正直に聞いて見た。


「あら、意外とせっかちなのね。 まぁいいわ、本音はね、貴方方の国にとても興味が沸いたの。 私も飲んだのだけどあの紅茶は素晴らしい物だわ! それに淹れる為の道具に茶器もとても素晴らしい。


 それに貴方方の国ではとても食文化が進んでるのですよね? 普段の食事も不満がある訳では無いのだけど、同じ様な味付けだからどうしても飽きが来てしまう時があるのよ。 それに先程のアンドリュー殿達の貴方方の食事を食べた時の感想を聞くにとても美味しいらしいですし。


 これは悪までも私個人の願いなのだけど、貴方方の国と貿易を行いたいわ。 そして我が国の食文化を大いに発展させたいと思うわね。 そしてそれを同盟を結んでる周辺国へ普及させより同盟を強固な物へとしたいわ」


「それは先程出て来た帝国に対抗する為、でしょうか?」


「ええ、その通りよ。 我が国の北に位置する帝国は国土は凡そ3倍、人口に関して言えば6倍、兵力に関しては考えるだけでも嫌になるわね。 だからクリフトニア王国を始め周辺3ヶ国と同盟を結んでるけど、結局の所自分達の国の方が大事でしょ?


 いざと言う時本当に援軍を送ってくれるかはその時にならなければ分からない。 でも、食文化発展の起点となれればその限りでも無くなるわ。 我が国が侵略を受ければ進んだ食文化が途絶えてしまうのだもの」


 王女の話を聞いて私は、いや私達は王族と言うモノの存在を軽く考えすぎていたと言う事実を突き付けられた気分だった。 王女は私達が持って来た辺境伯へのお土産と辺境伯との話を聞いて其処まで考えた事に純粋に驚かされた。


「正直私では貿易云々に関しては何の権限もありませんので返答出来ません。 それと、私達はこの世界に来る切っ掛けとなった【裂け目】を閉じる事を最終目標としています。 ですのでエリアルノーラ王女殿下の展望通りになるとは…」


「それはそうね、確かにレーコ嬢の言う通りだわ。 でもね、何かを求めるならそれ相応の対価は必要よ、レーコ嬢。 そしてその対価に私が欲したのは貴方方の国の食文化の知識と技術なの。


 まぁレーコ嬢の言う通り貿易云々に関しては現場の兵士ではどうしようも無い事は私でも理解しているわ。 それに貴方達の最終目標も考えると難しいでしょうね」


 王女殿下はそう言うとザガットさんが淹れた紅茶を飲み笑顔を浮かべた。 その笑顔に同性である私ですら見惚れてしまう程の笑顔であった。


「そういえば、レーコ嬢達はこの後の予定はどうなってるのです?」


 王女殿下からの問いに私は素直に答えた。 それ聞いた王女殿下と辺境伯の計らいでその日は辺境伯邸に泊まる事になり、翌日からの予定には辺境伯邸の使用人が案内してくれる手筈となった。


 その為夕食を取り終わり部屋に下がるまで王女殿下の話し相手を勤める事となった私は精神的にかなり疲弊する事となった。 私付として付けられたメイドさんの手を借りて軽鎧を脱ぐと私は部屋のベットに倒れると体を清める間も無く意識を手放した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



玲子達自衛隊員が用意した客室に引き上げた後の談話室には王女殿下と辺境伯、アンドリューとファランド、ザガットと王女殿下専属のメイドだけが残った。


「それでアンドリュー殿、彼女、レーコ嬢はかなり誤魔化しつつ私の質問に答えてましたが実際の所どうなのですか?」


「嘘は言ってませんが、本当の事を言ってると言う訳でもありません。 かなり控え目に言って居ると言って良いでしょう」


「まぁ当然の事ですわね。 今あの方々の事を一番理解してるのは貴方でしょう。 貴方から見て思った事を正直に言って頂戴」


「分かりました。 もし仮に日本と言う国と我がクリフトニア王国が全面戦争となった場合我が国は3日持てば良い方でしょう」


「…其処までですの?」


 王女殿下からの問いにアンドリューは静かに、されど王女殿下の目を見て頷いた。


「そう…」


 王女殿下はそう呟いた後右手で目元を覆ったが直ぐに辺境伯を見た。


「アンドルフ辺境伯、貴方の英断に私の名を持って礼を述べましょう。 良くやってくれました」


「はっ 有難き幸せ」


「アンドリュー殿、貴方の王都への帰還は彼女達の拠点への帰還後、私と共に王都へ。 その足で父上、陛下へ報告して貰います。 そのつもりで準備を」


「畏まりました」


「それとアンドルフ、かの拠点への言語研修への人員は既に決まったのですか?」


「いえ、使用人枠は決まりましたが警備隊の人員に難航しております」


「そう… アンドリュー殿、近衛第一情報分隊の隊員は出せると思いますか?」


「陛下がその必要性があると判断すれば、或いは」


「アンドルフ、その難航してる枠の内5名は開けておいて。 もしかしてだけど…」


「分かりました。 その様に手配しておきます」


「宜しく頼むわ。 それとアンドリュー殿、貴方がクリフトニア王国が3日も持てば、と言った根拠を聞かせて貰える?」


 王女殿下のアンドリュー殿を見る目は王女殿下のイメージとはかけ離れた程鋭い目つきでアンドリューを見据えていた。


「アナイアの森の奥、霊峰フジの麓から此処まで往復出来る鋼鉄の天馬の存在を少なくとも5つ確認しています。 更に得た知識では天馬とは違う種も複数あり、彼らの持つ武器は遠く離れた相手を倒すのを主眼に置いています。 つまり、近づく前に我が方の兵士達は一方的に倒されるでしょう。


 それに彼らの拠点としてる元廃村を制圧する前に我が方の頭上を鋼鉄の天馬で駆け王都を直に攻撃されれば逃げる間も無く王城を落とされましょう。 自衛隊なる軍は遠く離れた相手とも情報のやり取りが出来る術も有しております。 幾度と無くその光景を見ましたが恐ろしく思いました。


 エリアルノーラ王女殿下であれば情報伝達の速度が戦局に置ける重要性を理解して頂けると思いますが、彼らのそれはほぼ時間差が無いモノと思われます。 最後に私が会って話した指揮官達は皆人格者であると判断します。 あの手の指揮官はいざと言う時の決断力は侮れません」


「…鋼鉄の天馬、それも複数いて種類も複数。 情報伝達速度は比べるのも烏滸がましい程の差がある。 更には指揮官も優秀、ね。 話だけ聞けば笑い飛ばしかねないわ。 確かにそんな相手と戦となったら3日も持てば良い方ね、理解したわ。


 ねぇアンドリュー、貴方ならどう対応するのか聞かせて貰えるかしら」


「彼らはこの世界に来る切っ掛けとなった【裂け目】を閉じる事を最終目標に掲げています。 ならばそれに友好的に協力しつつも彼らの持つ知識、技術を可能な限り我が物として今後の生かす、でしょうか」


「それは可能なの?」


「正直難しいかと。 私達の世界とは余にも違い過ぎます」


「そう… 兎に角今後はジエイタイ、だったかしら? 彼ら彼女らとは友好路線で行くしか無さそうね。 アンドルフ、ファランド、今後は貴方方窓口になると思いなさい。 そしてバカな輩が出ない様にしっかりと部下の手綱を握りなさい。 事は王国の未来を左右します」


「「はっ」」


「今日はこれまでにしましょう」


 王女殿下の合図で話し合いは終わりそれぞれが色々な思いを胸に談話室から出て行った。

誤字脱字がありましたらお気軽にご連絡ください。


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