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 第15話 検査

 辺境伯が指示を出し少ししてからメイドさん達がカートを押して部屋に入って来た。 入って来たメイドさんはサンドウィッチみたいな物が盛られた大皿を私達が囲む机に置いたのちティーポットから香りの良いお茶をカップに注ぎ始めた。


 私はその匂いを嗅いで「おや?」と思ったが何も言わずお茶が配膳されるまで待った。


「む? 今日のお茶はいつもより良い匂いだな」


「はい、お客様から頂いた茶葉になります。 非常に分かりやすい説明書も頂きましたので早速使わせて頂いております。 因みに茶器もお土産で頂いた物を使用しております」


「おぉ、そうかそうか」


 辺境伯がお茶を注いでいたメイドさんに声を掛けると返って来たのは予想した通りの答えだった。 それを聞いた辺境伯は嬉しそうに何度も頷いていた。


「お待たせしました」


 全てのカップに注ぎ終え、メイドさんは私達の前に配膳し終わるとカートを引き部屋の隅へと移動した。


「では、頂こう」


「いただきます」


 辺境伯からお許しが出たので私達全員は早速出されたカップを手に取りお茶を飲んだ。


「「「「「「「「……………………」」」」」」」


 全員が出されたお茶を飲んだが誰も言葉を発しなかった。 だが、その表情は誰もが笑みを浮かべて居た。


「先日頂いた物とは違う物だがこれもとても美味い。 これは本当に良い物を頂いた。 レーコ嬢、将軍補佐官殿に改めてお礼を伝えて貰えるようお願いする」


「えぇ、畏まりました」


 それから私達は他愛も無い話をしながら、とはいかず、辺境伯様から私達の国について色々聞かれた。 そこで私は事前に話し合い、話しても良いとした範囲で日本の事を話した。


 この世界同様に四季があり、自然が豊かである事。 古より伝わる古き伝統、技法を大切にしつつも新しき物も拒否せず受け入れる事。 また他国から齎される技術や知識すら広く受け入れる懐が大きい事。 私達の世界から見ても日本と言う国は食文化が進んでる事等を聞かれた範囲で答えて行った。


 話の中で辺境伯が興味を持ったのが私達の世界の食文化だった。 正確に言えば調理法や各種調味料、料理の種類の豊富さだった。 辺境伯曰く、この世界での調理法は主に焼くか煮るだけで、調味料に関しては塩、砂糖、数種類の香草(ハーブ系と思われる)だけらしく正直な話代り映えが無くマンネリ化してるらしい。


「ファランド、お主はレーコ嬢達の世界の食事を食べたらしいが実際食べて見てどうであった?」


「はい、父上。 一言で言うなら最上級の食事です。 素材の味を生かしつつ、味に深みとコクがあり、それでいて調和が取れてる大変素晴らしい物でした。 因みに私は肉じゃがが大変気に入りました」


「そ、そうか。 アンドリュー殿、マルコスニア殿はどうでありましたか?」


「私の感想ですが、レーコ嬢達の普段の食事ですら陛下にお出ししてもご満足して頂ける、と確信しております。 私的には肉じゃがも大変美味と思いますが、私はやはりカレーなる料理が気に入りました。 あれは実に素晴らしい味でした。 何種類ものスパイスが複雑に絡み合い喧嘩する事無く見事に調和した料理でした」


「お…私もお2人と同じくレーコ嬢達の世界の食事はすべてにおいて私達の世界の食事を凌駕しておりました。 因みに私は酢豚、と言う料理が気に入りまして。 叶うならもう一度食べたいですね」


「其処まで、なのか?」


「「「其処までです」」」


 辺境伯の問い掛けに3人は大きく頷きながらハモリながら答えた。 その様子を見た辺境伯は若干頬を引き攣らせながら頷いた。


「う、うむ。 そうであるか。 所で話は変わるのだが、レーコ嬢達の世界には魔法が無いとの事だったがもし良かったら魔力適性検査を受けて見ないかね?」


「魔力適性検査、ですか?」


「そうだ。 本来であれば12歳になると受けるモノだがレーコ嬢達は異世界の出。 しかもこの世界に来てから日も浅いと言う。 それに検査に必要な機材は我がシュードルフ家にもあるしの、どうだね?」


 私は辺境伯からの申し出を受けて悩んだ。 確かに魔法には小さい頃に憧れた記憶があった。 だけど成長して魔法は存在しない事を理解すると魔法への憧れは自然と消えて行った。 


 だが、この世界はその魔法が現実に存在する世界。 小さい頃に抱いた憧れたモノとは違うが確かに魔法と言う力が存在する。 それ故に私は辺境伯からの申し出を即座に断る事が出来なかった。


「しかしそれは辺境伯の手を煩わせてしまうのでは?」


「はっはっはっ そんな事はありません、検査に使う機材は1人で持ち運びが可能な大きさですし準備、と言っても保管庫から持ち出してくるだけですかなら。 大した手間ではありません。 それに検査、と言っても機材に手を当てるだけですので簡単に終わるのですよ」


「そうなのですか?」


「はい、そうでもしなければ1日で検査が終わりません。 この検査で反応があれば後日改めてより詳しく調べるのです。 それで適性が有り、と判断された者が王都の魔法士学園へと入学出来るのです」


「成程、そう言う仕組みなのですね。 そうですね、仲間と相談しても?」


「ええ、構いませんよ。 そうですな、しばし我々は席を外しましょう。 レーコ嬢達だけで話されるのが宜しいでしょう。 ファランド、アンドリュー殿達もそれで構いませんかな」


「ええ、大丈夫です」


「分かりました、父上」


「お…私も大丈夫です」


「うむ。 ではレーコ嬢、我々はしばし席を外します。 話が纏まりましたらそちらにあるベルを鳴らして下さい」


「あ、はい。 分かりました」


 私が返事をすると辺境伯達は席を立ち、部屋に控えてたメイドさんを連れて部屋から出て行った。 部屋に取り残された形となった私達、と言うより私以外の3人は状況が今一読み込めて無いのか私を見つめて来た。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「秋山陸曹長、状況説明を求めます」


 3人からの視線に晒され私は落ち着こうとした所で柳田から今の状況に対する説明を求められ、ティーカップに伸ばしかけた手を引っ込めた。


「簡単よ、辺境伯から魔力適性検査を受けて見ないか、と誘われた。 私の一存で決めて良いのか判断出来ず仲間と相談する時間を貰ったのが今のこの状況ね」


「そうでしたか」


「それは… もしかして自分達にも魔力が?」


「それは分からないわ。 その検査を受けて見ない事にはね」


「それもそうですね」


 私の説明を聞いた柳田は真剣な顔で悩み始め、鈴原は少し訝しげに訊ねて来たが私の返答に頷いてから柳田同様悩み始めた。


「因みに検査はどの様な検査なのでしょうか?」


「あ~、ごめん。 検査内容は聞いて無いけど話の流れからして簡単に出来るみたいよ」


「そうですか。 なら俺は受けて見るのも良いと思います。 元々俺達の世界には魔法なんてモノはありませんから恐らく適正無しと予想出来ます」


「確かに高山の言う事も一理ありますが、もし検査で適正有りと出た場合は周囲への影響力その他が問題になりませんか?」


「そうね、柳田の言う事も理解出来るわね。 もし適正有り、と出たら更に詳しく調べ正式に適正有りと断定された者が王都の魔法士学園に入学するらしいけど」


「と、言う事は進められた検査は魔力があるかもしれない者を判別するだけで正確な検査は別にあると?」


「恐らくその解釈で間違い無いでしょう。 だけどそれでもこの検査で反応があったら各方面が騒がしくなるのが容易に想像出来てしまってね。 ただでさえ現状私を取り巻く環境が環境だから」


「「「あぁ」」」


 私が項垂れながら心境を零すと3人から同情の視線を向けられた。


「確か異例中の異例で2階級昇進が決まったんですよね?」


「ええ、そうよ。 上で相当揉めたらしいけど約1世紀ぶりの2階級昇進が決まったわよ」


「それは何と言うか…」


「えっと、おめでとうございます?」


「き、給料は上がるんじゃないですかね?」


「取り合えず話が脱線し始めてるから元に戻すけど、あんた達はどうしたい? 検査、受けたい?」


「ん~、俺個人としては受けて見たいですね」


「高山は賛成ね」


「俺も受けて見たいとは思うんですが、もし反応があったらと思うとちょっと…」


「鈴原は賛成よりの反対って事?」


「そう… ですね」


「柳田は?」


「私は、受けても良いかと。 もし反応があれば未知の力である魔法の事もより詳しく分かるかも知れません。 そう言う秋山陸曹長はどうなのですか?」


「柳田は賛成かぁ。 私個人的な意見だと受けて見たいって言うのが本音よ。 でも、もし反応があった後の事がねぇ」


「秋山陸曹長の場合は今の立場が立場ですしね」


「そうなのよね。 ん~… よし! 女は度胸よ、検査受けるわよ、良いわね?」


「「「了解」」」


 私は思い切りよく決断して3人に声を掛けてから席から立ち上がり辺境伯に言われたベルを手に取るとそのベルを鳴らした。

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