第10話 辺境伯が?
挟間陸将補は真田准陸尉から何かしらの報告を受け険しい顔をして私達の方を見つめて来た。 報告を終えた真田准陸尉は部屋から退出せず、挟間陸将補の斜め後ろに控えた。
「アンドリュー殿、少々厄介な事態になったやも知れん」
挟間陸将補は険しい顔のまま切り出した。
「それはどう言う事でしょうか?」
「正確な人数は不明だが武装した集団が此方に向かって来てる、と報告を受けた。 アンドリュー殿は之をどう解釈するかね?」
挟間陸将補から問われたアンドリュー殿は右手を顎に当て挟間陸将補から伝えられた内容を考えてる様だったが直ぐに結論が出たのか顔を上げた。
「恐らく辺境伯が率いるシュバッツェの守備隊の可能性が高いでしょう。 昨夜のランデスボアとの戦闘音がシュバッツェにまで届いた可能性があります。 なのでその報告を受けた辺境伯が兵を率いて調査に来たのでしょう」
「シュバッツェ? あぁ、近くの城郭都市の事か」
「はい」
「アンドリュー殿、穏便に済ませられると思いますか?」
「私とファランドが対応に当たれば或いは」
「済まないが、頼めるかね?」
「構いません。 むしろ私からお願いしようと思っておりました」
「それではよろしくお願いします」
挟間陸将補は椅子から立ち上がるとアンドリュー殿に頭を軽く下げた。
「頭を上げて下さい、将軍補佐官殿。 最善を尽くします。 それでですが、直ぐファランドを呼んで欲しいのと秋山殿、それと天川殿も出来れば一緒に来て頂けると助かります」
「真田、直ぐにファランド殿と言う方をこちらに丁重にお連れしてくれ。 それとアンドリュー殿、秋山君は何となく分かるが天川君もかね」
「はい、私が勘違いして居なければ天川殿はこの砦の責任者です。 ならば一緒に来て頂いた方が良いと判断します。 将軍補佐官殿は向かって来る辺境伯と執り成しが出来てからお会いした方が宜しいかと」
「確かにその通りだ。 では、それでお願いする」
「分かりました。 秋山殿も宜しく頼みます」
「はい、私も出来る限りの事をします」
「それでは最初に向かって来てる集団の方角の門を開ける様に指示をお願いします。 これで門を開ける事で抵抗する意思は無く、話し合いをする用意があると相手に伝えれます」
「分かった。 真田、直ぐに門の警備に当たってる隊員に指示を。 それとこれは万が一に備えてだが非戦闘員以外小銃を所持し即時戦闘用意を発令、有事に備えよ。 それと猪に破られた塀の内側に持って来た機関銃を簡易設置、隊員を多めに配置しておくんだ」
「了解」
真田准陸尉は挟間陸将補からの指示を無線を通し即座に飛ばした。 指示を出し終わると家の外が俄かに騒がしくなった。 それから待つ事しばし、警務科の隊員に案内されてファランド殿と何故かマルコスニア殿も一緒にやって来た。
「マルコスニア、お前まで来たのか」
「あ~、言葉が通じなかったので。 ただ身振りで呼んでるってことだけは分かったので取り敢えず2人でそこの3人について来た次第です」
「あぁ、そう言う事か」
「それよりアンドリュー殿、この騒ぎは一体?」
「む、すまない。 恐らくだが昨夜のランデスボアとの戦闘音がシュバッツェまで響いたのか戦闘集団が此方に向かって来てるらしい。 それに対応する為にこの拠点の兵士が万が一に備えようとしてる」
「と、言う事は父上が?」
「其処までは分からないが、恐らく。 それで此方の将軍補佐官殿所殿からもし辺境伯の率いる軍勢なら我々が対応して穏便に収めて欲しい、と依頼された」
「成程そう言う事か。 ならマルコスニアも居た方が何かと良いだろう。 それでどう動く?」
「取り合えずだが、門を開くように頼んでそれは既に実行されてるはずだ」
「成程、まぁそれが良いだろう」
「将軍補佐官殿、俺達と秋山殿、天川殿は門に向かいたいのだが良いだろうか」
「ええ、よろしくお願いします。 秋山君と天川君は護身用に変装用防具を装着する様に、それと拳銃の所持を許す。 直ぐに支度を」
「「はっ‼」」
「アンドリュー殿、2人の準備が出来るまで少しだけ待ってくれ」
「分かりました」
私と天川1等陸尉は地下司令部に行き需品科隊員から無線と革製鎧と拳銃を受け取り素早く装備すると会議室に戻った。
「お待たせしました。 それでは門へ向かいましょう」
「分かった」
挟間陸将補にも一礼してから私達5人は門へと向かった。 門へと着くと拠点から凡そ800m程離れた位置で戦闘集団は留まっており明らかにこの元廃村を警戒してるのが分かった。
門を警備してる隊員を見ると門の左右の足場には弓矢を持った隊員が5人づつ警戒しており、少し離れた位置に小銃を持って警戒してる隊員も居るのが確認出来た。
が、警備に当たってる隊員の顔は遠目で見ても分かるほど緊張してるのが手に取る様に分かった。
「ファランド殿、あの集団は間違い無く貴方の御父上、辺境伯様が率いる軍で間違いありませんか?」
「ああ、間違いない。 集団が掲げてる所属旗は家の家紋であるし、大将旗もある。 間違い無く父上もいらっしゃるだろう」
「分かりました」
ファランド殿から戦闘集団が辺境伯軍であるとお墨付きを得たので私は無線を通し警戒に当たる隊員に即座に戦闘になる可能性が低い事を伝えた。 更にこれよりファランド殿達と私達が話し合いに行く事を伝えた。
「アンドリュー殿、ファランド殿。 之から辺境伯軍と話し合いを行いたいと思うのですがこのまま門を出て近づいて良いのですか?」
「本当なら黄色の布を掲げたい所だがアンドリュー殿から聞いた貴方方の立場上それは良くないだろう。 で、あるならば…」
「青い布だな。 秋山殿、青い大きめの布はあるだろうか?」
「青い布ですか?」
「そうだ、青い布を掲げる理由は…」
「話し合いたい、との意思表示ですね」
「その通りだ」
「少しお待ちを」
私は無線を通し青い布があるか確認すると需品科からあると返事があり、直ぐに用意して貰えるように頼んだ。 それから10分後青い布を棒に結んだ物が私達の所に届けられた。
「良し、之で取り合えずは良いだろう。 秋山殿、天川殿は私達の後ろに付いて来て下さい」
「「了解」」
アンドリュー殿を先頭に左後ろにファランド殿が続き、その後ろに私と天川1等陸尉が続いた。 マルコスニア殿は足の怪我が開くといけないので門の所で待機となっている。
アンドリュー殿は門を出て大体50m程進んだ所で止まった。 其処で暫く待つと向こうの集団から馬? によく似た動物に乗った騎兵が10名近づいて来た。 集団はアンドリュー殿から50m程の距離まで近づいて来て止まった。
「我々はシュードルフ辺境伯様率いる領都シュバッツェ守備隊の者である! 貴様らの所属と目的を確認したい!」
「私はクリフトニア王国第二騎士団所属、副団長のアンドリュー・クリトバニアだ。 隣に居るのはシュードルフ辺境伯が次男、ファランド殿である。 後ろの2人は背後の村の関係者だ‼ シュードルフ辺境伯にお目通り願いたい‼」
アンドリュー殿が誰何に返答すると向こうの10人から驚いた様な様子が見て取れ、直ぐに一人が後ろの本隊へ戻って行った。
本隊に伝令が戻ってからまた暫くたって追加で20人程が馬らしき動物に乗って近づいて来た先に近づいた集団に合流すると何やら話し合った後更に私達に近づいて来た。 30人程の集団は10m程の位置まで近づいてから止まった。
「ファランド! 居るなら我らに近づいて顔をはっきり見せろ!」
「その声は兄上か!? 私です! ファランドです。 今からそちらに行きます」
集団の中からの問い掛けにアンドリュー殿が答えるより先にファランド殿が答えて静止する前に集団に向かって行った。
「アンドリュー殿、ちょっと不味い気がするのですが」
「私もです」
「其処で止まれ!」
声を出したのはファランド殿の兄と思しき人で距離が4・5mの所で止まる様に言った。
「ファランド、貴様は先日王都の騎士団と共にアナイアの森に住む民の集落へ案内役として同行した筈だ! それが何故この様な場所に居る!? それと廃村になってたはずのあの村と怪しげな連中は何だ‼」
「森の民の集落へ向かう途中にランデスボアの群れと遭遇し部隊は壊滅しました! 私とアンドリュー殿と数名が森から何とか抜け出せあの村で治療を受けました! あの村の方々は信用出来る方々です。 それを父上にお伝えしたい、兄上、父上を呼んで下さい!」
「それは出来ん‼ 正体も分からぬ者共を父上に近づける訳にはいかん」
「何故ですか? 王都の騎士の方も信用された人達ですよ!? それにあの方達は王命にも関わって来るかも知れぬのです、何卒父上に取次ぎを‼」
「ならば村の権利を父上に献上する様村の責任者伝えよ! さすれば父上に取次ぎしてやろう」
「兄上何を言ってるんですか。 あの村は12年も廃村のままだった! なら当にあの廃村の権利はシュードルフ辺境伯家から失われています! 元廃村とは言えそれを献上せよ、とはどう言う事ですか!?」
「だからだろうが‼ 廃村を再整備出来る技術を持つ集団を次期辺境伯としておめおめと見過ごせるモノか! 次期辺境伯として抱え込むとして何が悪い‼」
「一方的に寄越せ、では道理が通りませぬ! それに王国法でもその様な事は禁止されてる筈です!」
「えぇい、五月蠅い‼ 貴様はどちらの味方だ!? シュードルフ辺境伯家の一員として答えよ‼」
「話を誤魔化そうとしないで下さい、兄上‼ あの村は王命にも関わるかも知れぬのです! 直ちに父上を呼んで下さい‼」
ファランド殿とその兄との会話が怪しくなって来てる中、私は無線でさらに向こうの集団から5人が馬らしき動物に乗って近づいて来てるのを聞いて、アンドリュー殿に伝えた。
アンドリュー殿曰く、その近づいて来てる中に辺境伯が居るかも知れないとの事だったので私達はファランド殿と30人程の集団に警戒する事にした。
すると天川1等陸尉が無線でファランド殿の兄と思しき人物とその周りの数人を何時でも狙撃できるように、と指示を出した。 私は驚いて天川1等陸尉を見つめると「念のためにだ」と返された。 天川1等陸尉はそれだけ言うと言い合いになって来てる2人に視線を戻した。 私もそれに釣られ2人に注意を向けた。
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