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終わりの火  作者: 縁花ノヂ
3/3

鉄の時代 鳴動

 魔女の足取りは軽かった。その細身の身体を見るに、この森の中を一人で歩いてきたとは考えにくかったので誰か待ち伏せしている仲間がいるのかと警戒していたが、どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。

 目覚めた場所からだいぶ離れたところまで来たが、依然として森の中を彷徨ってる最中で、これは「彷徨っている」というより「さ迷ってる」といった感じだ。何せ景色が変わらないもので方向感覚が狂う。

 「目的地まではどのくらいなんですか?」

 前を歩く魔女に声を掛けると「もう少しだよ」と返ってきた。

 俺は迷いなく歩みを進める魔女から周りの景色へと視線を巡らす。先程、周りの景色に変わりはないといったが、一点だけ違うところがあった。

 「腐ってるな……」

 それは俺の目覚めた場所に比べて、周りの自然が死んでいるという点だ。

 空気は明らかに悪くなっていた。呼吸をするだけで饐えた臭いが鼻腔を刺激し、正直呼吸をするのも躊躇われる。木は腐り、下草は僅かに生えているだけで土の地面が晒されていて、その地面は干からびてひび割れており、何かに汚染されたように黒く変色していた。

 明らかに俺がいた所より環境が悪い。それに目覚めた時から感じている違和感も歩みを進めるごとに強くなってきていた。俺は臭いを我慢して一度深呼吸すると、もう一度魔女に声を掛けた。

 「魔女さん」

 「目的地はもう少し先ね」

 「いや、そうじゃなくてですね……ちょっと休みませんか?」

 そう提案すると、魔女は足を止めて振り返る。

 「疲れたの?」

 「えぇ、まぁ。どうですか?」

 「分かったわ。それじゃあ少し休みましょうか」

 そう言って魔女は近くにあった朽ちて倒れた木に腰をかけ、その隣を手で軽く叩いた。どうやら、隣に座れという合図らしい。

 俺は警戒を解かずに自然な身のこなしで魔女の隣へと座った。

 「意外と体力はないのね」

 隣に腰を掛けて早々に魔女が言った。どちらかといえば体力よりも精神的に休みたいという理由なのだが、まぁ細かいことはいいだろう。

 「まだ目覚めたばかりで身体が本調子じゃないんだ」

 「本調子のあなたはどのくらい動けるのかしら?」

 「動けるってなんですか。基本的な身体能力は他と大差ないと思いますよ」

 その言葉を聞いた魔女は「なるほどね」と意味深な呟きを残し、それきり会話が途絶えた。

 森が死ねばそこで暮らす生き物も当然いなくなる。およそ生物らしい生活音一つ聞こえてこない中で、魔女の息遣いだけが隣から流れてくる。魔女の鼓動を感じながら、俺は考えを進めた。


 少しの間で状況が凄まじい勢いで進んでいるのを感じる。隣の魔女のこともそうだが、それ以前に何故この状況に自分が置かれているのか、つまり、何故記憶が欠落した状態であそこに寝ていたのか、それに対する答えを見つけなければいけない。そしておそらく鍵を握るのは隣にいるこの魔女だ。

 俺の身の回りの状況について何か知っているのは出会った時の会話から明白だろう。後は具体的に何を知っているのかを聞き出せばいいだけなのだが、そこは慎重にならなければいけない。

 おそらく場所を変えてるところから見るに、この魔女が知っている情報量は一言二言で済むような話ではないのだろう。しかし、これだけ無の時間があって、話の一つもしないのは不自然というものだ。この不自然さが解消されるまではこの魔女を信用してはいけない。警戒を緩めることなく事を進めなければいけない。

 変化は博打だ。ことその変化で自分の何かが変わると分かりきっている状況においてなら尚更だろう。俺が今恐れているのはこの魔女が味方でなかった場合に、一方的に情報を握られてるのは状況的に芳しくないだろう、ということだ。

 今はまだ互いに接触以外の何の行動も起こしていない。ただ、そこに情報を聞き出すという変化が加わった時の、この魔女が次に取る行動を正確に予測できない今、動くのは果たして得策といえるのか。

 「……」

 考えることは多い。そして、俺には今何もない。だからこそ、慎重にやらなければいけない。困惑は捨て置いて、現実を受け入れ、現状を把握する。何もないからこそ己の身を守れる唯一のものは己の頭だけだ。間違っても……

 「今のは……」

 そう吐かれた魔女の言葉に引き寄せられるように思考の波から顔を出すと、魔女は立ち上がって辺りを見回していた。

 「どうしたんですか?」

 立ち上がり、魔女に倣って辺りを見回すが特に何もなかった。死んだ森が広がるだけだ。

 「少し、先を急ごうか。多分ここも時期に呑まれる」

 「呑まれる?」

 その呟きは魔女には届かず、気づけば魔女は歩みを再開させていた。

 「いきなりどうしたんですか?」

 そういって後を追おうとした次の瞬間。

 「……っ!」

 俺は飛び退き一瞬で魔女の横に並ぶとそのまま流れるように、魔女を抱えた。

 「え?」

 そして、何が起きているのか理解できていない魔女を抱え、そのまま全力疾走を開始した。

 「ちょっと、どうしたのよ? いきなり走り出して」

 魔女が困惑の混じった声音でそう聞いてくる。しかし、俺にはそれに答える余裕がなかった。

 「魔女! 目的地までの案内を頼む!」

 俺はなりふり構わず叫んだ。

 「そんなこといわれても、私後ろ向いてるから無理よ? それより、何で……」

 途中で魔女の言葉は途切れた。おそらく背後を見やったのだろう。

 俺はこれまでの進行方向に向かって走りながら、やっと魔女もことの重大さに気づいたと悟った。

 「……そんな」

 「道案内を」

 抱えている魔女を背中に回しておんぶの形をとりながら、努めて冷静にいった。

 「分かったわ」

 そして魔女も動揺を抑えるように重々しくそう言葉を吐いた。

 「たくっ……何なんだあれは……!」

 俺は森の障害物をものともせず、走り続ける。背後からはまだ禍々しい気配が追ってきているのが見ずとも分かった。

 「……油断したわ」

 背中では魔女が呻くようにそう呟いた。恐らくは苦渋に顔が歪んでいるのだろう。

 

 俺たちが何から逃げているのか?

 それは逃げてる俺にも分からない。ただ、あえてそれを形容するなら「空気の波」といったところか。

 小休止を挟んだあの場所を動こうとした時、ずっと感じていたあの「違和感」がいきなり濃く辺りに充満し、俺たちを飲み込もうとした。本能的に魔女を抱えて逃げ出したが、どうやらそれは正解だったらしい。「空気の波」とはいったが、あれに呑まれるわけにはいかない。あんな気持ちが悪いくらいにこの世に馴染んでいない、この世のものとは思えないほど澱んでいる波に飲み込まれるわけにはいかない。

 何故、そう思ったのか自分でも分からない。でも、身体があれを拒絶した。そして後から付いてきた感覚も全力であれに警鐘を鳴らしている。

 「……何なんだよ! さっきから」

 分からないことが多すぎる。そろそろ現状の一つでも把握しないと、頭がどうにかなりそうだ。

 「魔女さん! あれは何なんですか!?」

 慎重になっている場合ではない。先の事を考えるあまり、今を疎かにしては本末転倒だ。だから、俺はなりふり構わず魔女に叫んだ。

 「あの波については後でちゃんと説明するわ。それより、森の上に出ることはできる?」

 魔女は冷静だった。それは俺の知らない事を知っているからなのかどうかは俺の知るところではないが、動揺している時に冷静な声を掛けられると自ずと心は落ち着いてくるものだ。

 「まさか……迷ったんですか?」

 「あなたが出鱈目に走るからよ……」

 「なるほど、なら俺の所為ですね」

 言いながら俺は前方に跳躍する。そして何本かの太枝に脚を掛け、一息で跳躍を重ねると、俺の身体は森から抜け出した。

 「……すごい、流石は……」

 「感心してるところ悪いんですけど早くしてください。飛んでるんじゃなくて、これただの跳躍ですから」

 そういう身体は既に落下体制を取っており、魔女は素早く辺りを見回した。

 「地に着いたら北西へ」

 「了解ですっ……」

 そして、俺は僅かに顔を逸らし、後ろにいるはずの波を見た。

 「……」

 その想像以上の光景に思わず目が細められた。

 波は森を包むように漂っていた。あと少しでも避難が遅れていたらあれの中にいたのかと思うと、背筋に冷たいものが走る。前方に跳躍しているので、追い付かれる心配はないが落ちた後が大変だろうことは容易に予想できた。

 「……っ! 少し力みます。振り落とされないように!」

 「分かったわ」

 身体が温まってきた俺は着地と同時に在らん限りの力で地を踏みしめ、その身体を前に押し出した。

 「……ん」

 魔女は突然の加速に備えてその身体をぴたりと俺の身体に密着させた。

 そして次の瞬間に

 俺は風になった。

 周りの景色が斜線に見えるほどの速さを持って、北西へと脚を進める。

 魔女はまともに目を開くことも出来ない。 

 吹きつける風がまるで針のように身体を刺す。風で痛いと感じたのは初めてだと魔女は思った。

 「……出口だ!」

 徐々に強くなる日の光を感じるのと、開けた場所出るのは同時だった。

 かくして、いっそ呆気ないと思われるほどにあっさりと深緑の逃走劇は終わりを迎えたのだった。


 「はぁ……はぁ……」

 俺は肩で息をしていた。走ってる時は感じなかったが、止まってからの疲労感がすごい。

 「疲れたな……」

 「お疲れ様。それと庇いながら走ってくれてありがとうね。お陰で助かったみたい」

 振り返ると、魔女は森の中を凝視していた。確かにもうあの違和感は感じられず、それと同時に波が迫ってくる気配も感じられなかった。

 「……ん?」

 とりあえず危機は去ったと安堵を覚えていると、俺は胸に手を当てた。

 「熱い……」

 身体が熱を放ってるのは当たり前だ。何せ全力で走った後なのだから。

 でも、胸のこれはただの熱ではない気がした。まるで篝火の火が小さく静かに燃えているような、そんな錯覚を覚えた。

 「とりあえず、私の家に行きましょう。そこなら安全に話せる」

 森から視線を離した魔女が俺の横に並ぶ。

 「……どうかしたのかしら? 不思議そうな顔をしてるけど」

 そして、めざとく表情の変化に気づいた魔女は横から俺の顔を覗き込み、そう聞いてくる。

 「いや、何でもありません……先を急ぎましょう」

 「それもそうね。話しはそれからにしましょう」

 正直、今は話すより休む事を優先させたい気持ちだ。

 しかし、これでやっと話が進む。この状況をやっと少しは理解できる。そう思うと、自然と脚も軽くなった。

 そして、魔女の後ろをついていく中で俺は呟いた。

 「間違っても……俺は死ねない」

 それが俺の全てだ。今までもこれからも、俺は死ぬことは許されない。何故そう思うのか分からない。ただ臆病な俺の人間性がでているのか、はたまた、誰かと交わした約束を守ろうとしているのか。

 ……まぁ、いい。危機は去った。とりあえずは安心して大丈夫だろう。しばらく行動を共にして分かったが、この魔女と名乗った女性は少なくとも敵ではないようだし、これからゆっくりと体制を整えていけばいい。

 俺はこれからのことに想いを馳せ、決意を胸にその一歩を踏み出した。



————————————————————————


 虚しいほどに荒れ果てた地に二人の人影が影を落とす。

 そして、宵闇が空を覆うと二人の影は地を去った。


 ゆっくりと空が闇に侵食される中、「欠片は揃った」と魔女は静かにほくそ笑む。そして、静かに天を見上げて心の中で囁いた。


 「新たな時代が、始まる」



 





 

 

 





  誰もいない、真夜中の道で、大きな声で、歌を歌いましょう。

 そして、残響する自分の声に耳を澄まし、その声に反吐をぶちまけましょう。

 きっと、気持ちがいいことでしょう!

 大きな声でストレス発散! そして反吐と一緒に体の悪いもの全部を空気に溶かすこともできる!

 

 ただ一点だけ欠点が。それは近所迷惑になってしまうということです。

 はてさて困りました。ご近所に迷惑はかけたくない。けれど、ストレス発散はしたい……

 ジレンマですね♪ いやぁ、困った☆困った☆

 

 皆さんはどうすればいいと思いますか? このジレンマを解消するために、皆さんの頭を貸してくださいよ?

 

 あ、ここに快く頭を貸してくれる素晴らしい心の持ち主が来てくれました! ありがとうございます! 私の為に頭を差し出してくれるなんて!

 

 では早速頭をいただきましょ……えっ? このナイフ? やだなぁ、流石に素手でやるわけにはいかないでしょう! もう、冗談はやめてく♪だ♪さ♪い♪

 あぁ、こらこら暴れないの! えいっ!


……あぁあ、なんだかんだでこれが一番ストレス発散になるな……



 というような気持ちで毎日を過ごしています。

 どなたか共感できる方はいますか? 

 もしいるとしたら冗談はやめてください。

 

 ……サイコパスは今時流行りませんよ





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