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終わりの火  作者: 縁花ノヂ
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鉄の時代 始まりの邂逅

雨の降る日は外に出られない。なぜなら私は傘を持っていないから。

 だから、その日は一日中家にいた。椅子に座り時間を刻む時計をじっと見つめる。

 早朝の三時に目が覚めてから午前の十時になるまでずっと時計を見つめていたら、ふと私は思った。

 ケーキが食べたい。

 なので、私はケーキを買いに行こうと、外に出る支度をしてから、玄関の扉を開けた。

 雨が降っていた。

 私はそれを思い出し、そっととびらをしめてどうしたものかと考えた。

 私は台所に置いてあるカゴの中を漁った。ケーキがないなら作ろうと思ったからだ。漁った結果出てきたのは傷んだきゅうりと腐ったバナナ。残念ながら、これではケーキを作れない。仕方がないのでケーキを作る材料を買いに行こうと、外に出る支度をしてから玄関の扉を開けた。

 雨が降っていた。

 そのことを思い出した私はそっと扉を閉めて考えた。

 どうやら、ケーキを食べるのは諦めた方がいいらしい。私には手段がない。


 そして、散々悩んだ結果


 私は腐ったバナナを頬張った。


……という気持ちで日々過ごしてます。共感できる方はいらっしゃるでしょうか?

もし、いるとしたら冗談はやめてください。

だって共感なんかされたら……


……適当に書いたこっちが困るじゃないですか…

 冷たい感触が背中を通じて身体全体に伝わってくる。徐々に感覚が戻ってくるのを感じながら、俺はゆっくりと薄く目を開いた。僅かに開いた目尻から飛び込んできた光がやけに眩しく、俺は反射的に目を強く瞑る。

 次には、土の湿り気を帯びた匂いとそれを運ぶ風が木々を揺らし、鳥が羽ばたく音が聞こえた。再び目を開いていくと、そこで初めて外界の景色が瞳に飛び込んでくる。

 ただ眩しいだけだった光に緑が加わり、風に揺れる木々の葉がぼんやりと瞳に写った。そのぼんやりとした景色も少しすれば鮮明なものに変わっていき、その場で軽く手を開いて握った俺はゆっくりと半身を起こしていった。

 思った通り、俺は森の中にいた。

 周りを見渡せば木々が生い茂り、先を見通そうとしても一向に森が続いてるらしかった。冷たい風が肌を直に刺し、遅まきながら自分が全裸で寝転がっていたのに気づく。

 上を見上げれば木々の隙間から晴れ間が覗いているのが見えたが、僅かな木漏れ日に照らされる森の中は仄かに薄暗く、何故自分がこんな場所にいるのか不思議に思った。

 「いやこれは……致命的か?」

 俺は周りを見回しながらそう呟いた。

 ここに来るまでの記憶が無い。

 何故自分は森にいるのか? 何故全裸で意識を失っていたのか? 気になることはまだ沢山あるが……だめだ、さっぱり分からん。

 「それになんなんだ、この悪寒は」

これは先程から感じてる違和感。正直、記憶が無いことよりも気になるほど、気持ちの悪い感覚が肌を刺してきていた。この世界に馴染んでいないような、明らかに異常なものの予感。以前何処かで感じたことがあるような、そんな空気。

 俺はこれを知っている? だとしたら、何処でそれを知ったんだ?

 「空気が悪い? いや、これは……」

 胡座をかいて腕を組みながら、うんうんと唸ってみるが頭が上手く回らない。

そんなこんなで、違和感の正体を掴めずにいると、誰かが土を踏みしめる足音のようなものが風に乗って耳に届いてきた。

 その瞬間

 「……」

俺は枝の上にいた。

 足音一つ立てずに一瞬で頭上の木の枝の上に跳躍した俺は、反射的に行われた自分の行動に自分で驚いた。が、いつまでも驚いているわけにはいかない。もう一度耳を澄まして音の正体を探る。

 「人だな。数は一つか」

息を殺し、敵の動向に神経を集中させる。

 この人間が敵にしろそうでないにしろ、用心するに越したことはない。足音が迷わずにこちら側に近づいてきているのを見れば、相手には何かこちらにくる目的があるのかもしれない。それがどんな用なのかはまるで分からないが、なんにせよ、こんな深緑の森の奥深くに一人で来てるんだ。それ相応の理由を想像してもいいだろう。

 「……」

足音に混じって時折聞こえる草木を掻き分ける音は、何かを探しているからなのか、さっきから妙に騒々しい雰囲気になってきていた。

 「……」

それからしばらくすると、草木をかき分けて一人の女性が俺の目と鼻の先に現れた。

 まさか女の人だとは思ってなかったので少々驚いたが、すぐに思考を切り替えその女を観察する。

 女は真っ黒な衣装に身を包んでいた。森の中だというのに、他に身に付けているのは首元や長細い指につけてある小物の類と己の身体を隠すように羽織っている黒いローブだけで、ますます俺の中の不信感が募っていく。

 女の表情は、生憎と被られているつばの広い帽子で見えなかったが、腰まで伸びた艶やかな黒い髪の毛や服の上からでも分かるそのバランス良い身体つきを見るに残念なものではなさそうだ。

 「……」

呼吸を最小限に抑えて空気になることに徹していた俺は、現れてからじっとその場に留まり続けている女をまじまじと観察し続ける。

 「いや、何してんだ……」

思わずといったように、僅かに空気を揺らす程度の声量で言葉を呟いた俺だが、次の瞬間には文字通り、息を殺していた。

 いや、息を殺されたといった方が正しいか。何せ俺が呟いた途端に女の視線が上に引き寄せられ、俺の瞳を射抜いたのだから。

 「そんなところで何をしているの?」

 明らかに聞こえる声量ではなかった。いや、もはや声量と形容できるほどの音ですらなかったはずだ。本当に空気を僅かに揺らすくらいのその程度の油断だったというのに……

早まる心臓を押さえつけるように、俺は木の上から降りて、その女に答えた。

 「あなたこそ何をしに此処へ?」

女の顔は予想通り整ってるものだったが、今の俺には森に迷った旅人を冥界に誘う死の妖精にしか見えなかった。

 「先に私が聞いたのだけれど?」

 「どちらにせよ、答える義理は無いでしょ?」

 「なら私も答える義理は無いわね」

 「その通りです。というわけで、これ以上の会話も無駄でしょう。先を急がさせてもらいますよ」

俺は何とかこの場を離れる口実を作り、女に背を向けて去ろうとする。

 すると、背後から女の声が聞こえた。

 「私はあなたに会いにきたの」

俺は耳に届いたその言葉を咀嚼し、味を吟味してから己の耳を疑った。

 「どういうことだ?」

俺は振り返り、女と対峙する。その鮮血のように赤い綺麗な瞳を見つめ返し、女の言葉を待つ。

 「そのままの意味。君を迎えにきたの」

 「俺の迎え? 頼んだ覚えはないが」

何だ、どいうことだ。この人は俺を知っているのか? もしそうだとしたら迷わず此処に来たのも説明がつくが、他に不自然なことが多すぎていまいち信用していいものかどうか。

 「頼まれてないからね。それに、いろいろ探ってるようだけど安心して。私達は初対面だから」

「今の言葉の中に安心できる要素一つもなかったぜ?」

明らかに俺目的で接近してきたのに、俺を知らないと言ったこの女の行動は謎に満ちている。現に今も女の真意を計りかねていた俺は慎重に言葉を選んだ。

 「最終的な目的は何だ。俺に接触して何を得ようとしている」

 「随分警戒してるね。まぁ無理もないか」

女は苦笑を浮かべてそう言うと、その大きな帽子を脱いでそれを腹の前で持った。

 「私は君に会いに来たの。この地より新たに生まれた英雄の残り者であるあなたに」

 「英雄……」

女の口から出た英雄という言葉が俺の中に妙に引っかかる。引っかかるだけじゃない。その言葉を聞いた途端、ぼんやりとある光景が脳裏に浮かんだ。

 炎のように眩く輝き世界を包む天に数多の影が向かっていくような、そんな光景。

 「……どういうことだ」

 「あなた、記憶が無いんでしょ?」

 「記憶が無い? 何故そう思う?」

動揺は見せない。そしてこの瞬間にこの女は俺の知らない俺自身のことを知っているのは確定した。

 冷静さを取り戻した俺は女を睨む。

 「だって、皆んなそうなのだからあなただけ例外だなんて考えにくいでしょ?」

 この女は確信している。俺がどういう存在なのか、そしてそれ以外のあらゆることも。 

 しかし、それと同時に女に敵意がないことも分かった。

 「……お前は、一体何者なんだ?」

 今までの会話の雰囲気から敵ではないと判断した俺は幾分か緊張を解いてそう聞いた。すると、女は僅かにその口角を上げてこう言った。

 「私は魔女だよ。英雄候補である君を見つけにきた、しがないただの魔女」

そうして優美な仕草でもう一歩近づくと、女はいう。

 「此処で話すのはなんだし、続きは私の家にしましょう?」

突然の提案に反射的に拒否してしまいそうになったが、このまま此処にいても確かに話は進まないだろう。だから、俺は内から沸き起こる好奇心に身を委ね、返事を返すことにした。

 「分かった。それじゃ魔女さんの世話になろうかな」

 


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