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7.思ってた『未来』の光景と違う気がする。

 本日からしばらく1日1話ずつ更新を目指して頑張ります。今回は区切りの都合でちょっと短めです。

「なんていうか……ずっと、森ですね」

 窓の向こうは深い緑と、幹の茶色、そして合間から零れる空の青色。

 そんな光景が、ずっと目の前を流れ続けている。

「そりゃあねー。この辺は前時代にも街とかも無かったみたいだし、現在の街道からも外れてるし」

 辛うじて昔の道が残ってるのはラッキーだったよね。助手席でキーボードを叩いていたユーニさんがこっちを振り返りながら言った。

 山間部ってティガーも言ってたもんなぁ。もっと鈍色に光る近未来的なビルの廃墟とかそれを飲み込む荒野とか、終末感溢れる外の景色を想像してたんだけど。

 そう心の中でだけ呟いて、車内をぐるりと一瞥する。

 運転席にはナナさんが、そして後部座席にいる俺の横にはフェリーチェが。多分元からこの配置で俺が転がり込んだ形なんだろう。整備なんてされていない道のはずだが、未来のタイヤの性能のおかげか覚悟していたような振動もほぼなく、案外快適だ。

 ――地下に埋もれていた、俺の眠っていた施設から脱出して、丸一日ほど。

 元は三階建てだったらしい建物の、半壊した三階の窓から脱出した俺の目に飛び込んできたのは、真っ青な空とところどころ草や若木に覆われた土と、それらをぐるりと囲む深い黒々とした森だった。

 施設が地中に埋もれたのは、地震による土砂崩れのせいだったようだ。とはユーニさんの言葉だ。

 サンダルの俺はナナさんに補助してもらいながらなんとか土の山から降りて、3人の乗ってきた車――見た目は軽バンとバンの中間くらいのサイズで、荒野を走るような厳つく大きいタイヤがついてるキャンピングカーのような――に乗せてもらい、此処から一番近い町へ向かっている真っ最中だ。

 車の内部は外から見たときより案外広くゆったりとしている。車高があるからか椅子も高めで、長時間座っていてもそれほど辛くない。

 車の前半分が座席、後ろ半分には色んな機材や道具がブロックゲームみたいに詰められている。よく見たら電子レンジとか冷蔵庫とか、俺でも分かるような電化製品が乗っていて、本当に『移動できる家』って感じだ。

 最初は初めての異世界(未来だけど)にどんな事が待ち受けているのかドキドキワクワクしていた俺も、ずっと続く森の光景にすっかり興奮は冷めて、座席にだらりと腰掛けていた。

 とはいえ、キャンプ的な非日常感は残っているのでどっちかというとこれは期待疲れな気がする。小さい子とかが電車の中ではしゃいで、現地に着いた時にはすでに疲れているアレだ。つまり俺は十年前から変わっていないわけだな。……なんてこった。

「この調子なら今日の夕方には街に着くから。そこそこちゃんとした街だから、今日は宿に泊まってゆっくり休めるんじゃないかな」

「あれ、もう着くんですか?」

 聞いていたより随分はやい気がする。

「ななちゃんがだいぶ飛ばしちゃってるからねぇ」

 動きが滑らかで静かなのと全く変わらないように見える森の景色のおかげで気付かなかっただけで、実際にはかなりのスピードを出しているらしい。

「トラジのその格好だとあまりにも適さないからね」

「わー! ナナさん前! 前!!」

「昨日も言ったけど、ほぼ自動運転だから大丈夫だよ。」

 くるりと此方を向いたナナさんに血の気が引いて反射的に叫ぶと、昨日と同じようにあっさり返された。

 いやそれは確かに聞いたけど、こっちは自動運転なんてまだ一般化されてない時代の人間なので不安要素の方がでかい。

 ちなみに自動運転とはいえ、緊急時には人が運転しないといけないから運転手は必要だし、こういった荒れた道では慣れた人間の方が自動運転よりも上手だったりするらしい。「だいぶ飛ばしてる」のが本当だとしたら、そんな道で滑らかに運転してるナナさんは多分めちゃくちゃ上手なんだろう。

「そういえば完全自動運転、じゃなくて『ほぼ』なんですね」

「平地の――見晴らしの良い場所なら、完全自動でも構わないんだけれどね。こういった場所だと障害物もだけれど、野生動物や……野盗が出たりするかもしれないからね」

「や、野盗!?」

 ファンタジーじゃないのに出るの!?

「ああ、そうか。キミの年代のニホンは世界有数の『安全な国』だったね。」

 ナナさん曰く、この辺りは街道から外れているし街も遠いから可能性はほぼ無いけれど、大きな都市へ行く途中の街道なんかにはそういったものが出没しやすいらしい。この車もそうだけれど、少人数で食糧や高性能機材など高価なものを積んでいる旅人の『車』は格好の標的なのだそうだ。

 まじかよ……思ってたよりファンタジー寄りの未来に愕然とする。そりゃあもしかしたら紛争地帯とかで生きてる人からしたら大したことない日常かもしれないけど、平和で安全な国出身の俺からしたら敷居が高い。生き延びれるのかな俺。

「トラジ、大丈夫! リーチェがまもってあげる!」

「ふふ、頼もしいねぇ」

 ……いや、普通は逆なのでは?

 華奢で可憐な美少女にえっへんと誇らしげに宣言されて、俺は返答に詰まった。

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